刑法(傷害罪)

傷害罪(24) ~傷害の罪数②「共同暴行(暴力行為等処罰に関する法律1条)と傷害罪の罪数」「1個の教唆行為により被教唆者が2個以上の傷害を実行した場合は、1個の傷害教唆罪が成立する」を判例で解説~

 前回の記事では、

  • 「同一被害者に対する傷害は数個の暴行があっても1個の傷害となる」
  • 「被害者の数により数個の傷害罪が成立する」
  • 「複数の被害者に対する同一機会における暴行が観点的競合になるとした判例」

について説明しました。

 今回の記事では、

  • 「共同暴行(暴力行為等処罰に関する法律1条)と傷害罪の罪数」
  • 「1個の教唆行為により被教唆者が2個以上の傷害を実行した場合は、1個の傷害教唆罪が成立する」

について説明します。

共同暴行(暴力行為等処罰に関する法律1条)と傷害罪の罪数

 複数人が集まり、集団で被害者を暴行し、暴行罪(刑法208条)の結果を生じさせた場合は(傷害罪の結果ではない)、共同暴行(暴力行為等処罰に関する法律1条)の罪が成立します。

 共同暴行を行った結果、被害者に対し、傷害の結果を発生させた場合は、共同暴行(暴力行為等処罰に関する法律1条)の罪は、傷害罪に吸収され、傷害罪のみが成立することになります。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁決定(昭和32年12月26日)

 この判例で、裁判官は、

  • 暴力行為等処罰に関する法律1条1項の犯罪は、同条項列挙の罪の特別加重犯であるから、多衆の威力を示し又は数人共同して刑法208条の罪を犯し、よって人を傷害した場合は、刑法204条の罪のみが成立し、同法律1条1項の違反罪は成立しないものと解するを相当とする

と判示しました。

高松高裁判決(昭和42年4月18日)

 この判例は、数人共謀の上、多衆の威力を示して暴行脅迫を加え、傷害を負わした場合において、傷害罪のほかに、暴力行為等処罰に関する法律違反1条の罪(共同暴行)は成立するか裁判で争われ、結論として、傷害罪のみが成立し、暴力行為等処罰に関する法律違反1条の罪は成立しないとした事例です。

 裁判官は、

  • 職権をもって法令の適用を調査すると、原判決認定の事実は包括して傷害の単純一罪を構成するものというべきであるから、これを暴力行為等処罰に関する法律違反と傷害の2罪を構成するものと認め、併合罪の規定を適用処断した原判決は、法令の適用を誤ったもので、破棄を免れない

と判示し、原判決が傷害罪と暴力行為等処罰に関する法律違反1条(共同暴行)の罪の両罪が成立すると判決したのは誤りであるとしました。

最高裁判決(昭和31年12月20日)

 この判例は、被害者が複数で、このうちに傷害の結果が発生した場合の罪数について、傷害を受けた被害者の数の傷害罪と、暴行を受けるに止まった被害者の数の暴力行為等処罰に関する法律1条の罪が成立し、これらは、原則として併合罪となるとしました。

 裁判官は、

  • 被告人A、同B、同C、共同被告人Dの4名が、犯意を共通し、共同して税務署員E、同F、同G、同H、同I、同J、同Kの7名に対し、各別にそれぞれ暴力行為等処罰に関する法律1条1項の違反行為を為し、よって、右署員中E、J、Kの3名に対し、各別にそれぞれ傷害を与えたような場合には、右3名を除いた他の4名の被害者に対する暴力行為等処罰に関する法律1条1項違反の犯罪が成立するのはもちろん、そのほか、右3名の被害者に対するそれぞれの暴力行為の結果たる傷害は、その原因たる違反罪の構成要件の外にあって、他の罪名たる傷害罪に触れ、右違反罪に吸収されないから、被告人A、同B、同C、共同被告人Dに対し、右4名の被害者に対する暴力行為等処罰に関する法律1条1項のほか、右3名の被害者に対する刑法204条に問擬(もんぎ)したのは正当である
  • 被告人に対し、それぞれ4個の暴力行為等処罰に関する法律違反と3個の傷害罪が成立する

と判示しました。

最高裁決定(昭和53年2月16日決定)

 この判例で、裁判官は、

  • 数人共同して2人以上に対し、それぞれ暴行を加え、一部の者に傷害を負わせた場合には、傷害を受けた者の数だけの傷害罪と暴行を受けるにとどまった者の数だけの暴力行為等処罰に関する法律1条の罪が成立し、以上は併合罪として処断すべきである

と判示しました。

被害者の数ごとに共同暴行(暴力行為等処罰に関する法律1条)の罪が成立する理由

被害者の数ごとに共同暴行(暴力行為等処罰に関する法律1条)の罪が成立する理由は、同法律によって保護される法益が、社会的法益ではなく、個人的法益だからです。

 共同暴行の罪は、被害者一人一人の身体の安全を守るために制定されている法律であるため、その保護法益は個人的法益となります。

 共同暴行の罪が、社会の暴力的風潮に対処するために制定されたものであるという一面があることから、その保護法益が社会的法益であるという見方もできますが、集団暴行が社会に蔓延しない社会秩序の維持ためのという社会法益のために側面もありますが、被害者個々の身体の安全を守るという個人的法益の方が重視されます。

 よって、傷害罪においては、傷害を受けた被害者が複数ある場合、原則として被害者ごとに傷害罪が成立し、複数成立した傷害罪はそれぞれ併合罪の関係で成立するのと同様に、共同暴行の罪も、原則として被害者ごとに併合罪の関係で成立するものとされるのです。

1個の教唆行為により被教唆者が2個以上の傷害を実行した場合は、1個の傷害教唆罪が成立する

 1個の教唆行為により、被教唆者が2個以上の傷害を実行した場合は、1個の傷害教唆罪が成立します。

 これは、教唆行為が1個であれば、教唆者が行った犯罪行為は1個なので、1個の傷害教唆罪が成立するという考え方をとることになるためです。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正2年10月21日)

 この判例で、裁判官は、

  • 教唆者にして、同時に2人以上と明らかに指定して、これを傷害することを教唆し、而して被教唆者において、2人の傷害を実行すれば、1教唆行為にして、2個の傷害なる罪名に触れ、従って、刑法第54条の適用を受けるべしといえども、もし明らかに人数を指定せずして単に傷害を教唆したりとせば、たとえ、被教唆者において、複数の傷害罪を犯し、従って、これに対し、同第55条を適用すべきものなると否とにかかわらず、教唆者は、1傷害罪を教唆したるものとして処分すべく、その所為2個の罪名に触れるものにあらず

と判示しました。

 なお、「傷害罪における教唆犯」については、前の記事で詳しく説明しています。

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