刑法(強盗罪)

強盗罪(13) ~「共犯者の強制性交(強姦)を、一方の共犯者が実行した強盗罪の暴行脅迫と認定して、強盗罪の成立が認められる」を判例で解説~

共犯者の強制性交(強姦)を、一方の共犯者が実行した強盗罪の暴行脅迫と認定して、強盗罪の成立が認められる

 共犯者との間で、強制性交(強姦)や強制わいせつなどの共謀が成立している場合、強盗の共謀はなくても、共犯者Aが、共犯者Bの強制性交等の機会に乗じて被害者の金品を奪取すれば、Bの強制性交等の行為が、Aが単独で行った強盗罪の暴行・脅迫の手段に当たる認められ、Aに対し、強盗罪の成立が認められます。

 これは、共犯者A、B間には、被害者の反抗抑圧状態について、相互利用・相互補完の関係が成立しており、Aは、財物奪取の犯意が生じた後に、Bの強制性交等の行為を、自己の行為の一部として利用し、財物を強取したと認められ、強盗罪の成立が肯定されるものです。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

東京高裁昭和30年7 月19日判決

 この判例は、被告人A、B、Cの3名が被害女性Eの強制性交を共謀し、CがEを山中で姦淫中、AとBが財物奪取の意思を生じ、共謀の上、ジープ内にあったEの財布から現金を抜き取った事案で、AとBに対し、強盗罪の成立を肯定しました。

 まず、被告人の弁護人は、

  • 被告人A、同B両名共謀による金員奪取行為と、被告人Cの強姦行為とは、全然別個の行為であって、この両者の間には、因果関係がないのであるから、本件においては、強盗罪は成立しない

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 強姦行為は、被告人3名の共謀による共同正犯にかかるものであることが明らかであるから、被告人A、同B両名が共謀して金員を奪取した際における被告人Cの強姦行為は、同被告人の単独犯行ではなくて、被告人3名の共謀に基づく強姦行為の一部であり、被告人3名がその責を負わねはならぬ関係にあるものというべきである
  • 従って、被告人A、同B両名において、被害者Eがこの強姦行為によって抵抗不能の状態にあるのを利用して、E所有の金員を奪取することを共謀し、かつこれを実行したものとすれば、この金員奪取行為と、右3名の共謀に基づく被告人Cの強姦行為との間には、因果関係の存在を否定することはできないものといわなければならない
  • 被告人3名共謀により、強姦行為の継続中に、被告人A、同B両名において、新たに金員奪取の考えを起こし、右共謀による強姦行為によって、その被害者Eが抵抗不能の状態にあるのを利用し、これに乗じてE所有の金員を奪取することを共謀し、これを実行したものであるというのであるから、右被告人両名に対する関係においては、右強姦行為(暴行脅迫)と金員奪取との間には、相当因果関係が存するものといわなければならない

と判示し、Cと強姦を共謀したAとBに対し、Cの強姦を、AとBの強盗罪の暴行脅迫の手段とする強盗罪の成立を認めました。

大阪高裁判決(平成11年7月16日)

 この判例は、共犯者Kにおいて、反抗抑圧状態にある被害者に対し、わいせつ行為を強いている最中に、その傍らにいて見張りをしていた被告人が、単独で財物を奪取することを決意し、被害者に新たな暴行・脅迫を加えることなく、被害者の鞄内から財布を奪った行為について、窃盗罪に当たるとした原判決を破棄し、強盗罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 原判決が、強盗について、被告人と共犯者Kとの間に共謀のあった事実を認めなかったのはもとより正当であるけれども、被告人は、Kとの間で、被害者を強姦することについて共謀の上、被害者に対し、暴行、脅迫を加えて、同女の反抗を抑圧し、共犯者とともに、各二回口淫強要行為や姦淫行為に及んだ後、共犯者であるKが、いまだ被害者に口淫を強いている最中であり、自らは、その傍らでその見張りを行っていた強姦の実行行為継続中に、同女が右状態にあることを認識しつつ、同女の鞄内から財布を奪ったものであるから、被告人の右行為は、暴行又は脅迫を用いて被害者の財物を強取したものというべく、刑法236条1項の強盗罪をもって論ずべきものである
  • 原判決はこれを窃盗と認定した理由として、強盗罪が成立するためには、財物奪取の目的で、相手方に対し、その反抗を抑圧するに足りる暴行又は脅迫を加えて、これを手段として財物を奪取することが必要であるところ、財物奪取の犯意を生じた時点で、相手方がすでに反抗を抑圧された状態に陥っている場合も同様に、強盗罪が成立するためには、相手方が反抗を抑圧された状態にあることを利用し、あるいはこれに乗じて財物を奪取したというだけでは足りず、たとえその程度は軽くとも、財物奪取の手段としての新たな暴行又は脅迫がなされたことが必要であるというのである
  • しかし、本件のように、被告人自らあるいは共犯者の行為により、被害者をして、犯行を抑圧された畏怖状態に陥れ、かつ、前認定のとおり、いまだ、共犯者が強姦の実行行為を継続中であり、被告人自身もその傍らで見張り行為をしている最中に、被告人が単独で被害者の財物を奪取する旨決意してこれを実行し、その後も共犯者による強姦の実行行為や被告人自身による見張り行為が継続された場合、強盗罪の成立を否定する理由は見当らない
  • 共犯者が現に実行継続中の行為は、被告人もその罪責を負うべき暴行行為にほかならず、本件の場合、被告人に財物奪取の犯意が生じた後に、被告人自身の行為による財物奪取に向けたあらたな特段の暴行又は脅迫がないのは、むしろ、その必要がないためと解される
  • また、被告人に、右状況にあることを認識した上で財物奪取に及ぼうとする意思があったことの優に認められる本件の場合は、強盗の犯意に欠けるところもない

と判示し、共犯者の強姦を暴行脅迫の手段とする強盗罪の成立を認めました。

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