前回の記事の続きです。
公判手続は、冒頭手続→証拠調べ手続 →弁論手続→判決宣告の順序で行われます(詳しくは前の記事参照)。
前回の記事では、証拠調べ手続のうちの証人尋問に関し、
- 証人尋問の順序(主尋問→反対尋問→再主尋問)
- 証人尋問の方法(個別尋問、一問一答主義)
を説明しました。
今回の記事では、証拠調べ手続のうちの証人尋問に関し、
- 書面・物・図面等を示しての証人尋問のルール
- 証人に尋問できる事項、できない事項
- 裁判官による証人尋問の制限と介入
を説明します。
書面・物・図面等を示しての証人尋問のルール
書面・物を証人に確認させるための提示
検察官、被告人又は弁護人は、書面・物が、被害品であることや、犯行に使用されたものであることなどを確認するために、その書面・物を証人に提示して尋問をすることができます(刑訴法規則199条の10)。
また、書面には、供述調書が含まれ、供述調書の内容を証人に示すことは、証人の証言を歪めるおそれがあるためできませんが、供述調書の署名・押印部分のみを示し、その供述調書が証人によって作成されたものであることなどを確認させることはできます。
この時、書面・物を証人に示すに当たり、裁判官の許可は不要です。
この点は、以下で説明する
の場合において、書面・物の提示、図面等を利用して証人尋問するのに裁判官の許可が必要である点と異なります。
証人の記憶喚起のための書面・物の提示
検察官、被告人又は弁護人は、証人の記憶が明らかでない事項について、その記憶を喚起するため必要があるときは、裁判官の許可を受けて、書面(供述調書を除く。)又は物を示して尋問することができます(刑訴法規則199条の11第1項)。
この時、書面の内容が証人の供述に不当な影響を及ぼすことのないように注意しなければなりません(刑訴法規則199条の11第2項)。
刑訴法規則199条の11第1項が供述調書を除くとしているのは、記憶喚起のために供述調書を証人に示すことは、証人に不当な影響を及ぼし、証言が歪められることを避けるためです。
証人の供述の明確化のための図面等の利用
検察官、被告人又は弁護人は、証人の供述を明確にするため必要があるときは、裁判官の許可を受けて、図面、写真、模型、装置等を利用して尋問することができます(刑訴法規則199条の12)。
証人尋問の際に証人に示した書面、写真などは証人尋問調書に添付することができる
証人尋問の際に証人に示した書面、写真などの裁判官が適当と認めるものは、証人尋問調書(裁判所が作成する証人尋問の内容を記載した書面)に添付することによって、調書の一部とすることができます(刑訴法規則49条)。
なお、証人尋問調書に添付された書面、写真等が犯罪事実を認定する証拠となるわけではなく、証拠となるのは、証人の証言になります。
この点について参考となる判例として、最高裁決定(平成23年9月14日)、最高裁決定(平成25年2月26日)があります。
証人に尋問できる事項
質問者(検察官、被告人又は弁護人、裁判官)が証人に対して尋問できる事項は、事件に関連する事項で、
- 証人自身が実際に体験した事実
- 証人自身が実際に経験した事実により推測した事項(刑訴法156条)
です。
「②証人自身が実際に経験した事実により推測した事項」の供述は、「①証人自身が実際に体験した事実」に関する供述に含まれるという考え方になります。
「②証人自身が実際に経験した事実により推測した事項」の供述は、証人の単なる意見や想像の供述ではないという評価になり、供述が認められます。
例えば、公然わいせつ行為を観覧した証人に、その観覧から生じた感想を述べさせることは、証人が実際に体験した事実のうちに含まれ、何の違法もありません(最高裁判決 昭和29年3月2日)。
証人に尋問できない事項
訴訟関係人(検察官、被告人又は弁護人)は、以下の①~④に掲げる尋問をしてはいけません(刑訴法規則199条の13第2項)。
- 威嚇的又は侮辱的な尋問
- 既にした尋問と重複する尋問
- 意見を求め、又は議論にわたる尋問
- 証人が直接経験しなかった事実(他人から聞いた事実)についての尋問
ただし、②~④までの尋問については、正当な理由がある場合は、尋問することができます。
①の威嚇的又は侮辱的な尋問は、いかなる場合も許されません。
裁判官による証人尋問の制限
裁判官は、訴訟関係人(検察官、被告人又は弁護人)の尋問が
- 重複するとき
- 事件に関係のない事項にわたるとき
