刑法(横領罪)

横領罪(56) ~「横領罪の罪数の判断基準」を判例で解説~

横領罪の罪数の判断基準

 横領罪(刑法252条)の罪数の判断基準としては、

など、いずれを要素とするかについて、見解が分かれています。

 横領罪の罪数については、個別の事案ごとに、事件の特徴に応じて判断がなされるというのが実態のようです。

 罪数の基準に関して判示した判例として、以下のものがあります。

大審院判決(明治45年3月28日)、大審院判決(大正3年12月22日)

 これらの判例は、

  • 共有物の横領で侵害されるのは、共有持分ではなく、共有される一個の所有権であり、その行為は一個の行為で一つの罪名に当たる

と判示し、横領被害者の所有権を罪数の基準とし、横領行為により1個の所有権を侵害すれば、1個の横領罪が成立する見解を示しました。

大審院判決(大正5年10月7日)

 この判例は、

  • 横領罪は、占有者が寄託関係の本旨に背き、その寄託関係を変更することを成立上の要素とするだけでなく、刑法252条2項は、所有権の侵害を包含しないのであるから、寄託関係を標準として、一個の行為により数個の寄託関係を犯す場合には、観念的競合となるが、包括的に単一である寄託関係を侵害する場合には、所有者が多数であっても単純一罪となる

と判示しました。

東京高裁判決(平成23年9月21日)

 この判例は、

  • 現金で受け取った預り金と、預金口座に振込入金された預り金の委託は一個であり、それぞれの預り金の各着服行為は、包括して一個の業務上横領となる

としました。

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