刑法(傷害罪)

傷害罪(26) ~他罪との関係②「傷害罪と汽車転覆等及び同致死罪、選挙妨害罪、住居侵入罪・不退去罪、凶器準備集合罪、脅迫罪、銃刀法違反との関係(観念的競合、併合罪、牽連犯)」を判例で解説~

 前回の記事では、傷害罪(刑法204条)と

  • 公務執行妨害罪
  • 恐喝罪

との関係について説明しました。

 今回の記事では、傷害罪と

  • 汽車転覆等及び同致死罪
  • 選挙妨害罪
  • 住居侵入罪・不退去罪
  • 凶器準備集合罪
  • 脅迫罪
  • 銃刀法違反

との関係について説明します。

汽車転覆等及び同致死罪との関係

 傷害罪と汽車転覆等及び同致死罪刑法126条)とは、観念的競合の関係になるとする以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和45年8月11日)

 人を傷害の犯意をもって、汽車又は電車を転覆させ又は破壊する行為は、傷害罪と汽車転覆等及び同致死罪の両罪に該当し、両罪は観点的競合の関係になるとしました。

 被告人が電車内で時限爆破装置を爆発させ、電車を損壊し、乗客を死傷させた事案で、裁判官は、

  • 刑法126条3項は、同条1項、2項の罪を犯しようとして人を死に致した行為を結果的加重犯として重く処罰する規定であるから(大正7年11月25日大審院判決参照)、致死の結果につき予見のある場合には、同法126条3項のほか、同法199条の適用があり、両者は一所為数法観念的競合)の関係に立つものと解するのを相当とする
  • もし、そうでないとすると、殺人の故意をもって、汽車、電車を破壊したが、殺人が未遂に終わった場合には、同法126条3項の罪には未遂の処罰規定がなく、その結果、同条1項によって罰せられるに過ぎない こととなり、明らかに不当である
  • しかるに、前記のように解釈すると、この場合は、同条1項と同法199条203条とに該当し、一所為数法(観念的競合)の関係に立つこととなり、その結果が妥当である
  • また、傷害の犯意(暴行の犯意の場合も同じ)があるに過ぎないときは、もとより126条3項包含されるいわれはなく、傷害の結果、発生の場合は同法126条1項と、同法204条とに該当し、一所為数法(観念的競合)の関係を生ずることまた当然であるから、原判決未必の殺意を認め、被害者Aに対する関係で刑法126条3項1項199条に該当するとし、被害者B外11名に対する関係で、同法126条1項199条203条に該当するとし、C外1名に対する関係では、未必の傷害の故意を認め、 同法126条1項204条に該当するとし、右はそれぞれ一所為数法(観念的競合)の関係にあるとして法律の適用をしたのは正当である

と判示しました。

選挙妨害罪との関係

 傷害罪と選挙妨害罪とは、観念的競合(選挙法に吸収されるとの主張を排斥)となるとした以下の判例があります。

大審院判決(大正13年6月5日)

 裁判官は、

  • 衆議院議員選挙法第92条第1項、第88条第1号の犯罪の成立要素たる行為は、他の罪名に触れざる程度の暴行脅迫をもって足るが故に、もしその暴行脅迫が一面公務の執行妨害傷害もしくは建造物損壊等といえども、他の罪名に触れる場合には、その行為は1個なるも、右選挙法違反罪成立すると同時に、これら諸種の罪名に触れるものとして処断されるべきである

と判示し、選挙を妨害するために行った傷害罪は、選挙妨害罪には吸収されず、傷害罪と選挙妨害罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合になるとしました。

住居侵入罪・不退去罪との関係

 傷害罪と住居侵入(刑法130条前段)との関係について、傷害罪を犯すために住居に侵入し、傷害罪を犯した場合は、住居侵入罪と傷害罪は、手段と結果の関係になるので、両罪は牽連犯の関係になるとしました。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(明治43年8月30日)

 裁判官は、

  • 本件家屋侵入の行為は、被告がYを殴打する手段として行われたるものにして、刑法第54条第1項により、傷害の行為と相合し、一罪として処分すべき

と判示しました。

 傷害罪と不退去罪(刑法130条後段)との関係についても、傷害罪と住居侵入罪と関係と同様に、両罪は牽連犯の関係になります。

 この点は、以下の判例で示されています。

大審院判決(大正4年4月29日)

