法律(刑法)

詐欺罪(91) ~他罪との関係⑧「犯人自身が占有する他人の物を詐欺的手段を使って横領した場合の横領罪と詐欺罪の成否」「横領罪した物を利用して財物を詐取した場合に、詐欺罪は不可罰的事後行為として成立しない事例」「不動産の二重売買は、最初の不動産の買主に対する横領罪を成立させる」を解説~

 詐欺罪と横領罪との罪数関係について、判例を示して説明します。

犯人自身が占有する他人の物を詐欺的手段を使って横領した場合は横領罪のみが成立する

 自己(犯人自身)の占有する他人の財物を横領する場合に、人を欺く手段を用いたとしても、横領罪のみが成立し、別に詐欺罪は構成しません。

 判例は、自己の占有する財物に関する限り、人を欺くことによる財物の移転・交付がないため、詐欺罪は成立せず、単に横領罪が成立するものと解しています。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正4年4月9日)

 この判例で、裁判官は、

  • 自己の占有する物については、騙取の観念を容れず
  • 故にこれを自己に領得するにつき、詐欺の手段を用いたればとて、横領罪の成立を妨げるものにあらず

と判示しました。

大審院判決(明治43年2月7日)

 この判例で、裁判官は、

  • 自己の占有する他人の財物を横領するにつき、詐欺手段を用いたる場合において、犯人が財産上不法の利益を得たりとするも、これ横領罪当然の結果にほかならざれば、別に詐欺罪を構成すべきものにあらず

と判示しました。

大審院判決(大正12年3月1日)

 この判例で、裁判官は、

  • 横領罪は、自己の占有する他人の物を自己の意思によって不正に領得するにより成立するものなれば、他人の財物の占有者が、その物を自己に領得する意思をもって、不実の告知をなし、よってその物の領得行為を完成したるときは、横領罪を構成し、その告知により他人を錯誤に陥れたりとするも詐欺成立することなし

と判示しました。

大審院判決(昭和8年10月19日)

 この判例で、裁判官は、

  • 他人の不動産の占有者が本人のために不動産登記簿上の名義人となれる第三者に対し、所有権確認登記抹消請求の民事訴訟を提起するが如きは、不正領得の意思を表現するにして、横領罪を構成するものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和11年10月19日)

 この判例で、裁判官は、

  • 保管中の財物を領得せんと企て、相手方を欺罔し、その保管の財物中より振替控除すべき旨の意思表示をなさしめ、予期の如くこれを領得したるときは、横領罪にして詐欺罪にあらず

と判示しました。

東京高裁判決(昭和27年10月28日)

 この判例で、裁判官は、

  • 詐欺罪の騙取というは、他人に欺罔手段を施し、錯誤に陥れ、よって同人より自己に財物を交付させること、換言すれば、他人の占有にある物を自己の占有に移させることを意味し、自己の占有に属する他人の物については、騙取の観念を容れる余地は存在しない
  • されば、自己の占有に属する物の場合には、その領得に仮に欺罔手段を用いたる場合といえども、横領罪の成立するは別格、詐欺罪を構成すべきものではない

と判示しました。

福岡高裁宮崎支部判決(昭和33年5月30)

 この判例で、裁判官は、

  • 詐欺罪の成立には、他人の占有中の物を自己の占有に移すという要件を必要とし、自己の占有するものに対する詐欺罪は成立する余地はない

と判示しました。

横領したものを利用して財物を詐取した場合に、横領罪と詐欺罪の両罪が成立する事例

 横領したものを利用して財物を詐取した場合は、横領罪と詐欺罪の両罪が成立する場合があります。

 たとえば、横領した郵便貯金通帳を利用して、郵便局員を欺いて払戻しを受けた場合について、郵便局員を欺いて金員を受領することは、貯金通帳の横領とは別個の新たな法益を侵害するものなので、郵便貯金通帳の横領罪のほかに詐欺罪が成立します。

 参考となる判例として、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和25年2月24日)

 詐取した郵便貯金通帳を利用して、郵便局員を欺いて貯金を引き出した事案で、裁判官は、

  • 騙取した郵便貯金通帳を利用して郵便局係員を欺罔し、真実名義人において貯金の払戻を請求するものと誤信せしめて貯金の払戻名義の下に金員を騙取することは、更に新法益を侵害する行為であるから、ここにまた犯罪の成立を認むべきであって、これをもって贓物(盗品等)の単なる事後処分と同視することはできないのである
  • 然らば原審が郵便貯金通帳を利用して預金を引出した行為に対し、詐欺罪をもって問擬(もんぎ)したことは正当である

