法律(刑法)

詐欺罪⑫ ~「無銭飲食、無銭宿泊」「従業員が客と顔を合わせない営業システムのホテルへの無銭宿泊」「途中で詐欺の犯意を生じた場合の無銭宿泊」「黙示的な支払猶予の意思表示による無銭宿泊」を判例で解説~

無銭飲食、無銭宿泊

 無銭飲食、無銭宿泊による詐欺罪(刑法246条)について説明します。

 無銭飲食、無銭宿泊は、

  • 最初から支払意思がなかった場合(犯意先行型)
  • 最初は支払意思があったが、飲食・宿泊した後で支払意思がなくなった場合(犯意後行型)

の2つの類型に分けられます。

 犯意先行型の無銭飲食、無銭宿泊については、不作為によって人を欺く行為に当たるとする見解もありますが、挙動により積極的に人を欺く行為であると解するのが通説です。

 例えば、レストランで飲食物を注文して飲食する行為は、不作為の欺罔のようにも見えますが、注文の際には支払意思を伴うのが通常でなので、支払意思があるかのように装って注文するという作為による欺罔と解されます。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正9年5月8日)

 この判例で、裁判官は、

  • おおよそ料理店に至りて、飲食を為し、又は、旅人宿投宿するときは、特に反対の事情の存せざる限りは、飲食代金又は宿泊料を支払うをもって、取引上の一般慣例とするものなれば、飲食店又は旅人宿に在りては、飲食の注文又は宿泊の申し込みは、自ら代金又は宿料支払の暗黙の意思表示を包含するものと了解するを通例なりとす
  • 従って、注文者又は宿泊者が、支払の意思なきにかかわらず、その事情を告げず、人を欺く意思をもって、単純に注文又は宿泊を為すときは、その注文又は宿泊の行為自体をもって欺罔行為なりと認むるを当然なりとす

と判示し、支払意思がないのに黙って飲食・宿泊する行為自体を人を欺く行為と解しています。

東京高裁判決(昭和26年5月28日)

 この判例で、裁判官は、

  • おおよそ喫茶店飲食店又は料理店等において飲食する際、代金支払をするについて、店主と特別の関係あるか又は、あらかじめその了解を得るにあらざれば、飲食代金は即時払をなすべきものであることは社会通念上相当であって、客からあらかじめ支払について特別の意思表示のない限り、即時支払をなすものとして注文し、飲食せしめたものと認定するのを相当とする
  • 本件について、被告人と被害者との間に、代金の支払をするにつき、何ら特別の関係ありとは認められないのみならず、被告人があらかじめ代金の後払について何らかの意思表示をなしたことも認められないから、原判決が代金支払の意思がないのにあるように装い、飲食を提供せしめ、これを騙取したと認定したのは相当である
  • 代金の一部を支払ったとか、後日に至り、その一部の支払をなしたとか言うことは、本件犯罪の成立に影響がない

と判示しました。

仙台高裁判決(昭和28年11月30日)

 この判例で、裁判官は、

  • 飲食店で飲食するときは、特に反対の事情なき限り、飲食代金を直ちに支払うのが取引上の一般慣習であるから、たとえ後日相当期間内に支払う意思があっても、確実に支払い得る見込みがない等掛売のできるが薄いために、その事実を告げれば相手方が注文に応じないであろう場合にそれを告げずして飲食物を注文するが如きは、その行為自体人を敷く行為である

と判示しました。

最高裁決定(昭和30年7月7日)

 所持金がなく代金支払の意思もない被告人が、そうでないもののように装って、料亭A方で無銭飲食・宿泊した上、自動車で帰宅する知人を見送ると申し欺いてA方の店先に立ち出たまま逃亡した事案で、裁判官は、

  • 刑法246条2項にいわゆる『財産上不法の利益を得』とは、同法236条2項のそれとはその趣を異にし、すべて相手方の意思によって財産上不法の利益を得る場合をいうものである
  • したがって、詐欺罪で得た財産上不法の利益が、債務の支払いを免れたことであるとするには、相手方たる債権者を欺いて、債務免除の意思表示をなさしめることを要するものであって、単に逃走して事実上支払いをしなかっただけで足りるものではないと解すべきである
  • それゆえ、原判決が被告人の逃亡行為をもって代金支払いを免れた詐欺罪の既遂と解したことは失当である
  • しかし、本件にあっては、被告人は所持金なく、かつ代金支払いの意思がないにもかかわらず、宿泊・飲食したというのであるから、逃亡前、すでにAを欺いて、代金3万2290円に相当する宿泊・飲食などをした時に、刑法246条の詐欺罪が既遂に達したと判示したものと認めることができる

