過失運転致死傷罪

過失運転致死傷罪(22)~「道路脇で佇立中、作業中の者の横を車で通過する場合の注意義務」を判例で解説~

道路脇で佇立中、作業中の者の横を車で通過する場合の注意義務

 過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法5条)における「自動車の運転上必要な注意」とは、

自動車運転者が、自動車の各種装置を操作し、そのコントロール下において自動車を動かす上で必要とされる注意義務

を意味します。

 (注意義務の考え方は、業務上過失致死傷罪と同じであり、前の記事参照)

 その注意義務の具体的内容は、個別具体的な事案に即して認定されることになります。

 今回は、道路脇で佇立中、作業中の者の横を車で通過する場合の注意義務について説明します。

注意義務の内容

 道路脇で佇立中の者や、作業中の者の横を車で通過する場合には、それらの者と接触・衝突しないように、安全な間隔を保持し、徐行して進行して通過する義務が課せられます(高松高裁判決 昭和41年2月9日)。

 道路状況からして、安全な間隔を保持するととが困難な場合において、佇立者が幼児、酩酊者などであれば、状況によりいったん停車して、それらの者を安全な場所に避難させるべきとされます(東京高裁判決 昭和29年12月2日)。

 被告車に同乗者があれば、同乗者に佇立者の状況を注視の上、誘導させるべきとされます(東京高裁判決 昭和35年2月18日)。

被告人の過失が否定された事例

 上記のような注意義務を実行しても、相手に過失があれば、被告人の過失が否定される場合があります。

① 道路脇の商店で、店の者Aと立ち話をしていた者B(成人)が、店の者Aは被告車の接近に気付いていたのに、立ち話をしていた者Bは不用意に道路上に出て、被告車とBが接触した事案で、被告人の過失を否定しました(仙台高裁判決 昭和45年5月11日)

② 被告車が停車中に、被告人に因縁をつけた相手が、被告車に発進を促す合図をしたので発進したところ、相手が再度被告車を停車させようとして、2、3歩踏み出し衝突した事案で、被告人の過失を否定しました(仙台高裁秋田支部判決 昭和46年1月26日)

③ 道路脇に停車中の車両の側で、荷締めなどの作業中の者の横を通過する場合には、原則として、少なくとも1メートル以上の間隔をとって通過すべきであろう、しかし、締めていたロープが切れ路上に転倒した者を轢過したような場合には、1メートル以上の間隔をとっていなくても、ロープが切れて転倒することは予測不可能であるとして、被告人の過失を否定しました(東京高裁判決 昭和44年1月31日)

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