と判示し、郵便通帳の詐取で1個の詐欺罪が成立し、その郵便通帳から現金を払い出した詐欺でさらにもう1個の詐欺罪が成立し、2つの詐欺罪は併合罪になるとしました。

 この判例は、詐取した郵便貯金通帳の事案ですが、横領した郵便貯金通帳の事案であったならば、横領罪と詐欺罪の2罪が成立することになります。

横領罪した物を利用して財物を詐取した場合に、詐欺罪は不可罰的事後行為として成立しない事例

 横領罪した物を利用して財物を詐取した場合に、詐欺罪は不可罰的事後行為として成立しない場合があります。

 たとえば、他人が落とした鉄道乗車券を拾って横領(着服)し、自分のものように偽って使用した場合は、横領罪のみが成立し、詐欺罪は成立しません。

 この点について、以下の判例があります。

東京地裁判例(昭和36年6月14日)

 他人が遺失した有効な乗車券を拾得して着服した後、その事実を秘して駅員に差し出し、乗車券の払戻しを受け、又は受けようとしたという事案で、裁判官は、

  • 他人の遺失した有効な国鉄乗車券を拾得して着服し、拾得したものでないように装い、その乗車券を用いて払戻しを受けた場合について、その乗車券は、単なる証拠証券である郵便貯金通帳と異なり、運送契約上の権利を化体している無記名乗車券で、拾得とともにその権利は拾得者に移転するものであり(それが有効である限り、鉄道当局は、その所持人が正当な権利者であるかどうかを調査する義務はなく、その所持人に対し、輸送又は払戻しをすれば免責されるという性格が認められる)、また、乗車券の払戻しを受けることは、社会通念上、乗車券の用法に従った処分方法であって、詐欺的行為がそれに随伴しても、詐欺をもって評価されるような新たな法益を侵害したといってよいような実質は認められないから、乗車券を拾得着服した遺失物横領罪をもって乗車券に関する法益の侵害はすべて評価し尽くされたものというべく、払戻しを受けるといった事後の処分行為は不可罰的事後行為と解すべきである

とし、横領罪が成立し、詐欺罪は成立しないとしました。

 遺失物等横領罪のような状態犯において、違法状態が継続する中で、領得した物に対して、さらに犯罪行為に該当するような行為をしても、犯罪が成立しない現象を

不可罰的事後行為

といいます(不可罰的事後行為については、前の記事でも詳しく説明しています)。

 なお、この判例に対しては反対説があり、異なる被害者に対する新たな法益侵害を伴うことから、詐欺罪の成立を認めてもよいとする説が近年の有力説になっています。

 この判例において、乗車券を拾得して着服した行為は、遺失物横領罪を構成し、乗車券を落とした被害者に対する法益侵害を発生させています。

 この後に続く、乗車券を払い戻そうとした行為は、詐欺罪を構成し、鉄道会社に対する法益侵害を発生させています。

 それぞれ発生させている法益侵害が異なるので、詐欺罪の成立も認めてもよいのではないかという考え方が近年の有力説になっています。

浦和地裁判決(昭和37年9月24日)

 この判例では、拾得横領した国鉄の無記名式乗車券を、拾得の事実を秘して駅員に差し出し、払戻しを請求した詐欺未遂事件につき、いわゆる不可罰的事後行為にあたるとして無罪を言い渡しました。

 裁判官は、

  • 有効な無記名乗車券を拾得した者が、これを着服すれば遺失物横領罪を構成する
  • これとともにその乗車券は、贓物たる性質を帯びることもちろんである
  • そして、有効な乗車券を用いて乗車し、又は払戻しを受け、あるいはこれを他人に譲渡することは、社会通念上、乗車券の用方に従った通常の使用、処分方法であって、遺失物横領罪がかかる所為に出ることは当初から当然に予想されるところであって、右所為は贓物の事後処分にすぎず、すでに当然に遺失物横領罪の構成要件によって包括的に評価されているものである
  • 従って、右使用・処分の際、詐欺的行為が伴い詐欺罪等の構成要件に該当するような外観を呈していても、右使用・処分行為は詐欺罪に当たる法益を侵害したとして更に評価しなければならないような実質のものではないから、いわゆる不可罰的事後行為として何ら犯罪を構成しないものといわなければならない
  • 従って、詐欺未遂の点は、被告人について遺失物横領罪が成立する以上、その不可罰的事後行為たるに過ぎない本件払戻未遂行為は罪とならないものである