 裁判官は、

  • 人の住居を侵害して、その者に傷害を加えるにおいては、住居侵害は傷害の手段に属し、独立の犯罪を構成せず、住居の侵害が侵入にあると不退去にあるとにより異同あることなし

と判示し、傷害罪と不退去罪についても、牽連犯の関係になるとしました。

凶器準備集合罪との関係

 傷害罪と凶器準備集合罪刑法208条の2)は、併合罪になるとした以下の判例があります。

最高裁判決(昭和48年2月8日)

 裁判官は、

  • 凶器準備集合罪が個人の生命、身体または財産ばかりでなく、公共的な社会生活の平穏をも保護法益とするものであること(最高裁昭和45年12月3日参照)にかんがみれば、被告人の本件凶器準備集合の所為は、暴力行為等処罰に関する法律違反の所為に対する単なる手段とのみ評価することはできず、両者は通常手段結果の関係にあるというをえないものであるから、牽連犯ではなく、併合罪と解すべきである

と判示しました。

 この判例は、暴力行為等処罰に関する法律違反と凶器準備集合罪を併合罪と判示したものですが、暴力行為等処罰に関する法律違反と罪種が同じ傷害罪においても、併合罪になります。

 ちなみに、この判例の結論に対しては評価が分かれています。

 この判例は、加害の実行と傷害罪との罪質の相違を重視して、凶器準備集合の上、目的である加害行為に及んだ場合、両者は併合罪の関係に立つとしますが、凶器準備集合は、傷害等の準備行為であり、凶器準備集合において準備した凶器を使用して行った凶器準備集合の目的を実現した結果である傷害とは牽連犯の関係にあるとも考えられます。

 この点、牽連犯であると判示した以下の判例があり、これに賛成する学説も多いです。

大阪高裁判決(昭和47年1月24日)

 裁判官は、

  • 凶器準備集合と殺人未遂及び傷害とは、それぞれ順次、手段結果の関係にあるから、刑法54条1項後段により、それぞれ重い殺人未遂罪の刑に従い、処断する

と判示し、凶器準備集合罪と傷害罪は、手段と結果の関係にあるとして、併合罪ではなく、牽連犯の関係になるとしました。

脅迫罪との関係

 傷害罪と脅迫罪刑法222条)は併合罪の関係にあるとした以下の判例があります。

大審院判決(昭和6年12月14日)

 犯人が、懐中に手をいれて凶器を所持している旨を示して脅迫したため、被害者が危険を感じて犯人の右手をつかんだところ、犯人が被害者に咬み付き傷害を負わせた事案で、裁判官は、

  • 脅迫罪と、脅迫罪を犯すに当たり偶然に実行せられたる傷害罪とは、併合罪として処断すべきものとす

と判示し、脅迫罪を行った際に、脅迫罪とは別に偶然に傷害罪を犯した場合、脅迫罪と傷害罪とは併合罪の関係になるとしました。

東京高裁判決(昭和28年11月10日)

 犯人が拳で被害者を殴り、傷害を加えた後、更に携帯する刃物に手をかけるような態度をしながら「たたき切ってやるぞ」と申し向ける脅迫行為をした場合、傷害罪のほかに併合罪の関係に立つ脅迫罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人の所為は、手拳により殴打傷害を加えた後、更に別個の害悪を告知して、新たに別の法益侵害に出でたものであるから、たとえ暴行傷害行為の直後、同所で脅迫行為がなされたものであっても、傷害罪のほかに脅迫罪が成立し、両者は併合罪の関係に立つものと解すべきものである

と判示しました。

東京高裁判決(昭和61年3月27日)

