刑法(暴行罪)

暴行罪(6) ~「暴行を加えて傷害を負わせれば、傷害罪のみが成立する」「被害者の人数分だけ暴行罪は成立する」「公務執行妨害罪、強制性交等罪、強盗罪、脅迫罪、監禁罪、住居侵入罪との罪数関係(併合罪、観念的競合、牽連犯)」を判例で解説~

 暴行罪の罪数関係について説明します。

暴行を加えて傷害を負わせれば、傷害罪のみが成立する

 暴行を加え、その結果、傷害を負わせれば、暴行罪(刑法208条)は傷害罪(刑法204条)に吸収され、傷害罪のみが成立します。

 これは暴行が共同暴行(暴力行為等処罰に関する法律1条)の場合であっても同じです。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁決定(昭和32年12月26日)

 この判例で、裁判官は、

  • 暴力行為等処罰に関する法律1条1項の犯罪は、同条項列挙の罪の特別加重犯であるから、多衆の威力を示し又は数人共同して刑法208条の罪を犯し、よって人を傷害した場合は、刑法204条の罪のみが成立し、同法律1条1項の違反罪は成立しないものと解するを相当とする
  • されば、原判決が被告人の被害者A、B、Cに対する所為を一所為にして右両罪名に触れるものとしたのは失当である

と判示しました。

被害者の人数分だけ暴行罪は成立する

 暴行(又は傷害)を受けた被害者の数に応じて、暴行罪(又は傷害罪)の罪数が決まります。

 たとえば、Aを殴り、次にBを殴り、次にCを殴った場合、3つの暴行罪の犯罪事実ができあがり、3つ暴行罪は併合罪の関係になります。

 被害者の数による併合罪が成立するのは、暴行罪(又は傷害罪)が個人の身体を保護法益とするためです。

 ちなみに、1回の暴行で、A、B、Cの3人を同時に攻撃を加えた場合は、観念的競合として1個の暴行罪が成立します。

 併合罪の点について、以下の判例があります。

最高裁決定(昭和53年2月16日)

 この判例で、裁判官は、

  • 数人共同して2人以上にそれぞれ暴行を加え、一部の者に傷害を負わせた場合には、傷害を受けた者の数だけの傷害罪と、暴行を受けるにとどまった者の数だけの暴力行為等処罰に関に関する法律1条の罪が成立し、以上は併合罪として処断すべきである

と判示しました。

最高裁判決(昭和31年12月20日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人A、B、C、共同被告人Dの4名が犯意を共通し、共同して税務署員E、F、G、H、I、J、Kの7名に対し、各別にそれぞれ暴力行為等処罰に関する法律1条1項の違反行為を為し、よって右署員中E、J、Kの3名に対し各別にそれぞれ傷害を与えたような場合には、右3名を除いた他の4名の被害者に対する暴力行為等処罰に関する法律1条1項違反の犯罪が成立するのはもちろん、そのほか、右3名の被害者に対するそれぞれの暴力行為の結果たる傷害は、その原因たる違反罪の構成要件の外にあって、他の罪名たる傷害罪に触れ、右違反罪に吸収されないから、被告人A、B、C、共同被告人Dに対し右4名の被害者に対する暴力行為等処罰に関する法律1条1項のほか右3名の被害者に対する刑法204条に問擬(もんぎ)したのは正当である
  • そして、各被告人に対し、それぞれ4個の暴力行為等処罰に関する法律違反と3個の傷害罪が成立すること明らかである

と判示し、4個の暴力行為等処罰に関する法律違反と3個の傷害罪は、併合罪の関係になるとしました。

公務執行妨害罪、強制性交等罪、強盗罪などの粗暴犯との関係

公務執行妨害罪、強制性交等罪、強盗罪などの粗暴犯に暴行罪は吸収される

 暴行罪は、暴行を構成要件要素とする犯罪(公務執行妨害罪強制性交等罪強盗罪騒乱罪など)と吸収関係にあります。

 たとえば、警察官に暴行を振るって公務執行妨害罪が成立すれば、暴行罪と公務執行妨害罪の2罪が成立するのではなく、暴行罪は公務執行妨害罪に吸収され、公務執行妨害罪のみが成立することになります。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和2年2月17日)

 この判例で、裁判官は、

と判示し、公務執行妨害罪と暴力行為等処罰に関する法律第1条第1項の罪(集団暴行)の両罪は成立せず(両罪は刑法54条前段の観念的競合の関係にならない)、公務執行妨害罪のみが成立するとしました。

