刑法(横領罪)

横領罪(13) ~「横領罪のおける『他人の物』とは?」「共有物も『他人のもの』となる」を判例で解説~

横領罪のおける「他人の物」とは?

 横領罪(刑法252条)は、

自己の占有する他人の物(刑法252条1項)又は公務所から保管を命ぜられた自己の物(刑法252条2項)を横領する行為を内容とする犯罪

です。

 今回は、横領罪の条文に記載れる「他人の物」について詳しく説明します。

 「他人の物」とは、

他人の所有に属するもの

を意味します。

 所有権の帰属の判断に関しては、学説では、必ずしも民法の所有権の見地に拘束されることなく、刑法の立場から考察されるべきとする意見があります。

 判例においても、建造物損壊罪で、建造物の所有権の帰属が争われた事案において、他人の所有権が、将来、民事訴訟等において否定される可能性がないということまでは要しないと解した上で、「他人の」建造物に当たるとしたものが(最高裁決定 昭和61年7月18日)があります。

 以下で紹介するほかの判例も、所有権の帰属の判断に関しては、必ずしも民法の所有権の見地に拘束されることなく、刑法の立場から考察されるという考え方であることが読み解けます。

共有物も「他人のもの」となる

 共有物の共有者は、それぞれの持分の限度で共同して権利を有しており、その一人が共有物全体を横領した場合には、他人の権利を侵害するという点において、他人の所有物を横領したものと変わりはありません。

 なので、「他人の物」には、共有物(横領犯人と横領被害者との共有物)も含まれます(大審院判決 明治44年4月17日)。

 参考となる判例として、次のものがあります。

大審院判決(昭和元年12月25日)

 この判例は、漁業組合の共有に属する養殖の真珠貝を組合員の一人が不正に領得して自己の単独占有に移した場合には横領罪となるとしました。

最高裁決定(昭和32年12月19日)

 個人商店の経営者が、株式会社を設立するために出資された資金等によって工場を建設し、創立総会が開かれ、出資者らも定款発起人として署名捺印して、公証人の認証を受けるなどした上で、株式会社の商号を用いて事業が行われていたが、株式会社の設立に至らないまま当該工場を自己の私的債務弁済のため売却した事案で、裁判官は、

  • 商法上の匿名組合商法536条1項により匿名組合員の出資は営業者の財産に属するとされる)ではなく、民法上の組合関係(民法668条により組合財産は組合員の共有に属するとされる)を認めるべきである

として、共有財産である工場の売却が横領罪に当たるとしました。

秋田地裁判決(平成18年7月14日)

 米穀生産者らから、農業協同組合、農業協同組合から全国農業協同組合連合会(全農)に売渡委託契約に基づき出荷された米穀に関し、全農が売渡委託を受けた米穀を生産者ごとに管理しておらず、出荷後の個々の米穀の所有者を特定することができなくとも、各寄託者は混合物に対する共有持分権を取得しており、その米穀は生産者らの所有に属するとしました。

 そして、全国農業協同組合連合会の県本部幹部職員らが、農業協同組合からの再委託によりこれら組合の組合員らから売渡委託を受けて保管中の玄米を、同連合会の関連会社の用途に充てる目的で、同会社から米穀卸業者に売却させて費消した行為は、業務上横領罪に当たるとしました。

最高裁決定(昭和43年5月23日)

 共有者の依頼により売却した共有不動産の売却代金は、特約又は特殊の事情がない限り、不動産の共有者との共有になり、その売却代金の領得行為は横領となります。

 この判例で、裁判官は、

  • 他人との共有にかかる土地を、その依頼により、表面上、単独所有者として第三者に売り渡した者が、その第三者から受領した代金は、特約ないし特殊の事情の認められないかぎり、その他人との共有に属するものと解すべきであるから、被告人の所為は横領罪に当たる

と判示しました。

大審院判決(昭和6年12月10日)

 この判例は、自己ほか数十名が共有する土地の売却代金につき、共有財産管理委員として、その金員を保管中に、自己の用途に費消した場合には横領罪となるとしました。

大審院判決(大正13年2月13日)

 この判例は、他の者との共同営業のため匿名組合員から出資を受けて交付された金銭は、共同営業者との共有に帰し、これを自己の用途に費消することは横領罪となるとしました。

大審院判決(大正12年8月1日)

 この判例は、株式会社設立のために株式引受人が払い込んだ証拠金及び払込金は、発起人団体の共有であって、発起人の一部が自己のためにこれを処分したときは横領罪を構成するとしました。

大審院判決(大正13年2月4日)

 地方新聞紙の発行人が、他の共同経営者らとの共有に属する国庫債券を、その新聞紙に関する保証金に充てて所轄地方官庁に納付した後、還付を受けてこれを費消した事案で、裁判官は、

  • 保証金の納付義務を負うと共に納付した国庫債券の還付請求権を有するのが発行人であるにしても、当該国庫債券の帰属に関しては、発行人の単独所有になるのではなく、共同経営者らとの共有に属したままである

として、横領罪の成立を認めました。

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