法律(刑法)

詐欺罪⑱ ~「売買に関する詐欺」を判例で解説~

売買に関する詐欺

 詐欺罪(刑法246条)について、売買に関する詐欺の判例を紹介します。

登記事実を秘匿して財物を買い取らせる

大審院判決(大正13年4月7日)

 登記抹消請求の訴訟と予告登記があった事実を秘して、直ちに伐採しても支障がない山林である旨詐称して相手方を欺き、その立木を買い取らせることは、人を欺く行為であり、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 登記抹消請求の訴訟及び予告登記ありたる事実を秘し、何ら苦情なく、直ちに伐採するも支障なき山林なる旨詐称し、相手方を欺き、その立木を買い取らしめたるときは、詐欺罪は成立するものとす

と判示しました。

偽造文書を使用して財物を詐取

大審院判決(大正14年1月31日)

 洋服を注文した者が、代金残額を支払わないで洋服の引渡しを受けるため、他人名義の支払引受書を偽造行使して、相手方を錯誤に陥れ、引渡しを受けることは、人を欺く行為であり、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 洋服商に対し、洋服を注文したる者が、代金残額の支払いをなさずして、洋服の引き渡しを受けんがため、他人名義の支払引受書を偽造行使して、洋服商を錯誤に陥れ、よりて引き渡しを受けたるときは、その行為は詐欺罪を構成する

と判示しました。

転売目的を秘匿して財物を詐取

大審院判決(昭和9年2月8日)

 政府が産業組合員に対し、その経済的不安を緩和する目的のためにのみ、払下げをしている事情を知りながら、その実、米穀商に売却して利を得る目的で、産業組合員に対する飯米として供給を受けたい旨虚偽の事実を述べて、払下げの申込みをすることは、人を欺く行為であり、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 政府が産業組合に対し、安価なる飯米を供給し、組合員の経済的不安を緩和する目的のためにのみ、(飯米の)払下げをなすの事情を知りながら、産業組合に対する飯米として供給を受けたき旨、虚偽の事実を具して、(飯米の)払下げの申し込みをなし、政府を欺罔して、その所有米の払下げを受ける行為は、詐欺罪を構成す

と判示しました。

本来よりも多額の価格を告げ、差額を詐取

大審院判決(昭和14年11月21日)

 売買の斡旋をする際に、買主に対しては売主申出の売値よりも多額の価格を告げ、その代金で売買を成立させ、その差額金を詐取することは、人を欺く行為であり、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 他人より、ある物件買付方の依頼を受け、仲介料を得て売買の斡旋をなす者は、適当なる売主を物色し、その売値を聴きたる上、これを買主に告げ、もしその承諾を得るときは、買主に代わり、買受けの意思表示をなし、もって売主申出の売値にて売買を成立せしむるを通例とす
  • この場合、仲介者は買主に対し、売値を売主申立てのまま告知すべきはもとちろんにして、これよりも多額の売値を告げるが如きは許されざる所なりとす
  • 然るに、仲介者が買主より代金として支出さるる金員の一部を自己に領得せんと欲し、買主に対しては売主申し出の売値を秘し、これよりも多額の売値を告げ、これにあらざれば買取り難しき旨申し偽り、買主の承諾を得るや、これに代わり売主に対し、その申し出に係る売値にて買受ける旨を表示し、一面買主よりは売主申立ての売値を超過する金額を代金として受け取り、その内売主申し出の売値に相当する金額を同人に支払い、その余、すなわち差額を自己に領得するにおいては、仲介者は、畢竟、買主を欺罔して、右差額を騙取(詐取)したるものといわざるべからず
  • 蓋し、買主が売主申し出の売値のほか、これを超過せる金員を仲介者に交付したるは、同人の行為により買主が錯誤に陥りたる結果にほかならざればなり

と判示し、詐欺罪の成立を認めました。

名義を偽って財物を購入

東京高裁判決(昭和29年4月20日)

 代金支払の意思のない被告人が、もし買主が自分(被告人)であることが分かれば、相手方は売渡しを拒否するであろうことを知りながら、自己の名を隠し他人名義を利用して買受けの申込みをするのは、欺罔の一手段に当たるとし、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 取引において、買主が被告人と分かれば、相手方は売渡しを拒否するであろうことを知りながら、敢えて自己の名を秘し、他人名義を利用して買受けの申込みをするということは、単に道徳に反するのみならず、詐欺の一手段と認めるべきである
  • 被告人は、本件取引をするに当たり、自己の名を秘し、Aが買い受けるように仮装し、しかも165円で買い受けた太上コール天(織物)を、即日、被害者に対して、25円も安い140円で転売し、その代金は、同日から両三日内に、逐次支払を受けながら、自己の買受代金債務の支払に充てることなく、他の用途に支払ったのあるから、被告人は、当初から代金支払の意思がなかったものと認めるべきである

