刑法(業務上過失致死傷罪)

業務上過失致死傷罪(2) ~「過失、注意義務違反(結果予見義務と結果回避義務の違反)」「注意義務の判断基準は、その状況における通常人の判断が基準となる」を判例で解説~

過失、注意義務違反(結果予見義務と結果回避義務の違反)

 業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)は、過失行為すなわち注意義務に違反した行為を処罰するものです。

 注意義務は、結果予見義務と結果回避義務とに分けられます。

 また、注意義務の判断基準は、その状況における通常人の判断が基準となります。

 この点、以下で詳しく説明します。

過失とは?

 過失とは、

注意義務違反

と解されています。

注意義務違反とは?

 注意義務違反とは、

注意をすれば結果を認識することができ、結果を回避し得たにもかかわらず、不注意により認識を欠き、結果を回避しなかったこと

をいいます。

 このうち結果を認識すべき義務を『結果予見義務』、結果を回避すべき義務を『結果回避義務』といい、これが注意義務の中核的な内容となります。

 注意義務における注意とは

具体的事件の客観的状況において社会通念上一般的に要求されると考えられる程度の注意

と解されています(最高裁判決 昭和24年3月17日)。

過失が肯定されるためには、結果予見可能性と結果回避可能性が肯定される必要がある

  注意義務違反として過失が肯定されるためには、「結果予見可能性」と「結果回避可能性」の2つが肯定されることが要件となります。

 法は不可能を強いるものではないので、結果を予見し、その予見に基づいて結果回避の措置をとるべきであり、それが可能であったのにこれを怠った場合に過失が肯定されるという考え方になります。

注意義務の判断基準は、その状況における通常人の判断が基準となる

 注意義務の判断基準は、その状況における通常人の判断が基準となります。

 参考となる判決として、以下のものがあります。

東京高裁判決(平成9年1月23日)

 寒冷地の一部凍結した道路を進行する被告人について、その地域に住んでおらず、その土地の気象状況やそれに伴う道路状況についての具体的な知識のない場合であっても、注意義務の判断に当たっては、その地域において日頃一般に自動車を運転している通常人を基準とすることを要し、かつ、それをもって足りると判示しました。

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