と判示し、公務執行妨害罪と暴力行為等処罰に関する法律第1条第1項の罪(集団暴行)の両罪は成立せず(両罪は刑法54条前段の観念的競合の関係にならない)、公務執行妨害罪のみが成立するとしました。

脅迫罪との関係

(1) 脅迫罪が暴行罪に吸収されるパターン

 暴行を加える旨を告知(脅迫罪)して殴打した場合、脅迫罪は暴行罪に吸収されます。

 暴行を加えた後、引き続き同内容の暴行を加える旨脅迫しても、その脅迫行為は暴行罪に包括されます。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判決(平成7年9月26日)

 暴行に引き続いて、さらに暴行を加える旨の脅迫行為をした場合には、その脅迫行為は暴行罪によって包括的に評価され、別罪を構成しないとしました。

 裁判官は、

  • 相手に暴行を加えた後に、引き続き、自己の要求に従わなければなお相手の身体等に同内容の危害を加える旨の気勢を示した場合には、その脅迫行為は、先の暴行罪によって包括的に評価されて、別個の罪を構成しないものと解するのが相当である
  • Aに対する本件脅迫は、被告人が、Aに加えた本件暴行に引き続き、「男のけじめをつけろ」と語気鋭く申し向けて、同内容の危害を同人に加える旨の気勢を示したものと認められるのであるから、本件脅迫は、別個の罪を構成しないものと解すべきである

と判示しました。

大審院判決(大正15年6月15日)

 この判例で、裁判官は、

  • 犯人が他人に対し、暴行を加えることを告知したる上、これを殴打したる場合においては、単に暴行罪をもって論ずべきものにして、脅迫罪の刑責を負わすべきものにあらず

と判示し、暴行を加えると脅して暴行を加えたのは暴行一罪であるとしました。

(2) 脅迫罪が暴行罪に吸収されず、暴行罪と脅迫罪の両罪が成立するパターン

 告知内容が、暴行より重大な法益侵害を内容としてなされた場合には、暴行罪と脅迫罪の両罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(明治44年11月13日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告は、Sに対し、板片をもってその頭部を殴打したるものにして、この行為により暴行罪成立し、然る後、撃殺すと言い、ピストルを向けて脅迫したるをもって、この行為により更に脅迫罪の成立を見るに至りたるものなれば、原審が暴行と脅迫との二罪に問擬(もんぎ)したるは正当なり

と判示し、殴った後にピストルで脅迫したのは、暴行罪と脅迫罪の両罪が成立し、両罪は併合罪の関係にあるとしました。

大審院判決(昭和6年12月10日)

 この判例で、裁判官は、

  • 犯人が他人に対し、その生命に危害を加えるべきこと告知し、かつ殺意あるにあらずして、これに対し暴行を加えたるときは、脅迫及び暴行の二罪成立す

と判示し、殺すぞと脅して暴行した事案で、脅迫罪と暴行罪の両罪が成立し、両罪は併合罪の関係にあるとしました。

東京高裁判決(昭和28年11月10日)

 手拳で殴打した後、叩き切ってやるぞと脅迫した事案で、裁判官は、

  • 被告人が、手拳をもってAの顔面顎下等を数回殴打し、その結果、同人の上唇部等に全治約1週間を要する裂創打撲傷を負わせ、更にその直後、同所で、同人に対し、後に手を回し、所携の刃物に手をかける様な態度をしながら「たたき切ってやるぞ」と申し向け、人に危害を加えかねない態度と気勢を示して脅迫したことを認めるのに十分である
  • 被告人の右所為は、手拳により殴打傷害を加えた後、更に別個の害悪を告知して、新に別の法益侵害に出でたものであるから、たとえ暴行傷害行為の直後、同所で脅迫行為がなされたものであっても、傷害罪のほかに脅迫罪が成立し、両者は併合罪の関係に立つものと解すべきものである

と判示し、害悪告知の内容が暴行とは異なり、暴行罪と脅迫罪の両罪が成立し、両罪は併合罪の関係にあるとしました。

最高裁判決(昭和30年11月1日)

