前回の記事の続きです。
公判手続は、冒頭手続→証拠調べ手続 →弁論手続→判決宣告の順序で行われます(詳しくは前の記事参照)。
前回の記事では、拠調べ手続のうちの証人尋問に関し、
- 鑑定人・鑑定証人の尋問
- 通訳人・翻訳人の尋問
を説明しました。
今回の記事では、証拠調べ手続のうち、
- 証拠書類(書証)取調べは、朗読又は要旨の告知による
を説明します。
書証の証拠取調べの方法
刑事裁判で用いられる証拠の種類は、
- 人証(にんしょう)(証人・鑑定人・通訳人・翻訳人による法廷での証言による証拠)
- 証拠書類(書証)(供述調書、警察官が作成した報告書など)
- 証拠物(物証)(殺人事件で犯行に使われたナイフ、防犯カメラ映像が記録されたディスクなど)
に分けられます。
前回までの記事で、人証の証拠取調べについて説明しました。
今回の記事では、証書書類の証拠取調べを説明します。
証拠書類は、書証(しょしょう)とも呼びます。
この記事では、証拠書類を書証を呼んで説明します。
書証は、朗読の方法で証拠調べを行う
公判において、検察官、被告人又は弁護人が、裁判官に対し、書証の取調べ請求をし、裁判官がその書証の証拠調べをすることを決定すると、書証の証拠調べ手続に入ります。
書証は、「朗読」という方法で証拠調べを行います(刑訴法305条)。
書証は、供述調書や警察官が作成した報告書などが該当し、それに記載されている内容が証拠となるので、証拠調べは、その記載内容を公判廷で朗読する方法が採られます。
書証は、原本ではなく、謄本・抄本・写しでも証拠とすることができる
書証は、その原本を検察官、被告人又は弁護人が証拠調べ請求し、裁判官が取調べるのが原則ですが、以下のパターン1、2の場合は、原本ではなく、
を検察官、被告人又は弁護人が証拠調べ請求し、それを裁判官が取調べることができます。
パターン1
原本を使っての取調べ請求が困難である場合で、
- 原本が存在すること又はかつて存在したこと
- 原本の内容を正確に転写したものであること
- 原本が滅失し、又はその提出が困難であること
の3つの要件を具備する場合。
この場合に、原本ではなく、書証の謄本・抄本・写しを検察官、被告人又は弁護人が証拠調べ請求し、裁判官が取調べることができます(東京高裁判決 昭和54年6月22日)。
パターン2
証拠調べ請求の相手方(例えば、検察官が証拠調べ請求した場合は、被告人又は弁護人が相手方)が、書証の謄本・抄本・写しを証拠とすることに同意し、証拠調べをすることに異議がない場合。
この場合は、パターン1の①~③の要件を証明する必要なく、原本ではなく、書証の謄本・抄本・写しを検察官、被告人又は弁護人が証拠調べ請求し、裁判官が取調べることができます(最高裁決定 昭和35年2月3日)。
書証の朗読をする者
書証を朗読する者は、その書証の取調べを請求した者が行うのが原則です。
検察官が書証の取調べ請求をしたのであれば、検察官がその書証の朗読を行います。
弁護人が書証の取調べ請求をしたのであれば、弁護人がその書証の朗読を行います。
これが原則ですが、裁判官が自ら朗読し、裁判所書記官に朗読させることもできます(刑訴法305条1項ただし書)。
また、証拠調べが検察官、被告人又は弁護人の請求によらず、裁判所が職権で証拠調べをするものであるときは、朗読は、裁判官が自ら朗読するか、裁判所書記官に朗読をさせます(刑訴法305条2項)。
書証の朗読に代えて、要旨の告知を行うのが一般的である
裁判官は、訴訟関係人の意見を聴き、相当と認めるときは、書証の朗読に代えて、書証の証拠調べを請求した者に、
書証の記載内容の要旨を告知させる方法
で証拠調べを行うことができます(刑訴法規則203条の2)。
公判において、供述調書や警察官の作成した捜査報告書などを全部朗読していたのでは、膨大に時間がかかり、公判が長時間に及んでしまいます。
そこで、書証を全部朗読するのではなく、その書証の要旨だけを告知したする方法が一般的に採られます。
これを「要旨の告知」と呼びます。
次回の記事に続く
次回の記事では、証拠調べ手続のうち、
- 物証の証拠取調べの方法は「展示」によること
- 証拠物たる書面の証拠調べの方法は「展示」と「朗読又は要旨の告知」によること
などを説明します。