先行車に車で追従する際の注意義務
過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法5条)における「自動車の運転上必要な注意」とは、
自動車運転者が、自動車の各種装置を操作し、そのコントロール下において自動車を動かす上で必要とされる注意義務
を意味します。
(注意義務の考え方は、業務上過失致死傷罪と同じであり、前の記事参照)
その注意義務の具体的内容は、個別具体的な事案に即して認定されることになります。
今回は、先行車に車で追従する際の注意義務について説明します。
注意義務の内容
先行車に追従する際には、先行車が急に減速、停止しても、これに追突しないような速度と方法(安全な車間距離保持)で追従すべきであるとされます。
先行車が急に減速したり、急停止したために、これに追突した場合は、先行車の減速、停止理由を問うことなく、追突車側に、原則として過失があるとされます。
例えば、
- 先行車の前方に停車していた軽四輪車が突然発進し、先行車の進路前方に進出したため、先行車が急に減速した事案(東京高裁判決 昭和43年11月20日)
- 先行車が対向車と衝突して急停止した事案(東京高裁判決 昭和49年12月18日)
- 横断歩道でないところを横断し始めた者がいて、先行車が急停止した事案(大阪高裁判決 昭和39年9月14日)
について、先行車が急に減速、停止しても、これに追突することのないような速度と方法で追従すべきであったとし、先行者に追突した後行車に対し、過失ありとしています。
とはいえ、先行車に追突した場合でも、死傷の結果と追突した行為との間に因果関係がなければ、死傷の結果について責任は問われず、事故と結果に因果関係なしとして過失運転致傷罪は成立しません。
先行車が、交差点の歩行者との衝突を避けるため、急制動の措置をとった場合に、後行車が先行車との追突を避ける注意義務
先行車が、交差点の歩行者との衝突を避けるために急制動の措置をとったなどの場合に、後行車には、先行車との追突を避ける注意義務が課せられます。
例えば、
- 先行車が交差点内で急制動の措置をとった事案(最高裁決定 昭和57年12月16日)
- 先行車が交差点を直進すると思って進行していたところ、先行車が減速した事案(広島高裁岡山支部判決 平成元年7月5日)
- 先行車が右折の合図をしていたので、交差点で右折すると思い、 自分も右折しようとしたところ、先行車が右折を思いとどまり停止した事案(東京高裁判決 昭和46年2月8日)
における追突事故について、先行車に追突した後行車の過失が認められています。
先行車が、道路上に障害物を認めて減速した場合に、後行車が先行車との追突を避ける注意義務
上記の交差点の事案と同様に、先行車が、道路上に障害物を認めて減速したなどの場合に、後行車には、先行車との追突を避ける注意義務が課せられます。
後行車は、先行者との車間距離を十分にとり、先行車が急停車することがあっても、追突を避けることができるように備えておかなければなりません。
例えば、以下の事例があります。
東京高裁判決(昭和52年5月11日)
自動車専用道路において、先行車(冷凍車)が前方に障害物を認め減速したところ、後行車が先行車に追突した事案で、裁判官は、
- 自動車専用道路上を走行する運転者が、先行車の前方の交通状況を把握しえないまま、盲目的に前車を追随すれば足りるとするいわれはない
- 先行する冷凍車の前方の状況を確認できるように、通常の場合以上に車間距離を長く保たなければならないことは当然である
とし、冷凍車に追突した後行車の過失を認定しました。
東京高裁判決(昭和40年12月8日)
後行車が、十分な車間距離を保たずに先行車に追従中、先行車が急停車するなどしたので追突を避けようとして右転把したところ、後行車が対向車と衝突した事案で、後行車に過失ありとしました。
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