と判示し、詐欺罪の成立を認めました。

まだ買い取っていない他人の物を買い取ったと偽って金銭の交付を受ける

仙台高裁判決(昭和28年7月6日)

 他人の物を売買するに当たり、まだ買い受けていない事実を告げれば相手方が応じない場合に、すでに買い受けていると真実に反する事実を告げて、相手方を錯誤に陥れ金員の交付を受けたときは、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 他人の物を売買するに当たり、その物を未だ買い受けていない事実を告げれば、相手方において、これに応じない場合に、既に買い受けている旨真実に反する事実を告げて売却方を申し入れて相手方を錯誤に陥れ、よりて金銭を交付せしめたときは、その行為は、人を欺罔し、よりて財物を交付せしめたものであって、詐欺罪を構成する

と判示しました。

会社が倒産しても商品を購入し続けて財物を詐取

東京高裁判決(昭和57年9月20日)

 被告人が、会社組織を巧みに利用し、10か月間にわたり反覆継続して多数の商品を取り込み廉売し、それにより生ずる債務の消化に努力した形跡がなく、会社が倒産するや他の会社に多額の債務を承継させて同種の行為を繰り返すなどしたときは、到底通常の商取引ということはできず、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人らの行った営業活動なるものは、法人格のある会社組織を巧みに利用し、10か月間にわたり、反復継続して多数の商品を取り込み、これを廉売していたものであって、このような営業を継続すれば、債務が累積する一方であることは、極めて明白であるのに、被告人らがその解消に努力した形跡はいささかも認められない
  • かえって、会社が倒産するや、被害者らからの取立請求を免れるため、他の会社に多額の債務を承継させて同種の行為を繰り返すなど、最初から適正な利潤の追求を度外視していたものであるから、被告人らの行った本件所為は、到底通常の商取引ということはできない
  • このような本件犯行の動機、目的及びその態様、特に商品の仕入れ方法並びにその処分支払いの意思も能力もないのに、そのことを秘して、各犯行を敢行し、多数の商品を騙取するなどしたものと認めるのが相当である

と判示しました。

経営破綻を来すことを認識しながら顧客から金銭の交付を受ける

大阪地裁判決(平成元年3月29日)

 金地金先物取引などを営むT商事の役員である被告人らが、すでに経営が破綻を来たし、新たに顧客から金銭を受け入れても、もはや約定どおりの純金等の償還に充てるべき資金を準備しうる可能性はほとんどなく、純金等を約定期限に返還し、また約定どおり賃借金を支払うことができなくなるかもしれないことを認識し、更にはその見込みがないことを知りながら、それもやむをえないと暗黙のうちに意思を相通じ、従来から継続していた純金等の売買契約とファミリー契約を引き続き行うこととし、そのような事情を秘匿した上、T商事は優良堅実な企業であり、預託期間満了時には確実に純金等を償還するなどと申し向けて、これを信用した顧客から純金等の売買代金等名下に金員を受け取った行為について、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人らは、償還不能の状態に陥っていたことを認識・容認しながら、顧客のみならず、従業員らに対しても、T商事の経営が完全に破綻していて、新たに金銭を受け入れたとしても、もはや約定どおりの純金等の償還に充てるべき資金を準備しうる可能性がほとんどない実情にあることを秘匿しただけでなく、T商事の会社組織を利用し、営業社員らを督励して、積極的に顧客に対し、T商事は優良堅実な企業であり、純金等は安全確実な資産保有手段であるうえに、T商事との間で、純金等の売買契約と同時にファミリー契約を締結すれば、預託期間満了時には、約定どおり確実に純金等の値上がりと合わせて、二重の利益が得られるから有利な投資である旨申し向けさせて勧誘していたものである
  • T商事の前記実情に照らせば、右セールストークは、まさに真実に反した虚偽の事実を申し向けたものであり、その結果、本件被害者は、例外なく預託期間満了時において、確実に純金等の償還を受けられ、かつ、5年ものファミリー契約については、以後毎年契約相当月に15パーセントの賃借料の支払を受けられるものと誤信し、売買代金及び売買手数料等名下に、現金等をT商事の営業社員に交付したものである
  • そして、本件では、個々の勧誘行為において、セールストークの基本はすべて同じで、いずれも前記のとおりのものであったから、右セールストークは、本件詐欺の欺罔行為にあたるというべきである

と判示し、詐欺罪が成立するとしました。