今回は、その続きとして、誤想防衛を説明します。
誤想防衛とは?
誤想防衛とは、
侵害行為が存在しないのに、存在すると誤信して行った正当防衛行為
をいいます。
誤想防衛は、法律上に規定はなく、判例によって形成された概念です。
誤想防衛は、違法性が阻却されるか?
誤想防衛は、正当防衛と同様に、違法性が阻却(違法ではないと判断)されるでしょうか?
答えは、違法性は阻却されません。
誤想防衛は、
- 急迫不正の侵害がなく
- 防衛行為の相当性を超えている
ことから、正当防衛の成立要件を満たさないためです。
勘違いで悪気はなかったとしても、誤想防衛は犯罪行為になります。
誤想防衛は、どのような犯罪を成立させるのか?
傷害罪、殺人罪などの犯罪は、その成立に、「ケガをさせてやる」「殺してやる」といった『故意』が必要な犯罪です。
(このような犯罪を故意犯といいます)
逆にいうと、「ケガをさせてやる」「殺してやる」といった『故意』がなければ、傷害罪や殺人罪などの故意犯は成立しないのです。
誤想防衛の場合、勘違をして、自分を守るための反撃行為をしたことになるので、「ケガをさせてやる」「殺してやる」といった『故意』が存在しません。
つまり、誤想防衛の状態で、相手を殴ってケガをさせたり、殺したりしても、傷害罪や殺人罪などの故意犯は成立しないのです。
誤想防衛は、『故意』を認めない(阻却する)点がポイントになります。
誤想防衛は、『故意』を阻却するので、故意犯の責任を負わせることができないのです。
しかし、故意犯の責任を負わせることができないとしても、過失犯の責任を負わせることはできます。
過失犯とは、不注意で犯してしまった犯罪をいいます。
自動車事故がよい例です。
だれも自動車事故を起こそうと思って起こしません。
脇見などの不注意(過失)で起こしてしまうのです。
誤想防衛には、この過失犯が当てはまります。
不注意で侵害行為があると勘違いして、防衛行為をしてしまったわけです。
たとえば、相手が殴りかかってくると勘違いして、自分を守るために相手を殴ってケガをさせた場合、「ケガをさせてやる」といった故意は認められないので、故意犯である傷害罪は成立しません。
この場合、不注意で相手にケガをさせてしまっていることから、過失犯である過失傷害が成立することになります。
なお、誤想防衛で人を殺してしまった場合は、殺人罪ではなく、過失致死罪(刑法210条)が成立することになります。
次回
次回は、誤想過剰防衛について書きます。