刑法(公務執行妨害罪)

公務執行妨害罪(28) ~「公務執行妨害罪と①脅迫罪、②暴行罪、暴力行為等処罰に関する法律違反、③傷害罪、④殺人罪、⑤強盗罪との関係」を解説~

 公務執行妨害罪(刑法95条1項)と

  1. 脅迫罪
  2. 暴行罪暴力行為等処罰に関する法律違反
  3. 傷害罪
  4. 殺人罪
  5. 強盗罪

との関係について説明します。

① 脅迫罪との関係

 公務員が職務を執行するに当たり、公務員に対して脅迫を加えたときは、公務執行妨害罪に該当し、脅迫の点は公務執行妨害罪の構成要件中に包含されるので、別に脅迫罪刑法222条)に触れることはなく、公務執行妨害罪のみが成立します(大審院判決 昭和4年10月28日)。

② 暴行罪、暴力行為等処罰に関する法律違反との関係

 公務員が職務を執行するに当たり、公務員に対し暴行を加えた行為は、公務執行妨害罪を構成するにとどまり、刑法95条1項の公務執行妨害罪と刑法208条暴行罪の両法条に触れるものではなく、公務執行妨害罪のみが成立します。

 また、公務員が職務を執行するに当たり、2人以上共同してこれに暴行を加えた場合においても、公務執行妨害罪を構成するにとどまり、刑法95条1項の公務執行妨害罪と暴力行為等処罰に関する法律1条1項の両条に触れるものではなく、公務執行妨害罪のみが成立します(大審院判決 昭和2年2月17日)。

参考事例

 1個の暴行行為の前半が単純暴行罪、後半が公務執行妨害罪に当たる場合に、これを包括し、1個の公務執行妨害罪の成立を認めた裁判例があります(長崎地裁佐世保支部判決 昭和42年9月22日)。

③ 傷害罪との関係

 公務執行妨害罪は、公務員の職務執行に対して暴行又は脅迫を加えた者を処罰する規定で、暴行により公務員の身体を傷害した者に対する処罰を包含しないので、傷害の行為については、公務執行妨害罪とは別に、傷害罪刑法204条)が成立します。

 この場合、公務執行妨害罪と傷害罪の関係は、観念的競合になります(大審院判決 明治42年10月8日)。

 公務執行妨害罪のほかに傷害罪が成立するのは、公務執行妨害罪は国家的法益に対する罪であるのに対し、傷害罪は個人的法益に対する罪であって、保護法益が異なるため、傷害罪が公務執行妨害罪とは別に成立するものです。

参考判例

 公務執行妨害罪の刑(刑法95条1項)は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金、傷害罪は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金であるが、刑法54条1項前段観念的競合)にいう「その最も重い刑により処断する」とは、その数個の罪名中、最も重い刑を定めている法条(この場合は傷害罪)によって処断するという趣旨を含むとともに、該法条の下限の刑が他の法条の下限の刑よりも軽く処断することはできないという趣旨を含むと判示した判例があります(最高裁判決 昭和28年4月14日最高裁判決 昭和32年2月14日)。

 つまり、職務中の公務員に暴行を加え、公務の執行を妨害するとともに、その公務員にけがを負わせた場合、公務執行妨害罪と傷害罪が観点的競合として成立するところ、公務執行妨害罪には下限の刑としてある禁錮刑で処断することはできないとなります(傷害罪には、禁錮刑がないため)。

④ 殺人罪との関係

 公務執行妨害罪と殺人罪刑法199条)とは観念的競合の関係になります。

 考え方は傷害罪の場合と同様になります。

⑤ 強盗罪との関係

 仮差押えのため執行官が占有した金銭を暴行をもって奪取したときは、強盗罪刑法236条)と公務執行妨害罪が成立し、両罪は観念的競合となります(大審院判決 大正6年4月2日)。

  警察官が所持するけん銃を暴行をもって奪取したときは、強盗罪と公務執行妨害罪が成立し、両罪は観念的競合となります(高松高裁判決 平成20年5月22日)。

 窃盗の罪を犯した際、警察官の逮捕を免れるため、警察官に対し暴行を加えて傷害を負わせたときは、公務執行妨害罪と強盗致傷罪が成立し、両罪は観念的競合となります(大審院判決 明治43年2月15日)。

 前の日の夜に岡山県下で強盗を行って得た盗品を船で運搬し、翌晩、神戸で陸揚げしようとする際、警察官に発見され、逮捕を免れるため暴行を加え、警察官を傷害した行為について、強盗傷人罪ではなく、①強盗罪と②公務執行妨害罪と傷害罪が成立し、②の公務執行妨害罪と傷害罪は観念的競合となり、①強盗罪と②公務執行妨害罪・傷害罪については、別の機会に行われたとし、①と②は併合罪となるとしました(最高裁判決 昭和32年7月18日)。

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