刑法(詐欺罪)

詐欺罪㉙ ~「国・県の予算の引出しに関する詐欺」を判例で解説~

予算の引出しに関する詐欺

 詐欺罪(刑法246条)について、国・県の予算に関する詐欺の判例を紹介します。

最高裁決定(昭和30年11月18日)

 県財務事務所長らが、虚偽の支払確定通知書と支払通知書を作成行使して、県支金庫係員を欺き、現金を交付させる方法により、同事務所の予算を現実化した場合に、それが予算上の一切の拘束を離れ、どんな用途にでも意のままに費消しうる違法な資金のプールを作る意図で行われたもので、単なる財政法規違反としての予算の流用ないし公金の移管の域にとどまるものと見ることができないときは、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人らは、予算上の一切の拘束をはなれて、交際費や接待費をふくむどんな用途にでも、まったく被告人らの意のままに支配費消しうる違法な資金のプールを作る意図で、…常時、大規模に予算の現金化を行ったものであって、単なる財政法規違反としての予算の流用ないしは公金の移管の域にとどまるものとみることはできないから、本件につき詐欺罪の成立を否定することはできない

と判示し、詐欺罪の成立を認めました。

名古屋高裁金沢支部判決(昭和27年5月27日)

 公務所であるM出張所の所長である被告人が、許容された権限の範囲内で行政上必要な使途に流用する目的で、虚偽の支払通知書を県支金庫係員に提出して、県の口座から金員を引き出した行為について、不法領得の意思を欠くとして、詐欺罪の成立を否定しました。

 裁判官は、

  • 被告人らが、K銀行県支金庫より金員を引き出したこと及び金員が全てM出張所勤務の同出張所臨時職員、自動車運転手らに対する通勤用列車定期パス代金又は同出張所が新聞、雑誌等に掲載した広告料金、同出張所の通信料金に充当支払われたものであることは争いのないところである
  • 人夫賃、新聞広告費は、いずれも予算上「」(※予算編成上の区分の名目)に該当し、相互に流用を許容されるものでること、人夫の雇用、その賃金の決定が出張所長たる被告人にその権限のあることが認められ、本件パス代金は臨時事務員らに支給する給与の一部をなすものであることが認められる
  • すなわち、本件金員の中定期パス代金に資された部分は、所長の権限内における職員に対する正当な給与に流用されたものであるから、これに対し、被告人らあるいは第三者のための不正領得の観念を挟む余地がない
  • また、本件新聞広告は、被告人ら個人に関するものではなく、公務所であるM出張所として通例許容せられている広告であり、通信料もまた同出張所の管掌事務遂行上必要なものであって、…不法領得の意思をもって臨むことはできない
  • K銀行県支金庫係員が、本件支払通知書中、架空の人夫賃を包含し、又は虚偽の人夫賃に関する支払通知書であることを知らずして本件各通知書に基づく金員を払い出したものであることは明らかであるけれども、本件の金員は県の予算金であり、これを許容された権限の範囲内における行政上必要な使途に流用の目的にて引き出し、その目的の通りしようとしたものであるから、本件につき業務上横領又は詐欺罪をもって律することは失当である
  • 結局、本件においては、公訴事実の訴因たる業務上横領又は詐欺罪を構成する事実を認め得られない

と判示し、業務上横領罪も詐欺罪も成立しないとしました。

高松高裁判決(昭和32年7月19日)

 県土出張所の正当な業務運営に必要な経費に充てるため、虚偽の書類を作成行使して、県金庫から現金を引き出した行為について、不法領得の意思を欠くとして、詐欺罪の成立を否定しました。

 裁判官は、

  • 県の出先機関である土木出張所の予算が不十分であるため、その業務運営に必要な金員を確保する目的で、同出張所管下で施行される県直営の土木工事につき、真実材料・運送費等を業者に支払うかの如く偽り、又はこれらの業者に支払うべき金額を偽った書類を作成し、これに基づいて金券の発行を受け、この金券を県金庫において現金化するような場合は、現金化されたもので、土木出張所の所長・出納員又はその管下の地区主任等又は形式上の請請求者である業者の私有物とするため現金化されたものではないから、依然その現金の所有権は県にあり、同現金は公金であると言わなければならない(昭和5年7月7日大審院判決参照)
  • この場合は、県所有の公金がその所在を変えたに過ぎないものと認むべきである
  • 県の出先機関である土木出張所の正当な業務運営に必要な経費に当てるため、その職員が同出張所管下の直営土木工事の材料代・運搬費等につき、あたかもそれらを業者に支払うものの如く偽り、又は支払うべき金額を多額に偽って、それらに関する書類を作成し、これらを利用して、県金庫から現金を引き出して、これを同土木出張所の正当な業務の運営に使うため保管しておく場合には、全く県の出先機関としての正当な業務完全に遂行するだけであって、その金員を不正に使用しようとする場合ではないから、不法領得の意思を欠き、文書に関する罪その他の罪が成立することはありうるが、詐欺罪は成立しないのである

