前回の記事の続きです。
公判手続は、冒頭手続→証拠調べ手続 →弁論手続→判決宣告の順序で行われます(詳しくは前の記事参照)。
前回の記事では、証拠調べ手続のうちの
証拠調べ請求において、人証(証人・鑑定人・通訳人・翻訳人)の人定事項を秘匿するなどして保護するための具体的な手続
を説明しました。
今回の記事では、証拠調べ請求において、
- 検察官は手持ちの証拠の全てを証拠調べ請求する必要はない
- 検察官が必ず証拠調べ請求しなければならない証拠がある
- 反証となる証拠の証拠調べ請求
を説明します。
検察官は手持ちの証拠の全てを証拠調べ請求する必要はない
検察官は、起訴した事件の公訴事実を証明する責任(挙証責任又は立証責任といいます)を負っています。
検察官がどの証拠をどのように使って公訴事実を証明するかは、検察官の自由です。
そのため、検察官は、裁判官に対し、手持ち証拠の全てを公判廷に提出する必要はなく、手持ちの証拠のどの証拠を裁判官に対して取調べ請求するかは、検察官の裁量に委ねられています。
検察官が必ず証拠調べ請求しなければならない証拠がある
検察官は、どの証拠を取調べ請求するかは、自身で選択することができます。
しかし、例外として、検察官に選択権はなく、裁判官に対し、必ず証拠調べ請求しなければならない証拠があります。
それは、
検察官が作成した供述調書(検察官面前調書)のうち、刑訴法321条1項2号後段の規定によって証拠とすることができる書面
です(刑訴法300条)。
具体的に説明すると、
検察官が作成した供述調書の供述者が、証人として公判に出廷して証言をした時に、その証言の内容が検察官が作成した供述調書の内容と異なった時に、検察官は、裁判官に対し、その供述調書を証拠調べ請求しなければならない
という状況になります。
例えば、被告人以外の者Aが、検察官が行った取調べにおいて、検察官に対し被告人に有利な供述をし、その内容の供述調書が検察官によって作成されているのに、公判廷でAが被告人に不利な証言をした場合に、被告人に有利な内容の供述調書が存在するのに、それが証拠として裁判官に提出されないのは、真実が何のかを裁判官が正確に把握できず、被告人の保護に欠ける結果になります。
そこで、被告人の保護と真実発見を図るため、裁判官が、
- Aが被告人に有利な供述をした検察官面前調書の内容
と
- 法廷でAが被告人に不利な証言をした部分の内容
を比較し、Aの供述の信用性を慎重に判断できるようにするため、検察官に対し、被告人に有利な内容の供述調書の取調べ請求をする義務を課しています。
反証となる証拠の証拠調べ請求
裁判所は、検察官、被告人・弁護人に対し、相手方が請求した証拠の証明力を争うために必要とする機会を与えなければなりません(刑訴法308条)。
例えば、裁判官は、検察官が被告人が犯人である証拠の証拠調べ請求した場合に、弁護人に対し、被告人が犯人ではない証拠の証拠調べ請求する機会(反証の機会)を与える必要があります。
このため、裁判官は、適当な機会に、検察官、被告人・弁護人に対し、反証の取調べの請求などの方法によって証拠の証明力を争うことができる旨を告知しなければならないとされます(刑訴法規則204条)。
次回の記事に続く
次回の記事では、証拠調べ手続のうちの
- 裁判官による証拠決定
- 証拠調べ請求が却下される場合
- 証拠決定に対する異議申立て
を説明します。