これから複数回にわたり、横領罪(刑法252条)と他罪との関係について説明します。
今回は、横領罪と
- 業務上横領罪
- 占有離脱物横領罪
- 封印破棄罪
との関係について説明します。
業務上横領罪との関係
業務上保管した金員と、個人的な委託に基づいて保管した金員とを混同して保管中、これらを横領した場合、業務上横領罪(刑法253条)のみが成立し、横領罪(刑法252条)はこれに吸収されます。
この点について、以下の判例があります。
この判例で、裁判官は、
- 組合の会計係が、組合の業務執行のための金銭と、組合員以外の村民の個人的な委任事務処理のための金銭を混同して一括保管していたところ、 これを連続横領したときは、業務上横領の一罪を構成し、別に単純横領罪が成立するものではない
と判示しました。
大審院判決(明治45年3月4日)
この判例で、裁判官は、
- 単純横領と業務上横領の犯意を継続して反復実行した場合には、包括一罪として業務上横領罪をもって論ずべき
と判示しました。
占有離脱物横領罪との関係
窃盗犯人からの委託により、盗品であることを知らないで運搬してこれを占有した者が、盗品であることを知った後に、不正に領得した場合は、占有離脱物横領(刑法254条)ではなく、横領罪となります(大審院判決 昭和13年9月1日)。
これは、盗品運搬の委託を受けた者に、盗品の占有がある状態で、その盗品を領得を実行しているので、自己が占有するものを領得したものとして、横領罪が成立するものです。
封印破棄罪との関係
封印破棄罪(刑法96条)とは、公務員の施した封印または差押えの標示を損壊し、またはその他の方法で封印または標示を無効にさせる罪です。
たとえば、財産の差押えにより、差押えの執行官が、差し押さえる車に差押済みの標示を貼ったとします。
この時点で、差押えを受けた車の占有は、車の持ち主から国に移転します。
そして、車の持ち主が、財産の差押えに抵抗して、この差押済み表示を損壊した場合、封印損壊罪が成立するとともに、国が占有する車の占有を奪ったとして、横領罪(刑法252条2項の横領罪)も成立します。
また、その場合の横領罪と封印破棄罪は観念的競合となります(大審院判決 大正4年3月4日)。
この点について以下の判例があります。
大審院判決(大正6年2月14日)
この判例は、封印標示の破棄や抹消行為により横領をした場合であっても、これらの行為は、法律上当然に刑法252条2項の構成要素中に包含されるものではないから、別途、封印破棄罪が成立するとしました。
この判例で、裁判官は、
- 被告人は、執行吏の委任により、代理占有保管中の仮処分の標示または封印を施した物件を、ほしいままにA株式会社に売り渡す契約をなし、これを判示場所から搬出し、判示B倉庫運輸株式会社C営業所に右A株式会社名義で預け入れたというのであるから、原判決が被告人の右所為につき、横領罪および封印破棄罪の成立を認めたのは相当である
と判示しました。
横領罪と他罪との関係の記事まとめ
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