旨を判示し、逃走して支払を免れる行為ではなく、支払意思がないのに、黙って飲食・宿泊する行為自体を作為による人を欺く行為と解しています。

無銭宿泊

 無銭飲食の場合には、財物として飲食物を詐取するものなので、刑法246条1項の詐欺(1項詐欺)が成立します。

 これに対し、無銭宿泊の場合には、通常、飲食物などの財物の交付を受けるものではなく、宿泊サービスなどの利得を得るものなので、刑法246条2項の詐欺(2項詐欺)が成立します。

 なお、食事付きで無銭宿泊する場合は、1項詐欺と2項詐欺が競合的に成立し、包括して刑法246条の詐欺罪が成立します。

従業員が客と顔を合わせない営業システムのホテルへの無銭宿泊

 従業員が客と顔を合わせない営業システムをとっているホテルへの無銭宿泊につき、犯人の従業員に対する欺罔行為があったとして、詐欺罪が成立するかが問題になります。

 結論は、システムを使ったホテルへの無銭宿泊は、詐欺罪を成立させます。

 この点について、以下の判例があります。

大阪高裁判決(平成2年4月19日)

 この判例は、従業員がランプの点灯などにより、被告人の入室を確認したとして、作為による人を欺く行為を認め、詐欺罪が成立するとしました。

 犯人の弁護人は、

  • 本件ホテルは、不特定多数の者に対して、随時空室を提供しており、来客が客室を通過したときに、電気装置の作動により、管理人室のチャイムが鳴り、入室状況表示盤が点灯して、ホテル従業員において来客があったことだけを認識できるにとどまるものであるから、被告人が宿泊するためホテルに入室した行為をもって欺罔行為とすることはできないのみならず、ホテルの錯誤に基づく処分行為がなされたともいえないから、詐欺罪は成立しない

と主張しました。

 これに対し、裁判官は、

  • 本件ホテル(いわゆるモーテル)においては、利用客は、客室に入る際に従業員と顔を合わすことも、また、従業員に断ることもなく、開放された出入口からガレージを通り、自由に2階客室に上がってこれを利用することができ、利用後に管理人室に電話して料金を支払って退去すれば足り、直接従業員に対して客室利用の申込をするものではないが、ホテル側においては、ガレージシャッターの降下によるブザー音と各部屋を表示する赤色ランプの点灯、あるいは、客室入口ドアを開ける際のチャイムの音と赤色ランプの点灯によって、来客のあったことを確認することができ、その後、ガレージ2階上り口にあるドアに外から施錠するなどして、料金の支払を確保する手段をとるシステムになっているのであって、このようなシステムは、他人に顔を見られたくないという利用者の心理に配慮したに過ぎず、来客の出入りは、人目につかない方法で、通常のホテルと同様、常にホテル従業員において、これを把握し得る態勢にある
  • (よって、)本件ホテルにおいては、来客がガレージのシャッターを閉めたり、あるいは、客室に入った時点で、宿泊等の申込があり、ホテル側において客室に入った時点で、宿泊等の申込があり、ホテル側において客室の利用を許容したことをもって、これを承諾したものとみるのが相当である
  • 本件ホテルの客室利用契約の形態も一般のホテルの場合と同様に解すべきであり、本件ホテルがいつでも客が客室に入れるように開放しているのは、単なる申込の誘因に過ぎず、客としては客室に入る等の手段で契約の申込をし、それに対し客室等の利用を許すかどうかの諾否の自由があるホテル側において、その利用を許容することによって契約が成立するものと認めるのが相当である
  • 本件についてみると、被告人に欺罔行為があったことは明らかであり、また、従業員は、離れた場所にいるとはいえ、ランプの点灯等により、被告人の入室を確認し、被告人が宿泊や冷蔵庫内の飲食物の料金を退去の際に必ず支払ってくれるものと信じて客室の利用及び飲食物の飲食等を許容したものであるから、ホテル従業員の側における錯誤及びそれに基づく処分行為の存在も認めることができる
  • 以上によると、本件の場合も通常の詐欺と同様、欺罔-錯誤-処分行為-財物または財産上の利益の取得の一連の要件を具備しており、詐欺罪が成立する

と判示しました。

東京高裁判決(平成15年1月29日)

 この判例は、利用客が従業員と顔を合わせる必要がないように配慮した入室管理システムを使用したホテルの無銭宿泊事件について、入室行為をもって詐欺罪の欺く行為に該当するとした上、被告人が入室した時点で、従業員が入室の事実を確認していないが、その事実は了知可能な状態になっていたとして、詐欺罪の実行の着手に欠けるものではないとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は、本件ホテルでは従業員が機械装置により客の入室状況を把握していることを認識していた上、所持金がわずかしかなく、少なくとも宿泊代金を確実に支払う意思も能力もないのに、普通の客のような態度で、本件ホテルの入室システムに従って、客室に入っている
  • そうすると、このような被告人の入室行為は、従業員に対し、直接、口頭で宿泊を申し込むものではないが、機械装置による入室管理システムの背後にいる従業員に向けられた行為であり、しかも、これを知った従業員をして、入室した以上は宿泊代金を確実に支払うものと誤信せしめ、これに基づき、ホテル宿泊の利便という財産上の処分行為をなさしめる行為であるといえるから、詐欺罪の欺く行為に該当すると認められる
  • また、被告人の詐欺の犯意も肯定することができる
  • なお、被告人が客室に入室した時点で、フロント係のCは入室の事実を認識していないが、その事実は了知可能な状態になっていることに照らすと、詐欺の実行の着手に欠けるものではない

