会社において職員が保管する資料を領得した場合、横領罪が成立する
会社において職員が保管する資料は、特別の事情がない限り会社の所有に属し、これらを勝手に社外に持ち出し領得する行為は(業務上)横領罪となります。
この点について判示した以下の判例があります。
神戸地裁判決(昭和56年3月27日)
この判例は、
- 会社の職員が職務のため会社から配布を受けた機密資料のたぐいは、原則として会社の所有に属する
- 業務遂行上の参考として閲覧するよう上司から指示を受け交付されたもので、配布先も限定され、極秘扱いとされていた機密資料を勝手に社外に持ち出し領得する行為は、業務上横領罪となる
としました。
東京地裁判決(昭和60年2月13日)
時期によって10名から30名程の人員によって構成された会社内のグループによって10年以上にわたり開発をしていたコンピューターシステムの設計書、仕様書、説明書、回路図等で自らが保管責任者となっていたものを勝手に社外に持ち出し領得する行為は、業務上横領罪となるとしました。
大阪地裁判決(昭和42年5月31日)
職員自身が、その職務のため、その地位に基づいて、自ら又は他の職員を使用して、会社の文献、資料用紙、器具機械等を用いて作成した資料・文献のようなものの一つであるファイル1冊を勝手に社外に持ち出し領得する行為は、業務上横領罪となるとしました。
受託者によって加エされた受託物を領得した場合、横領罪が成立し得る
民法上、動産に加工を加えた場合には、その加工物の所有権は材料の所有者に帰属するものの、材料の価格を著しく超える加工物となったときには、加工者が所有権を取得するとされています(民法246条1項)。
しかし、これは任意規定であるから、契約の趣旨によって所有権の帰属の判断がこの民法の規定と異なることがあります。
受託者によって受託物を加エし、加工した受託物を領得した場合に横領罪が成立するか否かについては、個別の事例ごとに判断することになります。
受託物を加エした後も、受託物の所有権は委託者にあるとした判例として、次のものがあります。
大審院判決(昭和6年6月13日)
製粉業者が依頼を受けて小麦を製粉した場合の小麦粉は、その価格にかかわらず依頼者の所有に属するとしました。
最高裁決定(昭和44年9月22日)
洋服の仕立業者が、注文を受けて仕立てのために注文者から預かった洋服生地に加工を加え洋服に仕立てたような場合には、その結果、著しく価格が増加しても、その所有権は注文者に帰属するとしました。