意思能力を欠く幼者・心神喪失者に対する準詐欺罪の成否
準詐欺罪(刑法248条)は、詐欺被害者が、判断能力が未熟な未成年者又は心神耗弱者である場合で、財産的処分行為(財物の交付行為、サービスの提供行為)ができる場合に成立を認める犯罪です。
ここで、詐欺被害者が、判断能力を全く欠く幼者又は心神喪失者であった場合は、判断能力を全くないがゆえに、財産的処分行為ができないと考えられるので、準詐欺罪は成立しないのではないかという疑問が生じます。
この点については、学説で争いがあり、全く意思能力を欠く幼者又は心神喪失者から、その状態を利用して財物又は財産上の利益を取得する場合については、
- 準詐欺罪が成立するとする積極説
- 準詐欺罪の成立を否定し、窃盗罪が成立するとする消極説(消極説の場合、財物を得れば窃盗罪となるが、財産上の利益を得る場合は不可罰となる)
- 意思能力のない幼者及び心神喪失者に対しても準詐欺罪が成立するが、被害者の能力欠陥が極限に達して事実上の処分行為の意義を全然理解できないような場合については窃盗罪が成立するとする折衷説
とが対立しています。
結論としては、消極説が妥当であると考え方が有力です。
理由は、準詐欺罪が成立を認めるためには、被害者の財産的処分行為が必要であり、意思能力を欠く幼者・心神喪失者には、財産的処分行為をなす能力がないものといわざるをえないから、消極説が妥当であるとする結論が導かれます。
準詐欺罪の実行の着手時期
準詐欺罪の実行の着手の時期は、
- 犯人が被害者に財物を交付させ、又は財産上不法の利益を取得する目的で、未成年者らに対して誘惑行為を開始した時
又は
- 未成年者らが犯人に対して任意に財物又は財産上の利益についての処分行為を行おうとしていることを知って、これを利用し始めた時
であり、これらの時点で犯罪の実行の着手があったとされます。
主観的要件(故意、不法領得の意思)
準詐欺罪の主観的要件として、故意のほかに、不法領得の意思を要するとするのが通説です。
この点については、詐欺罪の主観的要件と同様です(前回記事①、前回記事②参照)。
未遂規定、親族相盗例の適用
準詐欺罪は、未遂罪も罰せられます(刑法250条)。
また、親族相盗例(親族間の犯罪に関する特例)の規定の準用があります(刑法244条、刑法251条)。
準詐欺罪における親族相盗例も、詐欺罪における親族相盗例と同様の考え方なります(前回記事参照)。