と判示しました。

福岡高裁判決(昭和35年10月27日)

 県の土木部建設課長であった被告人が、課で使用している自動車がひどく損傷していていたため、自動車を買い替える費用を得るため、部下に指示し、同課が株式会社Tから自動車を借り上げた事実がないのに、あたかも自動車を借り上げ、自動車損料を支払うものの如く装い、同出張所員に、株式会社T所長名義の金額117万400円の架空の自動車損料請求書を県会計課に提出させ、県に117万400円の小切手を交付させた事案で、不法領得の意思を欠くとして、詐欺罪の成立を否定しました。

 裁判官は、

  • 冒頭説示の如き欺罔方法により、莫大な国家予算を不正流用して乗用自動車を購入せんとする如きは、財政法規違反の責はもちろん、著しく当を失するの誹りを免れない
  • しかし、さればといって、直ちに被告人が自己の利益を意図に出たものとは認め難く、かえって、乗用自動車が業務遂行上必要な物件であり、しかも被告人はこれを業務に専用する意図であった事実に鑑みれば、被告人の予算払出は、専ら本人である国のため業務を適正に遂行せんとする目的に出たものであり、金員を自己または第三者のため不正に使用せんとする意図は微塵もうかがわれないから、被告人の予算の引出については、不法領得の意思を欠くものというべく、従って、被告人の所為はこの点において詐欺罪を構成しないと断ずるのが相当である

と判示しました。

名古屋高裁金沢支部判決(昭和28年2月19日)

 ある川の河川調査に使役した者の賃金を、予算支出の形式的考慮から、他の川の河川調査に使役したように虚偽の記載をした請求書を係員に提出し、債権者に金員の交付を受けさせた行為について、不法領得の意思を欠くとして、詐欺罪の成立を否定しました。

 裁判官は、

  • 真実、石川県河港課の事業である管下犀川の桜橋下流附近の河川調査に使役せられ、石川県に対し原判示金額の人夫賃債権を有し、同債権に対する弁済として判示金額が判示債権者に支払われたものである以上、たとい県の担当係員において、その支払の手段として予算支出の形式的考慮から右人夫賃の請求書、並びにこれに対する認証書に、判示河原田川の河川調査に使役した人夫賃なる如く虚偽の事実を記載し、これに基き判示係員をして、判示の支払手続を取らしめたからといって、これにより判示債権者をして、判示金員を不法に利得せしめたものということは出来ない
  • すなわち、右債権者が石川県河港課の正常な業務に使役せられた合法的な人夫賃債権を有し、石川県がこれに対し、当然、弁済の責務を負担しているものである限り、その弁済の手続のためとられる県係員の作成文書において、当該債権の発生原因たる労務の給付場所について、予算上の考慮から事実と異る河川が記載せられ、これに基く県予算の支出により右債権額の弁済を受けたとしても、債権者において、右県係員の行為による何らの不法な利得を得る筋はない
  • 債権者の受ける利益は、単に同人の県に対し正当に有する債権額に相当する金額であり、かつ同人の意思は、正に同金額を右債権の弁済として受けることにあるからである
  • 従って、右弁済の方法として、判示虚偽内容の公文書を作成行使した被告人A1は同所為につき、公文書偽造行使の罪は免れ難いけれども、判示B1ほか5名を不法に利得せしめる領得の犯意を有すべき筋合がないものと云わなければならない
  • 然るに原判決が…被告人A1の判承所為に公文書偽造行使の罪のほかに詐欺罪の事実を認定したのは罪となる事実を誤認したものである

と判示し、詐欺罪の成立を否定しました。

東京高裁判決(昭和30年7月19日)

 工事用資材の数量単価を減少し、あるいは物件の使用料又は運搬費用を切り詰めて工事を施行したのに、その節約額を実際の工事費に加算し、示達された予算金額に合致させた支払通知書を県支金庫に提出し、金員を受領した行為は詐欺罪に当たるとしました。

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