- その他相当でないとき
について、訴訟指揮権に基づいて、証人に対する尋問を制限することができます(刑訴法295条1項)。
相手方(検察官が尋問しているなら被告人又は弁護人が相手方、被告人又は弁護人が尋問しているのなら検察官が相手方)も、上記①~③のような尋問に対しては、裁判官に対し、証拠調べに関する異議(刑訴法309条1項)を申し立てて、是正を求めることができます。
証人を守るための尋問の制限
裁判官は、証人を尋問する場合において、証人やその親族の身体・財産に害を加え、又はこれらの者を畏怖させ、若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあり、証人やその親族の住居、勤務先その他通常所在する場所が特定される事項が明らかにされたならば証人が十分な供述をすることができないと認める場合は、犯罪の証明に重大な支障を生ずるおそれがあるとき又は被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときを除き、その事項についての尋問を制限することができます(刑訴法295条2項)。
この刑訴法295条2項の尋問制限は、同条1項による尋問の制限のひとつのケースを特に明らかにしたものです。
証人の人定事項が特定されないようにするための制限
刑訴法290条の2第1項又は第3項の「被害者特定事項の秘匿決定」や刑訴法290条の3第1項の「証人等特定事項の秘匿決定」のあった公判において、裁判官は、訴訟関係人(検察官、被告人又は弁護人)のする尋問が、被害者特定事項や証人等特定事項にわたる場合、その事項についての尋問を制限することができます。
なお、被害者特定事項、証人等特定事項とは、被害者の氏名、住所、職業など、被害者や証人の人定を特定する事項をいいます。
検察官、弁護人が、この裁判官の尋問の制限に従わなかった場合は、裁判所は、
通知し、適切な処置をとるべきことを請求することができます。
請求を受けた者は、そのとった処置を裁判所に通知しなければなりません(刑訴法295条4項・5項)。
なお、被害者特定事項秘匿決定、証人等特定事項秘匿決定のあった事件については、証人尋問だけでなく、
- 陳述(裁判官に対して自己の主張を述べる行為)
- 被告人質問(公判中に、検察官、弁護人、裁判官が被告人に対し質問し、供述を求める行為)
についても同様の制限ができます(刑訴法295条3項、4項)。
裁判官は、被告人の面前では証人が充分な供述をすることができないとき、被告人を退廷させることができる
裁判官は、証人が被告人の面前では圧迫を受けて充分な供述をすることができないと認められるときは、弁護人が出頭している場合に限り、検察官及び弁護人の意見を聴き、その証人の供述中、被告人を退廷させることができます(刑訴法304条の2前段)。
ただし、被告人には証人に対する反対尋問権が憲法上の権利として保障されています(憲法37条2項)。
なので、被告人を退廷させた場合にも、証人の供述が終了した後に被告人を再び出廷させ、被告人に証言の要旨を知らせ、その証人を尋問する機会を与えなければなりません(刑訴法304条の2後段)。
なお、「被告人の退廷」は、証人の供述を獲得することを目的として行われるものであり、証人が被告人の面前で供述する際に、証人が受ける精神的圧迫を軽減することにより証人の精神の平穏が侵害されることを未然に防止することを目的とする「被告人と証人との間の遮へい措置」(刑訴法157条の5第1項)。とは、目的を異にします。
裁判官は、特定の傍聴人の面前では証人が充分な供述をすることができないとき、被告人を退廷させることができる
裁判官は、証人が、特定の傍聴人(法廷の傍聴席で裁判を見ている人)の面前では充分な供述をすることができないと思料するときは、その供述をする間、その傍聴人を退廷させることができます(刑訴法規則202条)。
裁判官による証人尋問への介入
裁判官は、必要と認めるときは、いつでも訴訟関係人(検察官、被告人又は弁護人)の尋問を中止させて、自ら証人を尋問することができます(刑訴法規則201条)。
このように、裁判官が証人尋問に介入できる権利を「介人権」といいます。
次回の記事続く
次回の記事では、証拠調べ手続のうちの証人尋問に関し、証人の負担軽減のための措置である
- 証人尋問の際の証人への付添い
- 証人尋問の際の証人の遮へい措置
を説明します。