刑法(事後強盗罪)

事後強盗罪(1) ~「事後強盗罪とは?」「事後強盗罪の主体(犯人)は窃盗犯人に限られる」「暴行・脅迫の相手は、事後強盗の目的を遂げるのに障害となり得る者であれば誰でも該当する」を判例で解説~

 これから複数回にわたり事後強盗罪(刑法238条)について解説します。

事後強盗罪とは?

 事後強盗(刑法238条)は、

  1. 犯人が、窃盗罪の実行に着手したところ、未だ財物を奪取しないうちに発見されたので、逮捕を免れ、 あるいは罪跡を隠滅しようとして、相手方の反抗を抑圧するに足る程度の暴行・脅迫を加えた場合
  2. 窃盗犯人が財物を奪取したものの、その直後に発見されたので、財物を取り返されないため、あるいは逮捕を免れるなどしようとして、相手方の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫を加えた場合

に成立する犯罪です。

 上記①②のような行為は、強盗と大差がないにもかかわらず、財物奪取のために暴行・脅迫を用いてはいないことから、強盗罪(刑法236条)の構成要件を満たさず、強盗罪が成立しません。

 そこで、この強盗罪が成立しない穴を埋めるべく、事後強盗罪の規定を設けることで、上記①②のような行為も、強盗罪と同様の処罰ができるようになっています。

 なお、事後強盗罪は、窃盗犯人による一定の暴行・脅迫行為を窃盗、暴行・脅迫の各罪とは別の独立の罪とした上、強盗として取り扱うこととしたのであるから、事後強盗罪を適用する以上、窃盗罪(刑法235条)を適用する余地はなくなります。

『財物を得て』とは?

 刑法238条の「財物を得てこれを取り返されることを防ぎ」の『財物を得て』とは、

  • 窃盗犯人が、他人の占有を侵害して、財物を自己の事実的支配のもとに置いて財物の占有を侵奪し終えたこと

を意味します。

 また、『財物を得て』という状態は、犯人が財物を自ら所持している場合に限らず、窃盗をともに実行した共犯者が窃取した財物を所持していることにより、暴行・脅迫に出る者の事実的支配下に財物が置かれている場合でもよいです。

 この点について判示した以下の判例があります。

福岡高裁判決(昭和42年6月22日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法第238条にいう「窃盗財物を得て」(捕捉:旧法の記載表現)とは、犯人が自ら現に窃取した財物を所持していることを要せず、共にその場にある共犯者においてこれを所持している場合をも指す

と判示しました。

事後強盗罪の主体(犯人)は窃盗犯人に限られる

 事後強盗罪の行為主体(犯人)は、窃盗犯人に限られます。

 これは、事後強盗罪が、窃盗犯人が財物を取り返されまいとして、あるいは逮捕されまいとするなどして、被害者やその関係者に対し、暴行・脅迫を加えたことをもって、刑法上、強盗として取り扱うために設けられたものだからです。

 事後強盗罪における窃盗犯人には、以下の2つに分類できます。

① 財物を取り返されまいとして暴行・脅迫を加える場合の窃盗犯人

→この時の窃盗犯人は、すでに被害者から財物を奪取し終えた窃盗既遂犯であることを要する

② 財物を取り返されまいとする以外の目的(逮捕を免れる、罪証隠滅するなど)を持って暴行・脅迫を加える場合の窃盗犯人

→この時の窃盗犯人は、窃盗既遂犯であると未遂犯であるとを問わない

 この点について判示した以下の判例があります。

大審院判決(昭和7年12月12日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法第238条後段(説明:逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたとき)は、窃盗の既遂なることを必要とせず、その未遂の場合といえども、現場において逮捕を免れ、若しくは罪跡を隠滅するため、暴行又は脅迫を為したるときは、強盗をもって論ずるの法意なり

と判示しました。

窃盗犯人といえない者に事後強盗罪は成立しない

 事後強盗罪の主体は窃盗犯人に限るので、窃盗の実行の着手前の者のように、行為者が窃盗犯人とはいえないような場合には、その者が逮捕を免れるなどの目的で暴行・脅迫を加えても事後強盗罪は成立しません。

 この場合、暴行罪や傷害罪が成立するにとどまります。

 この点について判示した以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和24年12月10日)

 被害者Aの居宅に侵入したところをAに発見されたため、逮捕を免れるため、Aを突き飛ばして死亡させた事案で、裁判官は、

  • 刑法第238条の窃盗が逮捕を免れるため暴行脅迫を加えたという準強盗罪(現行:事後強盗罪)の成立には、犯人が少くとも窃盗の実行行為に着手したことを要するのである
  • しかして、窃盗の目的で他人の家に侵入しても、これだけでは窃盗の実行着手ではない
  • その着手というがためには、侵入後、金品物色の行為がなければならない
  • A方に侵入しただけでは、未だ窃盗の実行行為の着手とは認められない
  • 従って、右事実は準強盗(事後強盗罪)でなく、従ってAを現場で死に致しても強盗致死罪の成立がない
  • 単に傷害致死罪の成立があるだけである

と判示しました。

暴行・脅迫の相手は、事後強盗の目的を遂げるのに障害となり得る者であれば誰でも該当する

 事後強盗罪における暴行・脅迫の相手は、窃盗の被害者に限定されず、事後強盗の目的を遂げるのに障害となり得る者であればよいよいです。

 つまり、窃盗の被害者にかぎらず、

  • 窃取された財物を取り返そうとする者
  • 窃盗犯人を追跡して逮捕しようとする者
  • 窃盗犯人の行為につき、証拠を提供できる事情にある者(たとえば、窃盗犯人を特定する証拠を持っている者)

であれば、だれでも事後強盗罪の暴行・脅迫の相手になり得ます。

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