 被害者を殴った後、川に投げ込むと脅迫した事案です。

 まず、弁護人は、脅迫罪と暴行罪は別個に行われたものであって、脅迫罪が暴行罪に吸収されると主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 弁護人引用の大審院判例(大正15年6月15日)の判示するように「犯人が他人に対し暴行を加えんことを告知したる上、これを殴打したる場合においては、単に暴行罪をもって論ずべきものにして、脅迫罪の刑責を負はしむべきものに非ず」と解すべきことは正にそのとおりである
  • しかし、さらに他の大審院判例(昭和6年12月10日)の判示するように、「告知したる害悪と現実に加えたる害悪と全く相異なる場合においては該告知にして脅迫罪の実質を具備する以上は、これを脅迫罪に問擬(もんぎ)すべく、実行による犯罪中に包括せられたるものと為すことを得ざるものとす」とする見解も今なお正当とすべきであって、右二つの判例はなんら相矛盾するものではない
  • 本件についてみるに、被告人の脅迫は、暴行の際に告知されたことは認められるが、暴行事実は「同女に出会うや、同人に対しその頭髪を引っ張り、更にその顔面を数回殴打する等の暴行を加え」というのであり、「お前は警察に訴えるつもりだったろう、お前みたいなものはこの辺におくわけにはゆかぬから川に投げ込む」という告知は、生命にも危害を加えるおそれある言辞であって、正に前記大審院判例(後者)にいう、告知した害悪と現実に加えた害悪と全く異なる場合に当たり、両者は別個独立の行為と解するを相当とする

と判示し、害悪告知の内容が暴行とは異なり、暴行罪と脅迫罪の両罪が成立し、両罪は併合罪の関係にあるとしました。

東京高裁判決(昭和61年3月27日)

 被告人が、バス運転手の被害者の肩を殴るなどの暴行を加え、被害者に「交番に行こう」と言われて立腹し、さらに、被害者の運転中のバスを鉄棒でたたいて脅迫した事案です。

 まず、弁護人は、

  • 被告人が所携の鉄棒でバスの運転席背部シートを叩いたのは、被害者Oに対する暴行行為の一部とみるべきものであって脅迫にはあたらず、仮にそれが脅迫にあたるとしても、先行する暴行の被害者と同一被害者を同一意思の発現のもとに時間的場所的に接着して脅迫したものであるから、これらを包括して一罪とすべきであるのに、原判決が被告人には暴行罪のほか脅迫罪が成立し両者が併合罪の関係にあるとしたのは、事実を誤認し法令の適用を誤ったものである

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 被告人は、普通貨物自動車(ジープ)を運転して走行中、自車と相前後して走行した大型乗用自動車(市営の路線バス)の運転手であるOの運転態度に腹を立て、交差点(以下第一現場という)に差しかかり、信号に従い停止した際、被告人車に続いて停止した路線バスのOに対し、「この野郎、もたもた走りやがって」などと申し向けて、運転席の窓の外からOのネクタイを引張る暴行を加え、更に右第一現場から約200メートル先の交差点(以下第二現場という)に差しかかり、再び信号に従って停止した際(路線バスも被告人車の後方に他の車両1台を間に置いて停止した)、またもOに対し、運転席の窓の外から帽子を投げつけたうえ、法被でOの肩部を殴打する暴行を加えたが、その際、Oから「交番に行こう」などと言われたことに一層腹を立て、自車に立ち戻り、その荷台から鉄棒1本(長さ約1.5m、直径約0.5cm)を持ち出し、これを手にして右路線バスの運転席に近付いたところ、これを見たOが身の危険を感じ運転席を離れて後部客席の方に退避するや、やにわに前同様運転席の窓の外から右鉄棒で運転席背部シートを2、3回叩いたりしたことが認められる
  • そうすると、被告人が鉄棒で運転席背部シートを叩いたのは、直接人の身体に向けられた有形力の行使とは認められないから、所論(※弁護人の主張)のように、これを被害者に対する暴行行為の一部であるということはできない
  • しかし、その際、被告人において被害者に対し、なんらかの言辞を用いて明示的に害悪を加うべきことを告知したと認めるに足りる的確な証拠は存在しないものの、被告人は、前示のように、人を殺傷するに足りる用法上の凶器を振い、被害者に向ける意図のもとに、同人がその直前まで坐っていた運転席の背部シートを右凶器で叩いたのであって、その行為の手段・態様や当時の周囲の状況など具体的事情を考慮してこれを客観的に考察すれば、被告人のこのような行為は、更に被害者の身体のみならず、生命に対してさえも害を加うベきことを暗に示したものと認めるに十分であり、もとよりそれは一般に相手方をして畏怖させるに足りるものと解されるから、明示的な害悪の告知を伴わなかったとしても、それが脅迫にあたることは明らかといわなければならない
  • そして、右の脅迫行為は、第一現場と第二現場の二度にわたる暴行後に、前記のような被害者の対応を契機として、更にそれ以上の害悪を被害者に加える意図を生じ、これに基づき新たに別個の法益侵害に出たものであるから、たとえそれが先行する第二現場の暴行行為に引き続きこれと同一場所で行われたとしても、暴行罪のほかにこれとは別個の脅迫罪が成立し、両者は併合罪の関係に立つものと解すべきである