と判じました。

東京高裁判決(昭和31年2月25日)

 この判例で、裁判官は、

  • 手形割引の依頼を受けた者が、割引により受領した金員をほしいままに自己の名義をもって預金するのは、特段の事情の存しない限り、 これを着服横領したものと認めるべきである
  • その後の預金引出しの行為は、被告人としては、その横領の当初から当然に予想したところで、銀行側としても預金名義人に払い戻したにとどまり、被告人に欺かれたため払戻しに応じたという関係にはないから、単にその横領行為の事後処分にすぎないものというべきである

とし、横領罪のみが成立し、詐欺罪は成立しないとしました。

横領罪の後に行った詐欺罪について、不可罰的事後行為ではないとして詐欺罪の成立を認めた判例

 上記の判例とは逆に、横領罪の後に行った詐欺罪について、不可罰的事後行為ではないとして詐欺罪の成立を認め、横領罪と詐欺罪の両罪が成立するとした判例があるので紹介します。

最高裁判決(昭和32年1月31日)

 供出米の検査に際し、俵から刺し取られる、いわゆる「刺米」を、いわゆる「匿名供出」として生産者から売渡しを委託された米であるかのように装い、政府に対し売渡しを申し込み、係員を誤信させた結果、その代金を預金口座に振り込ませて財産上の利益を得た事案です。

 裁判官は、

  • いわゆる刺米は政府の所有米であるから、これを政府に匿名供出することは、横領罪を構成するものであって、供出の結果、政府から代金を取得しても、それはいわゆる事後処分であって、横領罪のほか別に詐欺罪を成立せしめるものではないというかも知れない
  • しかし、いわゆる匿名供出による米麦等の売渡しの場合は、特別多額な超過供出報奨代金(本件では普通供出米価格の3倍)を支払われるものであって、匿名供出は、この特別の利益を目的とするものであるから、本件のように他人の所有米を匿名供出する行為が、かりに一面において横領罪を構成することあるとしても、他面において詐欺罪を成立せしめること明らかであるといわなければならない

と判示し、横領罪のほか、詐欺罪も成立するとしました。

不動産の二重売買は、最初の不動産の買主に対する横領罪を成立させる

 不動産の所有権を他に譲渡しながら、登記名義が自己にあるのに乗じ、これを第三者に売却するいわゆる二重売買について、判例は、不動産の所有権が売買により買主に移転しても、登記簿上の所有名義がなお売主にあるときは、売主は不動産を占有するものであるとして、ここから横領罪の成立を認めました。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(明治44年2月3日)

 この判例で、裁判官は、

  • 売買により不動産の所有権買主に移転したるにかかわらず、登記簿上その所有名義が依然として売主(※犯人)に存するときは、不動産は売主(※犯人)において有効に処分し得べき状態にあるをもって、売主は刑法上、他人の不動産を占有するものとす

と判示し、不動産の二重売買において、不動産は犯人が占有にあるため、その不動産を更に第三者に売却した場合は、詐欺罪ではなく、横領罪が成立するとしました。

大審院判決(大正11年3月8日)

 この判例で、裁判官は、

  • 虚偽の意思表示により、登記簿上、不動産の所有名義を有する者は、横領罪に関しては、その不動産の占有者なり
  • 他人の不動産につき、登記簿上、所有名義を有する者が、ほしいままに、これを自己債務の担保に供したるときは、不正領得の意思を発現したるものとす

と判示し、横領罪が成立するとしました。

大審院判決(昭和7年3月11日)

 この判例で、裁判官は、

  • 既登記不動産につき、売買契約成立し、未だ所有権移転の登記を了せざる限り、当事者間その登記に要する書類の授受ありたると否とを問わず、売渡人が更にその不動産を第三者に売り渡すときは、横領罪を構成す

と判示しました。

最高裁判決(昭和30年12月26日)

