前回の記事の続きです。
刑の減軽の考え方
「刑罰」は、「法定刑」→「処断刑」→「宣告刑」という過程を経て裁判所により決定されます(詳しくは前の記事参照)。
その中で「処断刑」は、法定刑に
- 加重(かちょう)
- 減軽
の修正を加え、処断の範囲を画する刑罰です。
この記事では、②の刑の減軽について説明します。
刑の減軽には、
- 法律上の減軽
- 裁判上の減軽(酌量減軽)
とがあります。
以下でそれぞれについて説明します。
① 法律上の減軽
法律上の減軽には、
- 必要的減軽事由
- 任意的減軽事由
の2つがあります。
必要的減軽事由
法律上の減軽事由のうち、必要的減軽事由(必ず減軽される事由)として、
- 心神耗弱(刑法39条2項)
- 中止未遂(刑法43条ただし書)
- 幇助犯(刑法63条)
- 身の代金拐取罪等(刑法225条の2)、身の代金拐取幇助目的被拐取者収受罪(刑法227条2項)、身の代金被拐取者収受罪等(刑法227条4項)における被拐取者の解放(刑法228条の2)
- 身の代金拐取予備罪における自首(刑法228条の3)
があります。
任意的減軽事由
法律上の減軽事由のうち、任意的減軽事由(裁判官の裁量で減軽となる事由)として、
- 過剰防衛(刑法36条2項)
- 過剰避難(刑法37条1項ただし書)
- 法律の錯誤(刑法38条3項ただし書)
- 自首(刑法42条1項)・親告罪の告訴権者に対する告知(刑法42条2項)
- 障害未遂(刑法43条)
- 偽証罪・虚偽告訴罪等における自白(刑法170条、171条、173条)
があります。
② 裁判上の減軽(酌量減軽)
裁判上の減軽事由は、酌量減軽といわれるもので、裁判官は、犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができます(刑法66条)。
具体的には、
- 犯人の年齢
- 被害弁償の有無
- 反省の態度
などが考慮されます。
法律上の加重・減軽をした場合でも、酌量減軽ができます(刑法67条)。
酌量減軽がされた事件
酌量減軽がされた事件として以下のものがあります。
半身まひの妻を40年間献身的に介護してきた夫が、自身も体が動かないことが多くなり、心理的に追い詰められた末、介護の苦労から、妻を殺害した殺人罪の事案です。
夫に、懲役3年、執行猶予5年の判決が言い渡された判決です。
裁判官は、介護の苦労は想像を絶するため強く非難するのはやや酷であることなどから、酌量減軽し、懲役3年、5年間執行猶予の判決を言い渡しました。
裁判官は、約20年に渡り長女の面倒を見て努力し、心身ともに限界を迎えた末の犯行であり、強く非難することはできないとし、被告人が高齢であること、病身の妻がいることなどを考慮し、懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡しました。
刑の減軽の方法
刑の減軽の方法は、刑法68条に規定があります。
刑法68条(法律上の減軽の方法)
法律上刑を減軽すべき一個又は二個以上の事由があるときは、次の例による。
- 死刑を減軽するときは、無期又は10年以上の拘禁刑とする。
- 無期拘禁刑を減軽するときは、7年以上の有期拘禁刑とする。
- 有期拘禁刑を減軽するときは、その長期及び短期の2分の1を減ずる。
- 罰金を減軽するときは、その多額及び寡額の2分の1を減ずる。
- 拘留を減軽するときは、その長期の2分の1を減ずる。
- 科料を減軽するときは、その多額の2分の1を減ずる。
例えば、
- 死刑を減軽し、無期拘禁刑にすることができる
- 死刑を減軽し、10年以上30年以下の有期拘禁刑にすることができる(刑法14条1項)
- 無期拘禁刑を減軽し、7年以上30年以下の拘禁刑にすることができる(刑法14条2項)
- 有期拘禁刑である窃盗罪(刑法235条:拘禁刑の法定刑…10年以下の拘禁刑)を減軽し、5年以下の拘禁刑にすることができる
- 罰金の刑がある窃盗罪(刑法235条:罰金の法定刑…50万円以下の罰金)の罰金を減軽し、5000円以上25万円以下の罰金にすることができる(刑法15条)
- 拘留の刑がある暴行罪(刑法208条)の拘留を減軽し、1日以上15日以下の拘留にすることができる(刑法16条)
- 科料の刑がある暴行罪(刑法208条)の科料を減軽し、1000円以上5000円未満の科料にすることができる(刑法17条)
という考え方になります。