刑事訴訟法(公判)

被害者特定事項の秘匿、証人等特定事項の秘匿を説明

被害者特定事項の秘匿、証人等特定事項の秘匿とは?

 ①被害者特定事項の秘匿、②証人等特定事項の秘匿とは、

公判において、被害者や事件関係者のプライバシー保護のため、被害者・証人等の氏名、住所などの人定事項を裁判の傍聴人に知られないように明らかにしないこと

をいいます。

 例えば、被害者が誰なのかを裁判の傍聴人に知られないように、被害者の氏名が知られないように呼称で呼ぶなどすることが行われます。

 以下で①、②にそれぞれについて詳しく説明します。

① 被害者特定事項の秘匿

 裁判所は、公判において、性犯罪などの事件(対象事件は後ほど説明)を取り扱う場合において、

  1. 被害者
  2. 被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合においては、被害者の配偶者、直系の親族、兄弟姉妹
  3. 被害者の法定代理人

から委託を受けた弁護士から申出があるときは、被告人又は弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、

被害者特定事項(被害者の氏名・住所など、被害者を特定させることとなる事項)

を公開の法廷で明らかにしない決定をすることができます(刑訴法290条の2第1項)。

 これを

被害者特定事項の秘匿決定

といいます。

対象事件

 被害者特定事項の秘匿決定が行われる対象事件は、

  1. 不同意わいせつ罪(刑法176条
  2. 不同意性交等罪(刑法177条
  3. 監護者わいせつ罪刑法179条1項
  4. 監護者性交等罪刑法179条2項
  5. 上記①~④の致死傷罪(刑法181条
  6. 児童に淫行させる罪(児童福祉法60条1項、34条1項9号に係る60条2項)
  7. 児童買春等の罪に係る事件(児童買春・児童ポルノ禁止法4条から8条)
  8. 上記①~⑦の事件のほか、犯行の態様、被害の状況その他の事情により、被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる事件

です。

被害者等による検察官への申出

 被害者特定事項の秘匿の申出は、まずは、被害者等から、検察官に対して行わなければなりません。

 検察官は、被害者等から申出を受けたら、裁判所に対し、意見を付して(例えば、「被害者特定事項の秘匿決定をすべき」などの意見)、申出があったことを裁判所に通知します(刑訴法290条の2第2項)。

裁判所の決定

 検察官から被害者特定事項の秘匿の通知を受けた裁判所は、被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしないことが相当と認めるときは、被害者特定事項の秘匿決定を行います。

被害者特定事項を明らかにしないで行われる公判手続

 被害者特定事項を明らかにしない方法で行われる公判手続として以下のものが挙げられます。

② 証人等特定事項の秘匿

 裁判所は、証人等(以下の①~⑤の者)の特定事項の秘匿決定を行う必要がある場合(詳しくは後ほど説明)において、

  1. 証人
  2. 鑑定人
  3. 通訳人
  4. 翻訳人
  5. 供述録取書等(供述書、供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるもの又は映像若しくは音声を記録することができる記録媒体であって供述を記録したもの)の供述者

から申出があるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、

証人等特定事項(証人等の氏名・住所その他の証人等を特定させることとなる事項)

を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができます(刑訴法290条の3第1項

証人等の特定事項の秘匿決定を行う必要がある場合とは?

 証人等の特定事項の秘匿決定を行う必要がある場合とは、以下の①、②の場合です。

① 証人等特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより、

  • 証人等
  • 証人等の親族

に対し、

  • 身体・財産に加害行為がなされるおそれがある
  • 畏怖させ、困惑させる行為がなされるおそれがある

と認める場合。

② ①の場合のはか、証人等特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより

  • 証人等の名誉、社会生活の平穏が著しく害されるおそれがある

と認める場合。

証人等特定事項の秘匿の申出は、証人等が裁判所に対して行う

 被害者特定事項の秘匿の申出は、まず被害者等が検察官に対して申出を行い、被害者等から申出を受けた検察官が、裁判所に対し申出を行うという規定でした。

 これに対し、証人等特定事項の秘匿の申出は、証人等が検察官に対して申出を行う規定になっておらず、

証人等が裁判所に対して直接申出を行う

ことになります。

 証人等から直接申出を受けた裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、証人等特定事項の秘匿の決定を行います。

証拠開示の際における被害者又は証人の特定事項の秘匿

 上記において、公判手続における被害者又は証人の特定事項の秘匿を説明したところですが、公判手続のほか、

検察官が被告人又は弁護人に裁判に提出する証拠を開示する際(証拠開示といいます)

においても、一定の場合に、弁護人に対し、被害者又は証人の特定事項が、被告人の防御に関し必要がある場合を除き、被告人その他の者に知られないようにすることを求めることができます(刑訴法299条の3316条の23)。

※ 証拠開示の説明は前の記事参照

裁判員等選任手続における被害者特定事項の秘匿

 裁判員裁判において、被害者特定事項の秘匿決定があった場合、裁判官・検察官・被告人・弁護人は、裁判員選任手続において、裁判員候補者に対し、正当な理由がなく、被害者特定事項を明らかにしてはいけません(裁判員法33条の2第1項)。

 被害者特定事項の秘匿決定があった事件の裁判員選任手続において、裁判員候補者に対し、被害者特定事項が明らかにされた場合は、裁判長は、裁判員候補者に対し、被害者特定事項を公にしてはならない旨を告知します(裁判員法33条の2第2項)。

 告知を受けた裁判員候補者又は裁判員候補者であった人は、裁判員選任手続において知った被害者特定事項を公にしてはならないという義務を負います(裁判員法33条の2第2項)。

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