刑法(公務執行妨害罪)

公務執行妨害罪(2) ~「客体(暴行・脅迫の対象)となる公務員の定義」「公法人、みなし公務員、外国の公務員の公務員該当性」を解説~

客体(暴行・脅迫の対象)

 公務執行妨害罪(刑法95条)の客体(暴行・脅迫の対象)は、

公務員

です。

公務員の定義

 公務員の定義は、刑法7条1項に記載されており、

この法律において『公務員』とは国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう

と定義されています。

 公務員の定義について述べた判例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和25年10月20日)

「刑法上、公務員とは、官吏公吏法令により公務に従事する議員委員その他の職員をいうのであるが(刑法第7条)、これを具体的にいえば国家または公共団体の機関として公務に従事し、その公務従事の関係は、任命嘱託選挙等その方法を問わないが、その公務に従事することが法令に根拠を有するものをいう」と判示しました。

 さらに、「法令」の意義について、最高裁判決(昭和25年2月28日)において、

「ここにいう『法令』とは、法律、命令及び条例に限られず、抽象的な通則を規定するものである限り、訓令通達の類も含む」と判示しました。

 これら判例から、公務員といえるためには、任用権者により適法に任用されたものでありさえすれば「法令により」の要件を満たして十分であると解されています。

 「職員」とは?

 刑法7条1項は、「この法律において『公務員』とは国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう」と定義しています。

 ここでいう「職員」の定義について述べた判例として、以下のものがあります。

最高裁決定(昭和30年12月3日)最高裁判決(昭和35年3月1日)

「『法令により公務に従事する職員』とは公務に従事する職員で、その公務に従事することが法令の根拠にもとづくものを意味し、単純な機械的、肉体的労務に従事するものはこれに含まれないけれども、当該職制等のうえで『職員』と呼ばれている身分をもつかどうかは、問うところではない」と判示しました。

 上記判例から「職員」といえるか否かの区別は、

  • 単純な肉体的、機械的労働のみに従事するにとどまる場合は、「職員」とはいえない
  • 精神的労務に属する事務をも担当しているのであれば「職員」といえる

と考えることができます。

 「職員」といえるためには、いくらかでも自己の判断による裁量の余地を伴う職務に従事していることが必要とされると考えられます。

公法人の職員の公務員該当性

 公法人(国からその存立の目的を与えられた法人)の職員は、公務執行妨害罪(刑法95条)における公務員に当たり得るというのが判例の立場です。

 判例は、以下の①~③の公法人の業務は公務であり、したがって公法人の議員及び職員は、刑法7条にいう「法令により公務に従事する議員、委員その他の職員」であるとしています。

① 北海道土工組合法による土工組合(大審院判決 大正3年4月13日)

② 農会法による農会(大審院判決 大正12年12月13日)

③ 水利組合法による水利組合(大審院判決 昭和5年3月13日)

④ 蚕糸業組合法による郡養蚕組合・県養蚕業組合連合会(大審院判決 昭和13年12月22日)

 なお、公法人について、どこまでを公務員と見るべきかは、個別的に検討すべきとされます。

 この点、参考となる裁判例として、以下のものがあります。

 贈収賄事件に関し、東京高裁判決(昭和36年3月31日)は、

  • 大審院判例の真に意味するところは、必らずしも講学上、公法人と呼ばれるすべての法人の事務が常に刑法第7条にいう『公務』に当たるものであるとし、従って、その職員は常に『公務員』であると判示しきったわけのものではない
  • 具体的事案における個々の法人につき、その公共的性質の濃淡の別に意をそそぎ、それが国の事務またはこれに準ずる公共団体の事務として、刑法が法人の事務に従事する者をして公務員としての清廉と公正とを保持するために必要な規制を加えるのにふさわしい性質と内容とを有するか否かによって、その事務が『公務』に該るか否かを判別したものと解せられる

と判示しました。

みなし公務員は公務員に該当する

 みなし公務員に対し、公務執行妨害罪が成立するとするのが判例の立場です。

 みなし公務員とは、「公務員ではないが、公務員とみなされて、公務員に適用される刑法の規定の一部が適用される職員」をいいます。

 具体的には、

  • 日本郵便の職員
  • 日本銀行役職員
  • 国立大学職員
  • 日本年金機構の役職員
  • 電気・ガス・水道・通信など公共インフラに関わる職員
  • 自動車教習所の技能検定員
  • 日本弁護士連合会の会長
  • 公証人

などが該当します。

 みなし公務員について公務執行妨害罪の成立を認めた判例として、以下のものがあります。

①民営化前の国鉄職員に対する公務執行妨害について、公務執行妨害罪の成立を認めた事例(最高裁判決 昭和39年8月25日

② 民営化前の電電公社の電報局長に対する公務執行妨害について、公務執行妨害罪の成立を認めた事例(最高裁判決 昭和53年6月29日

外国の公務員は公務員に該当しない

 刑法95条は、日本の公務を保護しようとするものなので、外国の公務員が公務執行妨害罪の客体にはなりません。

 アメリカ領事館員は、刑法にいう「公務員」に当たらないとした判例があります(最高裁判決 昭和27年12月25日)。

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