と判示し、同一場所において同一被害者に対し引き続き行われた暴行と脅迫行為について、暴行罪と脅迫罪の両罪が成立し、両罪は併合罪の関係にあるとしました。

監禁罪との関係

 暴行が監禁の手段である場合は、暴行罪は監禁罪に吸収され、監禁罪のみが成立します。

 しかし、具体的状況によっては、監禁罪と暴行罪の両罪が成立(併合罪)する場合もあります。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和28年11月27日)

 この判例は、監禁中の被害者の言動に憤激して暴行脅迫を加えた事案で、監禁罪、暴行罪、脅迫罪を併合罪としました。

 まず、弁護人は

  • 本件被告人らの暴行脅迫の所為は、不法監禁罪の手段としてなされたものであるから、暴行脅迫罪は当然に不法監禁罪に吸収せられ、不法監禁の一罪のみが成立すべきものであって、不法監禁罪の他に更に暴行脅迫罪の成立する余地がない

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 被告人らの暴行脅迫の行為は、たまたたOの監禁中又はO及びPの監禁中に行われたものではあるけれども、右各行為は、O、Pらの逃亡を防ぐ手段としてなされた如き不法監禁の状態を維持存続させるために行われたものではないのであって、右両名の被告人らに対してなした詐欺的欺瞞的言動に憤慨、憤激のあまり、行われたものであることが認められるから、たとえ、被告人らの暴行脅迫の行為が不法監禁の機会になされたからといって、不法監禁のために、その手段としてなされたものということはできない

と判示し、暴行脅迫は、監禁自体の手段としてなされたものではないので、暴行罪・脅迫罪は監禁罪に吸収されず、暴行罪、脅迫罪、監禁罪がそれぞれ成立し、各罪は併合罪になるとしました。

住居侵入罪との関係

 暴行が住居に侵入するための手段になっている場合は、暴行罪と住居侵入罪は手段と結果の関係に立つとして、両罪は牽連犯の関係になり、一罪となります。

 この点について、以下の判例があります。

名古屋高裁金沢支部判決(昭和29年12月7日)

 この判例で、裁判官は、

  • 原審は、被告人の住居侵入並び暴行の各所為を認定し、これに対し刑法第130条第208条第45条前段第48条第2項等を適用し、住居侵入の罪と暴行とを併合罪の関係にあるものとして処断していることが明らかである
  • しかしながら、原判決挙示の証拠によれば、被告人は、被害者の許可なくして同人方に立ち入る際、同人もしくはその場に来合わせていた者に対し、暴行、脅迫を加えようとする決意を既に固めていたものであることを認めるに足りる
  • 従って、被告人の主観よりすれば、住居侵入罪は暴行の手段であったことが明らかのみならず、客観的立場から見ても、住居侵入と暴行との間には、通常手段結果の関係が存在すると考え得るから、これを併合罪として扱った原判決には、法令適用の誤りがあると言わざるを得ず、右の誤りは判決に影響するから、原判決は破棄を免れない

と判示し、住居侵入罪と暴行罪を併合罪と認定した一審の判決の誤りを指摘し、住居侵入罪と暴行罪は牽連犯の関係にあるとして、一審の裁判所に裁判のやり直しを命じました。

高松高裁判決(昭和38年2月25日)

 この判例で、裁判官は、

  • 住居侵入をした上、暴行の所為に及んだ場合、右2個の所為は通常手段結果の関係にあるから、刑法第54条第1項後段(牽連犯)を適用して科刑上一罪として扱わなければならない筋合である

と判示しました。

暴行罪(1)~(6)の記事まとめ一覧

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