刑法(傷害罪)

傷害罪(12) ~傷害罪における違法性阻却③「治療行為の違法性阻却」を判例で解説~

 前回記事では、傷害罪において違法性阻却事由となりうる「懲戒権の行使(監督者による罰)」について説明しました。

 今回の記事では、傷害罪において違法性阻却事由となりうる「治療行為」について説明します。

傷害罪における違法性阻却事由(治療行為)

 治療行為は、正当業務行為として、違法性が阻却されるため、傷害罪を成立させません。

 治療行為が違法性を阻却するとされるためには、

  • 正当な医療目的であること
  • 患者の同意又は推定的同意があること
  • 医学上一般に承認されている方法によること

が必要であるとするのが通説です。

 参考となる判例として、以下の判例があります。

東京高裁判決(平成9年8月4日)

 医師免許を有しない被告人が、美容整形手術と称して医行為(豊胸手術)を行い、被施術者を手術侵襲及び麻酔薬注入に基づくアレルギー反応によりショック死させたという医師法違反・傷害致死の事案です。

 裁判官は、無免許で、医学的にも必要の措置を講じないで行った豊胸手術について、被施術者の承諾が違法性を阻却しないとしました。

 なお、正当な医療行為と認められるものでも、 医療行為を失敗し、医師に過失が認められる場合、医療過誤による業務上過失致死傷罪として、過失責任が問われる場合はあり得ます。

治療行為による身体傷害が刑事裁判上問題となった事例

 治療行為による身体傷害が刑事裁判上問題となった事例として、以下の判例があります。

東京地裁判決(昭和44年2月15日)

 傷害に関する事案ではありませんが、性転換手術を行った医師に対し、優生保護法(現:母体保護法)28条違反の罪の成立を認め事案です。

 男娼から睾丸摘出、陰茎切除等の手術の依頼を受けて、生殖を不能にすることを目的として睾丸全摘出手術を行ったとの事実に対し、精神療法の効果のない性転向症者に対する治療方法として認め得る場合があるとの前提に立ち、これが認められる基準を示した上、本件手術については、現在の医学的常識からみて、正当な治療行為として容認するととはできないと判示しました。

大阪高裁判決(昭和52年12月23日)

 歯科医師が治療中に患者に対して暴行を加えた事案で、裁判官は、

  • 歯科医師が幼児の歯の治療に当たり、開口を拒否する患者の口を開けさせるため、実力を行使したとしても、治療行為に付随する正当な業務行為として刑法35条により違法性を阻却される場合がある
  • しかし、そのためには当該実力の行使が単に治療目的のためというだけでは足りず、その態様程度において社会的相当性の枠内にとどまるものであることをも必要とする
  • 治療の必要の緊急性、実力を用いるまでの説得努力が必ずしも十分ではなく、実力を用いるにしてもより軽度の手段で行うことができたのに、開口を拒否する患者(5歳)への立腹の情も加わり、付き添いの母親の承諾をも得ないまま、いきなり頬を2回にわたり平手で強打したのは、治療目的であっても、その態様程度において到底社会的相当性の枠内にあるものとは認め難く、刑法35条により違法性を阻却すべき場合には当たらない

と判示し、暴行罪の成立を認めました。

次回記事に続く

 次回記事では、「被害者の同意」に関する違法性阻却について書きます。