強盗罪の客体(他人の「財物」と他人の「身体・自由」)
強盗罪(刑法236条)の行為の客体(対象)は、
他人の「財物」と他人の「身体・自由」
です。
今回は、強盗罪における他人の「財物」について詳しく説明します。
法人や国の財物も強盗罪の被害品になる
他人の財物の「他人」には、 自然人(人)ばかりでなく、
などの財産を所有し得る主体を含みます。
強盗犯人が所有する財物であっても、他人の占有に属すれば、強盗罪の客罪になる
強盗犯人が所有する財物であっても、
- 他人の占有に属するとき
- 公務所の命により他人が看守しているとき
は、他人の財物となり(刑法242条)、強盗罪の客体になります。
他人の占有は、
- 法律上の正当な権限に基づくことを要しない(最高裁判決 昭和34年8月28日)
- 現実に物を支配していれば足りる(大審院判決 明治44年12月19日)
- 被侵害者の所有に属するか否かを問わない(最高裁判決 昭和24年2月22日)
という判例が出ています。
不動産は「1項強盗」の客体にならないが、「2項強盗」の客体になる
刑法236条1項の強盗罪(1項強盗)の客体となる他人の「財物」には、不動産は入りません。
これは、不動産が窃盗罪の客体にならず、不動産窃盗は、刑法235条2の不動産侵奪罪で処罰することになるのと同様の考え方です(詳しくは前の記事参照)。
したがって、暴行、脅迫により、他人の反抗を抑圧して不動産を侵奪しても、刑法236条1項の強盗罪の成立はありません。
ただし、その侵奪が財産上の不法の利益と評価し得るのあれば、刑法236条2項の強盗利得罪(2項強盗)が成立することになります。
麻薬、覚せい剤、拳銃などの禁制品も強盗罪の客体になる
麻薬、覚せい剤、拳銃といった禁制品や法禁物も、強盗罪の客体になり、禁制品・法禁物を強取した場合、強盗罪が成立します。
最高裁は、以下の判例で、禁制品・法禁物であっても、財物性を認め、事実上の占有状態を保護の客体とする考えを強調し、強盗罪などの客体となるとしています。
この判例で、裁判官は、
- 刑法における財物奪取の規定は、人の財物に対する事実上の支配を保護せんとするものである
と述べ、これを理由に、隠匿物資である元の軍用アルコールに対する詐欺罪の成立を認めました。
この判例で、裁判官は、
- 刑法における財物取罪の規定は、人の財物に対する事実上の所持を保護せんとするものであって、これを所持するものが、法律上その所持を禁じられている場合でも、現実にこれを所持している事実がある以上、社会の法的秩序を維持する必要上、物の所持という事実上の状態それ自体が保護せられ、みだりに不正手段によってこれを侵すことを許さぬものである
- されば、Aが事実上所持していた本件濁酒が、所有並びに所持を禁じられていたものであるとしても、被告人が不正手段によって、Aの所持を奪った判示行為に対し、窃盗罪として処断した原判決は正当である
と判示し、酒税法違反の密造酒について、窃盗罪の成立を認めました。
この判例は、覚せい剤について、事案の実態から、1項強盗とはせず、覚せい剤持ち逃げ後の代金支払を免れるための殺人未遂行為を2項強盗による強盗殺人未遂罪を認定しました。
船舶、航空機も強盗罪の客体になる
財物である以上、船舶、航空機も強盗罪の客体になります。
具体的事例として、航空機に対するハイジャックに強盗罪を認めた東京地裁判決(昭和52年3月1日)、強盗未遂罪を認めた最高裁決定(昭和50年12月5日)があります。
なお、航行中の航空機については、航空機の強取等の処罰に関する法律が適用されるため、航行中である限り、同法律の航空機強取罪が成立し、強盗罪は成立しません。
次回の記事に続く
今回の記事では、強盗罪(刑法236条)の行為の客体(対象)は、
他人の「財物」と他人の「身体・自由」
であり、他人の「財物」について詳しく説明をしました。
次回の記事では、他人の「身体・自由」について詳しく説明します。