公訴事実とは? 訴因とは?
公訴事実と訴因との関係を説明します。
「公訴事実」とは、
歴史的・社会的事実の中で、検察官が何らかの犯罪に該当すると主張する事実(社会的事実)
をいいます。
例えば、「AがBを死亡させた。」という社会的事実は、何らかの犯罪に該当すると思われる事実であり、これが「公訴事実」となります。
「訴因」とは、上記のような社会的事実(公訴事実)を、特定の構成要件(刑法などの法律に規定されている犯罪の成立要件)に当てはめて、
法律的に構成した具体的事実
をいいます。
例えば、「AがBを死亡させた。」という社会的事実は、何らかの犯罪に該当すると思われる事実であり、これが「公訴事実」であるところ、「訴因」は、この社会的事実を特定の犯罪の構成要件に当てはめて法律的に構成したものになります。
例えば、「AがBを死亡させた。」という公訴事実に、殺人罪(刑法199条)の構成要件を当てはめて法律的に具体的事実を構成すると、「Aが殺意をもってBに暴行を加え死亡させた。」となり、殺人罪の訴因になります。
「AがBを死亡させた。」とう公訴事実に、傷害致死罪(刑法205条)の構成要件を当てはめて法律的に具体的事実を構成すると、「Aが傷害の故意でBに暴行を加え死亡させた」となり、傷害致死罪の訴因になります。
言い換えると、「訴因」は、
犯罪の構成要件に当てはめて法律的に構成した社会的事実
であり、
「公訴事実」は、
訴因で表示される前の社会的事実
となります。
1個の公訴事実で数個の訴因を構成できる
訴因は、公訴事実を法律的に構成したものです。
公訴事実に訴因を組み込んで犯罪事実を構成するに当たり、1個の公訴事実に対して、数個の訴因に構成することができます。
観念的競合(例えば、無免許運転と酒気帯び運転)や牽連犯(例えば、住居侵入と窃盗)のような科刑上一罪の場合は、公訴事実は1個であるが、訴因は数個に分かれます。
例えば、無免許運転と酒気帯び運転が観念的競合になる場合の訴因は、
「〇月〇日、東京都内において、酒気帯びた状態で、無免許運転をした」
というかたちになり、公訴事実は1個ですが、訴因は2個(無免許運転と酒気帯び運転)となります。
例えば、住居侵入と窃盗が牽連犯になる場合の訴因は、
「〇月〇日、東京都内のA宅に侵入し、現金10万円を窃取した」
というかたちになり、公訴事実は1個ですが、訴因は2個(住居侵入と窃盗)となります。
同一の公訴事実であっても別異の訴因に構成することができる
同一の公訴事実であっても、その法律的構成の仕方によって、別異の訴因に構成することができます。
例えば、「100万円を領得した(不正に取得した)」という公訴事実は、
- 窃盗罪(刑法235条)の訴因「〇月〇日、東京都内のA宅で100万円を窃取した」
- 横領罪(刑法252条)の訴因「〇月〇日、Aから預かり保管中の100万円を横領した」
- 詐欺罪(刑法246条)の訴因「〇月〇日、Aをだまして100万円を詐取した」
というように、別異の訴因に構成することができます。
このように、同じ公訴事実であっても、犯罪の態様に合わせて、公訴事実を何通りもの訴因で構成することができます。
次回の記事に続く
次回の記事では、
- 公訴事実には訴因を明示して記載しなければならない(訴因の特定)
- 公訴事実に訴因を明示しないと公訴棄却の判決が言い渡される
- 公訴事実に訴因が明示されず、公訴棄却の判決が言い渡されても、公訴提起により公訴時効は停止する
- 訴因を明示するのは被告人の防御範囲を明確にするためである
- 裁判所は、訴因と異なる事実を認定することはできない(訴因の拘束力)
を説明します。