刑法(殺人罪)

殺人罪(9) ~不確定的殺意②「概括的殺意」「択一的殺意」を解説~

 前回の記事の続きです。

 不確定的殺意(被害者の死を意図せず、かつ、死の結果の発生が不確実であると認識していた場合)は、

  1. 未必の殺意
  2. 概括的殺意
  3. 択一的殺意
  4. 条件付きの殺意

の4つに分けられます。

 今回は、②概括的殺意と③択一的殺意を説明します。

概括的殺意

 概括的殺意は、

死の結果がどの客体に生じるか、何個の客体に生じるか特定していない場合の殺意

をいいます。

 概括的殺意は、包括的殺意ともいいます。

 例えば、群衆の中に向かって爆発物を投げ込む場合は、概括的殺意が認められる場合です。

 概括的殺意による殺人罪(殺人未遂罪)の事例として、以下の判例があります。

大審院判決(大正6年11月9日)

 Aを殺害する目的で、Aのほか数人が居住していた家の長火鉢に掛けてあった鉄瓶の中のお湯に塩化水銀(毒物)を投入し、Aやその家族に毒物を飲ませて殺害しようとした殺人未遂の事案です。

 裁判官は、

  • 被告が、A及びその家族の必然飲用すべき鉄瓶の沸湯昇汞(塩化水銀)を投入し置きたる以上は、その家人の数及びその名の不明かつ不特定なる場合においても、致死の結果を予想すべきものと論ずることを得べく、従って飲用者の数に応ずる殺人罪存すべきものなれば、一行為にして数個の殺人罪にふれるものとす

と判示しました。

大阪地裁判決(平成2年4月24日)

 暴力団の抗争事件において、固まって歩いている5名に向け、拳銃を5発くらい発射し、うち1名に命中させたが殺害するにいたらなかった殺人未遂の事案です。

 裁判官は、

  • 被告人は、Nらの集団内の人間に実弾を命中させようとしながら、人体のどの部位に命中するかは被告人にもおよそ不確定な方法でけん銃を発砲したもので、被告人が右集団のうちの誰かが死亡するに至るかもしれないことを認識しながら、あえて本件犯行に及んだことは十分認められる

と判示しました。

択一的殺意

 択一的殺意は、

対象が絞られて特定された複数の客体のうち、どれに死の結果が生じるかが不確定の場合の殺意

をいいます。

 例えば、A、B、Cのいずれかを殺すつもりで拳銃を発砲したが、A、B、Cのだれに命中するかは不確実であった状況が、択一的殺意が認められる場合にあたります。

 「Aを殺す」、「Bを殺す」、「Cを殺す」という3個の結果のうち、いずれかの実現を認識・容認したが、どれが実現するかは不確実であった場合の故意が択一的殺意です。

次回の記事に続く

 不確定的殺意は、

  1. 未必の殺意
  2. 概括的殺意
  3. 択一的殺意
  4. 条件付きの殺意

の4つに分けられます。

 次回の記事で、④条件付きの殺意を説明します。

①殺人罪、②殺人予備罪、③自殺教唆罪・自殺幇助罪・嘱託殺人罪・承諾殺人罪の記事まとめ一覧