と判示し、詐欺罪の成立を認めました。

 なお、この判決は、錯誤に基づく財産的処分行為があった時点について、従業員が被告人の入室を確認した時点とし、不法利益の取得は、その時点から被告人が退室までの宿泊の利便であるとした点も注目すべき点になっています。

 つまり、詐欺の被害額(客室の利用額)は、被告人が客室に入室した時点から退室する時点までの利用時間の金額ではなく、従業員が被告人の入室を確認した時点から退室する時点までの利用時間の金額になると判示しました。

途中で詐欺の犯意を生じた場合の無銭宿泊

 飲食・宿泊の申込みの当初には、代金支払の意思があったが、宿泊を開始してから、所持金の足りないことに気づき、その時点で、それまでの宿泊料の全額不払の意思を固め、そのまま宿泊を続けた場合には、その決意の時以後の宿泊料について詐欺罪が成立します。

 その決意以前の分については、たとえ不払の意思を固めたとしても、それは債務不履行の決意をしただけのことなので、その後、新たな人を欺く行為によって相手方にその債務免除などの処分行為をさせなければ、詐欺罪は成立しません。

 このような宿泊を開始した後、料金不払の意思を生じ、料理店主や旅館主を欺く場合(犯意後行型)の詐欺罪の判例として、以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和31年12月5日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人は、宿泊する時、現金二千四、五百円及び為替で二千円ほど所持しており、宿泊料金を支払う考えであったが、翌朝、隣室の客の現金九千円あまりを窃取したので、すぐ逃げないと捕まる心配があって、宿泊料を支払わずに立ち去ったものであることが認められる
  • されば、被告人は、A旅館の女主人に対し、外出して夕方に返ってくるからと欺罔手段を施し、それにより錯誤に陥った女主人は、その際、当然即時なすべき宿泊料の支払請求をせず、すなわちその処分行為によって、被告人は、事実上、一時、宿泊料の支払を免れたものである
  • (別の旅館の無銭宿泊事件について)被告人は、B旅館には、以前2回ほど泊まったことがあり、当夜も現金一万円くらい所持しており、宿泊料を支払わない考えはなかったが、向かいの部屋の客の現金十四万円くらいを窃取したので、いつまでもそこにいることは危険と感じて宿泊料を支払わずに、すぐに逃走したものであることが認められる
  • されば、被告人は、B旅館の主人の代理人である女中に対し、外出してくるからと欺罔を施し、それにより錯誤に陥った女中は、その際、当然即時なすべき半宿料の支払請求をせず、すなわちその処分行為によって、被告人は、事実上、一時、半宿料の支払を免れたものである

と判示し、途中で無銭宿泊の犯意を生じた事案で、2項詐欺(刑法246条2項の詐欺)の成立を認めました。

黙示的な支払猶予の意思表示による無銭宿泊

 詐欺の欺罔行為は、明示的である必要はなく、黙示的なものであっても認められます。

 無銭宿泊の詐欺事案で、黙示的な一時支払猶予の意思表示を認めて、2項詐欺罪の成立を認めた以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和33年7月7日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法第246条第2項にいう財産上不法の利益の取得が債務の支払を免れたことであるとするには、相手方たる債権者を欺罔して、債務免除の意思表示をなさしめた場合たることを要することは所論のとおりであるが、その意思表示は、必ずしも明示たるを要しないものと解しなければならない
  • 被告人は、旅館を立ち去るに当たり、「今晩必ず帰ってくるから」と申し欺き、そのために、旅館主をして、被告人に対して請求し得べき宿泊料等の支払をさせなかったことが明らかであるので、この「支払の請求をさせなかったこと」は、とりも直さず、被告人が旅館を立ち去るに当たり、支払を即時にしなくてもいい旨、換言すれば、同旅館主において、被告人の支払を少なくとも一時猶予する旨の意思を暗黙に表示させたわけであり、しかも、この暗黙裡の意思表示が被告人の詐欺行為の結果によってなされたものである所からいって、被告人は刑事上の責任を負うべき筋合いである

と判示し、被害者が黙示的な一時支払猶予の意思表示をした事案で、2項詐欺の成立を認めました。