前回の記事では、責任能力について書きました。
「責任能力がない人」が犯罪を犯しても、無罪になるということを説明しました。
今回は、「責任能力がない人」とは、具体的にどのような人なのかを説明します。
無責任能力者と限定責任能力者
責任能力が全くない人を「無責任能力者」といいます。
「無責任能力者」が犯罪を犯しても、違法性が阻却され、無罪になります。
つぎに、責任能力が著しく弱い人を「限定責任能力者」といいます。
「無責任能力者」が犯罪を犯すと、違法性は阻却されず、無罪にはならないものの、刑罰が減軽されます。
責任能力がない人は、「無責任能力者」と「限定責任能力者」の2つにカテゴライズされることをまずは押さえましょう。
無責任能力者・限定責任能力者の具体例
無責任能力者は、具体的に、
- 刑事未成年者
- 心神喪失者
を指します。
限定責任能力者は、具体的に、
- 心神耗弱者
を指します。
刑事未成年者とは?
刑事未成年者とは、
14歳に満たない人
をいいます。
14歳未満…つまり、13歳以下の子どもが犯罪を犯しても、絶対に犯罪は成立せず、刑事責任を問われることはなく、刑罰を受けることもありません(刑法41条)。
13歳以下の子どもといえば、中学1~2年生です。
中学1~2年生以下の子どもが犯罪行為をしても、犯罪にならないとイメージすると分かりやすいです。
14~19歳の子どもが犯罪を犯すとどうなる?
14歳~19歳の子ども(未成年者)が犯罪行為をした場合は、きちんと犯罪が成立し、刑事罰を受ける可能性があります。
しかし、未成年の子どもということで、法は、14歳~19歳の子どもに対しては、以下のように刑罰が軽くなるルールを用意しています。
※ たとえば、懲役3年の刑(定期刑)ではなく、懲役1年~3年の刑(不定期刑)の判決となる(これにより、受刑態度などが良ければ、最短懲役1年で出所できることになる)。
また、このほかに、以下のような未成年者ならではの刑罰ルールがあります。
- 16歳以上の子どもが人を死亡させる罪(殺人、傷害致死など)を犯した場合、刑事処分が原則となっている(少年法20条2項)
※ 家庭裁判所から検察庁に事件が送られ、裁判になるということ
- 14歳~19歳の子どもは、死刑・懲役・禁錮にあたる罪を犯せば刑事処分されることはあっても、罰金以下にあたる罪なら刑事処分されない(少年法20条1項)
※ 罰金以下にあたる罪の事件は、検察庁・裁判所にいくことなく、家庭裁判所内で処理されるということ
心神喪失者とは?
心神喪失者とは、
精神障害により、物事の善悪を判断する能力がない人
をいいます。
ちなみに、専門的な定義は、
精神障害により、行為の是非を弁別する能力がなく、またはその弁識に従って行動する能力がない人
となります。
心身喪失者は、必ず無責任能力者とされ、犯罪行為を犯しても処罰されません(刑法39条1項)。
心神耗弱者とは?
心身耗弱者とは、
精神障害により、物事の善悪を判断する能力がとても低い状態にある人
をいいます。
ちなみに、専門的な定義は、
精神障害により、行為の是非を弁別する能力、またはその弁識に従って行動する能力を完全に欠く程度にまでは達していないが、通常の人の水準より著しく低い状態にある人
となります。
心神耗弱者は、限定責任能力者とされ、責任能力は一応あるとされるので、犯罪行為をすれば犯罪は成立し、刑罰を受けます。
しかし、受ける刑罰は軽くなります(刑法39条第2項)。
心神喪失、心神耗弱はどのように判断されるか?
心神喪失、心神耗弱は、精神医学や心理学の観点から判断されるので、精神科医師が行う精神鑑定により、判断されます。
とはいえ、心神喪失、心神耗弱の概念は、法律上の概念であり、行為者が心神喪失、心神耗弱に当てはまるかどうかは法律判断になります。
そのため、最終的に、行為者が心神喪失、心神耗弱かどうかを決めるのは、精神科医師はなく、裁判官になります。
最高裁は、『心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかは法律判断であつて、専ら裁判所に委ねられるべき問題である』と判示しています《最高裁判例(昭和58年9月13日)》。
と言いつつも、最高裁判所は、『裁判所は,専門家たる精神医学者の意見を十分に尊重して認定すべきである』と判示し《最高裁判例(平成20年4月25日)》、バランスをとる見解を示しています。
まとめ
今回の内容をまとめると、
- 責任能力がない人は、犯罪を犯しても無罪になる。
- 責任能力がない人は、責任無能力者と呼ばれ、具体的には、刑事未成年者と心神喪失者が該当する。
- 責任能力が減退している人は、限定責任能力者と呼ばれ、刑が軽くなる。具体的には、心身耗弱者が該当する。
- 責任能力の有無の判断、心神喪失・心神耗弱認定は、最終的には、精神科医師ではなく、裁判官が行う。
となります。
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