刑法(総論)

監督過失とは? ~判例で解説~

 前回の記事では、過失犯について説明しました。

 今回は、過失犯に関連して、「監督責任」について説明します。

 会社の代表取締役や管理職の地位にいる人は、監督責任を問われると、刑事罰を受けることがあります。

監督過失とは?

 監督過失とは、

監督的地位にいる人の過失責任

をいいます。

 具体的には、

  • 設備の不備
  • 人的体制の不備
  • 人に対する指揮監督の不適切

が過失に結びついて過失犯となり、刑事責任を問われる場合をいいます。

 たとえば、自分が会社の管理職の立場にあり、部下が不祥事を起こしたときに、部下の監督責任を問われると、自分は何もしていないのに犯罪者になってしまう…ということが起こり得ます。

 実際に、どのような場合に監督責任を問われるかは、判例で理解するのが良いです。

「監督責任」が認められ、過失犯が成立した判例

最高裁判所 決定(平成2年11月16日)

事件の内容

  ホテルの火災事故において、ホテル経営者に業務上過失致死傷罪が成立するとされた事案

判決の内容

 裁判官は、

『ホテルで火災が発生し、火煙の流入拡大を防止する防火戸・防火区画が設置されていなかったため、火煙が短時間に建物内に充満し、従業員による避難誘導が全くなかったことと相まって、相当数の宿泊客が死傷した火災事故において、ホテルの防火防災の管理業務を遂行すべき立場にあった者には、防火戸・防火区画を設置するとともに、消防計画を作成してこれに基づく避難誘導訓練を実施すべき注意義務を怠った過失があり、業務上過失致死傷罪が成立する』

と判示しました。

 

最高裁判所 決定(平成20年3月3日)

事件の内容

 花火大会が実施された公園と最寄り駅とを結ぶ歩道橋で多数の参集者が折り重なって転倒して死傷者が発生した事故について、雑踏警備に関し現場で警察官を指揮する立場にあった警察署地域官と、現場で警備員を統括する立場にあった警備会社支社長に業務上過失致死傷罪が成立するとした事案

判決の内容

 裁判官は、

『上記のような事故の発生を容易に予見でき、かつ、機動隊による流入規制等を実現して事故を回避することが可能であった事実関係の下では、警察署地域官と警備会社支社長には、上記事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務を怠った過失があり、それぞれ業務上過失致死傷罪が成立する』

と判示しました。

「監督責任」が認められず、過失犯が成立しなかった判例

最高裁判所 判決(平成3年11月14日)

事件の内容

 デパートの火災事故につき、デパート経営会社の取締役人事部長、売場課長、営繕課員に業務上過失致死傷罪は成立しないとした事案

判決の内容

 裁判官は、

『防火管理業務を遂行するためには、デパート経営会社の代表取締役らの職務権限の発動を求めるほかはなかった以上、消防計画を作成してこれに基づく避難誘導等の訓練を実施すべき注意義務があるとはいえず、人事部長、売場課長、営繕課員の3名に業務上過失致死傷罪は成立しない』

と判示しました。

 

最高裁判所 決定(平成29年6月12日) 

JR福知山線脱線事故

事件の内容

 快速列車の運転士が、制限速度を大幅に超過し、転覆限界速度をも超える速度で列車を曲線に進入させたことにより列車が脱線転覆し、多数の乗客が死傷した鉄道事故について、鉄道会社の歴代社長らに業務上過失致死傷罪は成立しないとした事案

判決の内容

 裁判官は、

『事故以前の法令上、曲線に自動列車停止装置(ATS)を整備することは義務付けられておらず、大半の鉄道事業者は曲線にATSを整備していなかったこと、列車を運行する鉄道会社の歴代社長らが、管内に2000か所以上も存在する同種曲線の中から、特に本件曲線を脱線転覆事故発生の危険性が高い曲線として認識できたとは認められないことなどの事実関係の下では、歴代社長らに対し、ATSを本件曲線に整備するよう指示すべき業務上の注意義務があったとはいえない』

と判示し、歴代社長らに業務上過失致死傷罪は成立しないとしました。

まとめ

 監督責任が問われて、過失犯の刑事責任を負うかどうかは、ケースバイケースです。

 会社などで監督者の立場にある人は、過敏に反応しすぎるのは良くないと思いますが、刑事罰としての監督責任が問われる立場にあることは理解しておく必要があります。

過失犯に関する記事まとめ

  1. 過失犯とは? ~「故意犯との違い」「注意義務違反」「結果の予見可能性・回避可能性」を解説~
  2. 信頼の原則とは? ~過失犯との関係を判例で解説~
  3. 監督過失とは? ~判例で解説~

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