前回の記事の続きです。
罪数
証人威迫罪(刑法105条の2)の罪数を考える場合、その客体(面会強請・強談威迫をした対象者)を基準とすべきとされます。
証人威迫罪の趣旨が専ら刑事司法作用の保護にあるとしても、その侵害は個々の客体に対する面会強請又は強談威迫によってなされるからであり、個人的自由・平穏の保護をも帯有するとすれは当然に客体を基準とすべきであるからです(通説)。
したがって、客体の数によって証人威迫罪が成立することになり、別個の行為であれば併合罪となり、1個の行為であれば観念的競合となります。
また、同一人であっても、面会強請と強談威迫が別々の機会になされた場合には、原則として併合罪となると解されます。
しかし、同一人に対して、面会を強請した上、強談威迫の行為に及んだときは、被害法益は単一であるから、証人威迫罪の包括一罪が成立します(通説)。
他罪との関係
証人威迫罪の行為が他の罪に触れるときは、原則としてその罪との観念的競合となります。
強要罪、脅迫罪との関係
面会強請が相手を畏怖させる程度の行為によりなされたときは、証人威迫罪と強要未遂罪(刑法223条)との観念的競合となります。
強談威迫が相手に畏怖の念を生じさせる程度のものであれば、証人威迫罪と脅迫罪(刑法222条)又は強要未遂罪とは観念的競合となります。
この点、参考となる裁判例として、以下のものがあります。
東京高裁判決(平成24年9月27日)
法廷で証人尋問を受けた被害者に対し、被告人が「ぶっ殺してやろうか」などと怒号した行為について、裁判所は、脅迫罪と証人威迫罪が成立し、両罪は観点的競合になるとしました。
宮崎地裁判決(平成21年4月28日)
振り込め詐欺グループの幹部であるAから依頼を受け、同グループの構成員であるBに対する詐欺被疑事件の弁護人であった者が、警察署接見室内において、Bと接見した際、それまで黙秘を貫くように指示していたにもかかわらず、Bが事実関係を供述したい旨申し出たことから、Bに対し、「ふざけるな。」と怒鳴り、接見室の仕切板を1回手でたたき、「だれに頼まれて来てると思ってるんだ。雑用じゃねえんだぞ。Aにはお前ですべて終わらせるように言われている。認めるんだったらすべてお前がかぶる以外にないぞ。知らねえって言っておけばいいんだ。余計なことをしゃべったら、お前の女だってこっちで面倒見てるんだし、実家の住所だって知ってるんだから、お前、どうなっても知らないぞ。」などと申し向け、他人の刑事事件の捜査に必要な知識を有するBに対し強談威迫の行為をするとともに生命、身体等に危害を加えかねない気勢を示して脅迫した事案です。
裁判所は、弁護人に対し、証人威迫罪と脅迫罪が成立し、両罪は観念的競合になるとしました。
偽証罪、証人不出頭罪、証言拒否罪との関係
強談威迫によって相手に偽証や証人としての出頭拒否・証言拒否を求める場合には、それぞれ偽証罪(刑法169条)、証人不出頭罪(刑訴151条)、証言拒否罪(刑訴161条)の各教唆罪との観念的競合となります(通説)。