 この判例で、裁判官は、

  • 不動産の所有権が売買によって買主に移転した場合、登記簿上の所有名義がなお売主にあるときは、売主は、その不動産を占有するものと解すべく、従って、いわゆる二重売買においては横領罪の成立がみとめられるとする趣旨は、大審院当時繰り返し判例として示されたところであり、この見解は今なお支持せられるべきものである
  • 本件について、被告人が山林をAに売却したのであるが、なお登記簿上被告人名義であるのを奇貨とし、右山林をさらにBに売却したというのであるから、原審が横領罪の成立を認めたのは相当であって、なんら誤りはない

と判示しました。

最高裁判決(昭和33年10月8日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人が、本件不動産をAに二重売買をした当時は、既にその所有権は第一の買主Bに移転しておったものと認めるを相当とし、したがって被告人の本件所為を横領罪に問擬(もんぎ)した第一審判決を是認した原判決は正当である

と判示しました。

最高裁判決(昭和34年3月13日)

 この判例で、裁判官は、

  • 不動産の所有権が売買によって買主に移転した場合、登記簿上の所有名義がなお売主にあるときは、売主はその不動産を占有するものと解すべきことは当裁判所の判例とするところである
  • この理は、本件の如く、当該不動産を買主に引渡し、買主においてその不動産につき事実上支配している場合であっても、異ならない
  • 蓋し、登記名義人である売主は、右不動産を引渡した後においても、第三者に対し有効に該不動産を処分し得べき状態にあるから、なお刑法上、他人の不動産を占有するものに該当するものといわねばならない
  • それ故、本件不動産を売却し、所有権を移転した後、未だその旨の登記を了しないことを奇貨として右不動産につき抵当権を設定しその旨の登記をした所為を横領罪とした一審判決を維持した原判決は正当である

と判示しました。

福岡高裁判決(昭和47年11月22日)

 この判例は、不動産の二重譲渡においる第2買受人につき、横領罪の共犯の成立を認めました。

 単に二重譲渡であることを知りつつ買い受けたというのではなく、法律知識に乏しい売主に対し、執拗かつ積極的に働きかけて、二重譲渡の決意をさせて、これを買い受けるなどの事情があるときは、不動産の第2買受人は、横領罪の共同正犯を免れないとしました。

 裁判官は、

  • 不動産の二重譲渡の場合、売主であるAの所為が横領罪を構成することは明らかであるが、その買主については、単に二重譲渡であることを知りつつ、これを買い受けることは、民法第177条に照らし、経済取引上許された行為であって、刑法上も違法性を有しないものと解すべきである
  • しかしがら、本件においては、買主たる被告人は、所有者Mから買い取ることが困難であるため、名義人Sから買い入れようと企て、単に二重譲渡になることの認識を有していたのにとどまらず、二重譲渡になることを知りつつ、敢えてSに対し、本件山林の売却方を申し入れ、Sが二重譲渡になることを理由に右申入れを拒絶したにもかかわらず、法的知識の乏しいSに対し、二重譲渡の決意を生ぜしめるべく、借金はもう50年以上たっているから担保も時効になっている、裁判になっても自分が引き受けるから心配はいらないなどと、執拗かつ積極的に働きかけ、その結果、既にSをして被告人に本件山林を二重譲渡することを承諾させて、被告人と売買契約を締結するに至らしめたのであるから、被告人の本件所為は、もはや経済取引上許容されうる範囲、手段を逸脱した刑法上違法な所為というべく、Sを唆し、更に進んで自己の利益を図るため、Sと共謀の上、本件横領行為に及んだものとして、横領罪の共同正犯として刑責を免れないものというべきである
  • もし、このような場合にも、買主に横領罪の共犯が成立しないものとすれば、買主の積極的な働きかけによって既に横領の犯意を生じた売主のみが一人横領罪として処罰されることとなり、刑法的評価のうえであまりにも衝平を失することとなるのである
  • 従って、被告人に対し、横領罪の共同正犯の成立を認めた原判決は正当である

と判示しました。

参考事項

 不動産の売主が、第三者に対して、不動産がすでに売却済みである事実を秘して売却する行為について、詐欺罪が成立します(この点については前の記事参照)。

 その第三者との関係で詐欺罪の成立を肯定しうる場合には、第三者に売却済み不動産を売却した詐欺罪と、最初の不動産の買主に対する関係で成立する横領罪とは、観念的競合になると考えられます。