 この判例は、同一場所において同一被害者に対し引き続き行われた暴行と脅迫とが併合罪の関係にあるとされた事例です。

 裁判官は、

  • 被告人は、普通貨物自動車(ジープ)を運転して走行中、自車と相前後して走行した大型乗用自動車(路線バス)の運転手であるOの運転態度に腹を立て、交差点(以下第一現場という)に差しかかり、信号に従い停止した際、被告人車に続いて停止した路線バスのOに対し、「この野郎、もたもた走りやがって」などと申し向けて、運転席の窓の外からOのネクタイを引張る暴行を加え、更に右第一現場から約200メートル先の交差点(以下第二現場という)に差しかかり、再び信号に従って停止した際(路線バスも被告人車の後方に他の車両一台を間に置いて停止した)、またもOに対し、運転席の窓の外から帽子を投げつけたうえ、法被でOの肩部を殴打する暴行を加えたが、その際、Oから「交番に行こう」などと言われたことに一層腹を立て、自車に立戻りその荷台から鉄棒1本を持ち出し、これを手にして右路線バスの運転席に近付いたところ、これを見たOが身の危険を感じ、運転席を離れて後部客席の方に退避するや、やにわに前同様、運転席の窓の外から右鉄棒で運転席背部シートを2、3回叩いたりしたことが認められる
  • そうすると、被告人が鉄棒で運転席背部シートを叩いたのは、直接人の身体に向けられた有形力の行使とは認められないから、これを被害者に対する暴行行為の一部であるということはできない
  • しかし、その際、被告人において被害者に対し、なんらかの言辞を用いて明示的に害悪を加うべきことを告知したと認めるに足りる的確な証拠は存在しないものの、被告人は、人を殺傷するに足りる用法上の凶器を振い、被害者に向ける意図のもとに、同人がその直前まで座っていた運転席の背部シートを右凶器で叩いたのであって、その行為の手段・態様や当時の周囲の状況など具体的事情を考慮してこれを客観的に考察すれば、被告人のこのような行為は、更に被害者の身体のみならず、生命に対してさえも害を加うベきことを暗に示したものと認めるに十分であり、もとよりそれは一般に相手方をして畏怖させるに足りるものと解されるから、明示的な害悪の告知を伴わなかったとしても、それが脅迫にあたることは明らかといわなければならない
  • そして、右の脅迫行為は、第一現場と第二現場の2度にわたる暴行後に、前記のような被害者の対応を契機として、更にそれ以上の害悪を被害者に加える意図を生じ、これに基づき新たに別個の法益侵害に出たものであるから、たとえそれが先行する第二現場の暴行行為に引き続き、これと同一場所で行われたとしても、暴行罪のほかにこれとは別個の脅迫罪が成立し、両者は併合罪の関係に立つものと解すべきである

と判示しました。

銃刀法違反との関係

 傷害罪と銃砲刀剣類所持等取締法違反は、併合罪の関係になるとした以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和29年5月7日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人が業務その他正当な理由による場合でないのに、本件ジャックナイフを携帯所持していたことは、原判決挙示にかかる証拠により十分にこれを認定することができるし、記録を精査検討し、原審が取り調べたその他の証拠によっても、被告人の右ジャックナイフ所持について、所定の除外事由があつたことは到底認められない
  • しかも、砲刀剣類所持等取締法第15条、第27条は、所定の除外事由なくして銃砲等を所持すること自体を処罰するものであるから、被告人が本件ジャックナイフを所持していた以上、仮りにこれを不正に使用する意思がなく又は危険性がないとしても、同法違反の罪の成立を阻却するものではない(昭和23年12月4日第二小法廷判決参照)
  • こうして銃砲刀剣類等所持取締法に違反して、刀剣類を不法に所持する者が、その刀剣類を使用して人の身体を傷害した場合において、右不法所持と傷害とは、構成要件を、被害法益も異なる別個の行為であって、1個の行為とみることはできないし、前者は後者の要素に属せず、又この両者は必ずしも牽連関係にあるものともいえないから、かかる場合には、刑法第54条第1項前段及び後段の適用はなく、また吸収犯の観念を容れる余地もなく、該取締法違反の罪と傷害罪との併合罪が成立するものと解すべきである

と判示しました。

次回記事に続く

 次回記事では、傷害罪と逮捕監禁罪・逮捕監禁致傷罪との関係について説明します。

傷害罪(1)~(32)の記事まとめ一覧

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