刑法(横領罪)

横領罪(2) ~「横領罪における占有とは?」「横領罪の成立を認めるには『委託信任関係』を要する」を判例で解説~

横領罪における「占有」とは?

 横領罪(刑法252条)は、

自己の占有する他人の物(刑法252条1項)又は公務所から保管を命ぜられた自己の物(刑法252条2項)を横領する行為を内容とする犯罪

です。

 横領罪における「占有」の意義について説明します(なお、占有の基本となる考え方は前の記事で説明しています)。

 横領罪における「占有」は、

事実的支配と法律的支配

を意味します。

 窃盗罪などの奪取罪における占有は、侵害の対象ですが、横領罪における占有は、

行為者がその状態を利用する対象

であって、その重要性は、

占有の排他力ではなく濫用のおそれがある支配力、すなわち、物の処分可能性

にあります。

 なので、横領罪における占有には、事実的支配のみならず、 法律的支配を有する状態をも含むのです。

 この点について、以下の判例で判示されています。

大審院判決(大正4年4月9日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法横領罪の規定にいわゆる占有とは、必ずしも物の握持のみを指すにあらず
  • 事実上及び法律上、物に対する支配力を有する状態を汎称するものとす

と判示しました。

最高裁判決(昭和35年12月13日)

 この判例で、裁判官は、

  • 横領罪における占有は、財物に対する事実的または法律的支配を指すものである

と判示しました。

 このように、横領罪における「占有」は、事実的支配のほか、法律的支配も意味することから、銀行に預金された金銭に対する預金者や、不動産に関する登記簿上の名義人も占有者になります。

 なので、たとえば、犯人が知人から預かり管理する知人の銀行口座から現金を引き出して奪った場合は横領罪が成立することになります。

占有を認めるにあたり、現に物を握り持つことを要しない

 占有を認めるにあたり、現に物を握り持つことを要しません。

 この点について、大審院判例(明治44年4月17日)において、占有の認定に関し、「刑法上の占有を認めるため、必ずしも現実的握持または監視を必要とするものではないことを表明する」旨判示しています

横領罪の成立を認めるには「委託信任関係」を要する

 「他人の占有から離れた物」を領得した場合は、占有離脱物横領罪刑法254条)が該当し、「他人が占有する物」を奪った場合は、窃盗罪刑法235条)、強盗罪刑法236条)、詐欺罪刑法246条)、恐喝罪刑法249条)により対処されることになります。

 これに対し、横領罪の対象物は、

他人から委託された物

です。

 なので、横領罪の成立を認めるには、横領の対象物が、

委託信任関係に基づく物

である必要があります。

 この点について判示した以下の判例があります。

東京高裁判例(昭和25年6月19日)

 被告人が、売却を依頼されていったん自宅で預かっていた短刀を、母親に叱られて返還したが、所有者以外の者が置き場所に困って被告人の家のくず箱の中へ入れていたのを発見して、再び売却を依頼されたものと誤解して売却し、その代金を費消したという事案で、

  • 売却依頼等の委託関係があると誤信していても客観的にそれがなかった場合には、本条の罪(遺失物等横領罪)が成立することはあっても、252条1項の横領罪は成立しない

としました。

 この判例は、遺失物等横領罪と252条の横領罪の関係について、

  • 物の占有の原因が、委任・事務管理・後見等の委託関係に基づくことを要するのが252条の横領罪である
  • そのような委託関係が存在しない場合、すなわち遺失物漂流物、誤って占有した物件、他人の置き去った物件、逸去した家畜等の場合には、 遺失物等横領罪が成立するのは別として、252条の横領罪は成立しない

と判示し、遺失物等横領罪と横領罪を区別する判断基準は委託関係であり、横領罪の成立を認めるに委託関係があることが必要であることを明示しました。

大審院判例(明治43年12月2日)

 被告人が銀行で小切手を換金した際、銀行給仕が他の客と間違えて、本来受け取るべき金額よりも多額の現金を被告人に交付したところ、被告人が受領後にこれに気付き、返還を拒否するなどして着服した事案で、横領罪ではなく、遺失物等横領罪が成立するとしました。

 契約その他占有者に保管の責任を生ずべき法律上の原因(つまり委託関係)に基づいて占有を始めたのでなければ横領罪に該当しないと判示したものです。

次回記事に続く

 次回記事では、横領罪の委託関係についてより詳しく説明します。

横領罪(1)~(65)の記事まとめ一覧

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