強盗罪に関し、成人と刑事未成年者との間の共謀共同正犯の成立を認めた事例
母親Xが、12歳10か月の長男Yに、勤務先の経営者から金品を強取するよう指示・命令し、Yが一人で勤務先に赴き、経営者を脅迫して現金等を強取したという事案で、裁判官は、
- 本件当時、Yには是非弁別の能力があり、Xの指示命令はYの意思を抑圧するに足る程度のものではなかった
- Yは、自らの意思により本件強盗の実行を決意した上、臨機応変に対処して本件強盗を完遂したことなどが明らかである
- これらの事情に照らすと、Xにつき本件強盗の間接正犯が成立するものとは認められない
- そして、Xは、生活費欲しさから本件強盗を計画し、Yに対し、犯行方法を教示するとともに、犯行道具を与えるなどして、本件強盗の実行を指示命令した上、Yが奪ってきた金品をすべて自ら領得したととなどからすると、Xについては、本件強盗の教唆犯ではなく、共同正犯が成立する
と判示し、強盗罪に関し、成人と刑事未成年者との間の共謀共同正犯の成立を認めました。
共謀の内容に食い違いがある場合の共同正犯の成否
謀議の内容と現実行為とが齟齬を来たした場合でも、強盗という点で共謀がある以上、強盗の共同正犯が成立する
謀議の内容と現実行為とが齟齬を来たした場合でも、強盗という点で共謀がある以上、その構成要件の範囲内の違いは、強盗の共犯の成立を妨げるものではありません。
参考となる判例として、以下のものがあります。
この判例で、裁判官は、
- 数人が「ジタバタするな」とか、「黙っておれ」とか脅迫して財物を強取する共謀をした以上、そのうちの1人が打合せと違って、「旅の者だ、俺は札幌の者だ、人殺しを知っているだろう」「騒げば危いぞ」と脅迫したとしても、共犯の成立を妨げない
- 強盗の共謀があったことが認められる以上、実際に脅迫に使用した文言が、共謀のときに打合せた脅迫の文言と多少異なったからとて、強盗罪の成立を妨げるものではない
と判示しました。
1項強盗の共謀をしたが、実行正犯が2項強盗をした場合も、2項強盗の共同正犯が成立する
1項強盗(刑法236条1項の強盗)の共謀をしたが、実行正犯が2項強盗(刑法236条2項の強盗)をした場合も、2項強盗が成立します。
この点について判示した以下の判例があります。
福岡高裁判決(昭和61年7月17日)
この判例で、裁判官は、
- 被告人は、共犯者C及びEとの間で、財物である覚醒剤奪取の手段とする意図をも合わせ有するものとして、被害者Dを殺害する共謀を遂げたものであるところ、Eは、Dからの覚醒剤の返還請求あるいは覚醒剤の代価相当額の支払い請求をCにおいて免れるための手段とする意図をも合わせ有するものとして、Dの殺害行為に及んだものである
- よって、共謀と実行行為との間に齟齬が生じているけれども、その齟齬は、いわゆる一項強盗に及ぶか二項強盗に及ぶかの違いに過ぎず、実行正犯者が強盗殺人の行為に及んだことについて、被告人らには何ら錯誤はないというべきである
- その上、そもそも、被告人らを含む共謀者の間においては、Dの殺害は、単に覚醒剤の奪取のためのみにとどまらず、これによる利益を確保し、被害者からの返還請求や代価相当額の請求等に関する種々の追及を免れることを究極の目的とし、その手段とするためのものでもあることについての認識を有していたものと認めることができる
- このことからすると、実行行為における主観的要素の内容は、もともと共謀の内容に含まれているものということすらできるのであるから、いずれにしても共謀と実行行為との間の右の齟齬は、被告人らの強盗殺人未遂罪の共謀共同正犯の成否に影響を及ぼさないものと解するのが相当である
と判示し、1項強盗を共謀したが、強盗の実行者が2項強盗を行った場合、1項強盗を共謀した者に対しても2項強盗の共同正犯が成立するとしました。
暴行のみについて共謀があり、財物奪取について共謀がない場合は、強盗の共同正犯は成立しない
暴行のみについて共謀があり、財物奪取について共謀がない場合、強盗の共同正犯が成立する余地はななく、共犯者が強盗を実行したとしても、暴行のみを共謀した者に対しては、暴行罪(又は相手がけがをすれば傷害罪)の共同正犯が成立するにとどまります。
この点について、以下の判例があります。
大阪地裁判決(昭和44年6月21日)
この判例は、検察官が、被告人AとBを強盗致傷罪の共同正犯で起訴に対したのに対し、裁判官は、AとBに間に暴行のみの共謀を認め、Bの財物奪取についての共謀を否定し、AとBの両名に対する傷害罪の共同正犯が成立し、Aに対する強盗罪の単独犯の成立するとしました。
判決で認定された罪となるべき事実の要旨は以下のとおりです。
(罪となるべき事実)
1、被告人A、Bは、映画館で、ともに映画を観覧中、映画を観ていた被害者Tと被告人Aの視線がたびたび出会ったため、被告人AはTに顔をじろじろ見られていると憤激し、Tを殴打しようと意図するにいたり、被告人Bにその旨を告げて加勢を求め、被告人Bもこれを了承し、ここに被告人A、B両名は共謀のうえ、被告人AがTに近づいて「さっきから顔をじろじろ見ているけれど何か用があるか。」などと言いながら、Tの胸のあたりをつかんでTを同映画館北喫煙室まで連れ出し、他方、この様子をみていた被告人Bも続いて同喫煙室にいたり、同所において、被告人A、B両名は、Tに対し、交互に、羽交締めにしたり、その顔面を十数回殴打し、あるいは身体を足蹴にする等の暴行を加え、よつてTに対し、治療約5日間を要する顔面打撲傷、右口唇裂傷の傷害を負わせ
2、被告人Aは、喫煙室内において、右行為のため、Tが片膝をついて倒れるようにうつむいた際、そのズボンの右ポケツトから現金がのぞいているのを発見してこれを奪取しようと考え、Tが、前記暴行によりその反抗を抑圧された状態に陥っているのに乗じ、ポケツトに手をこじ入れて、むりやり現金3000円を奪ってこれを強取したものである。
裁判官は、判決理由について
- 証拠によれば、被告人らは、日中、人の出入りの多いと推測される映画館内の喫煙室にTを連行して暴行を加えたもので、その際、Tに対し、金員要求の言動(金員を出せと脅迫するとか、身体にさわつて金員を探すとか)に出た形跡も認められないところであり、これらの諸情況からも、被告人両名の行為を通じて、被告人らに金員強取の犯意があったと認めることはできない
- 強盗致傷の点については、被告人両名に、強盗の共謀ないしは共同実行の事実を認めることができず、結局、強盗致傷罪の成立はこれを否定せざるをえない
- 被告人Aは、当時、Tが、前になされた被告人両名の暴行により反抗を抑圧された状態に陥っているのに乗じ、むりやり被害者のポケツトに手をこじ入れ、その意思に反して現金を奪取したものであるから、このような場合においては、右現金奪取のときにおいて、前になされた暴行は、右現金奪取のための暴行と法律上同一視すベきである
- したがって、被告人Aの所為は、強盗罪に該当する
- 次に、被告人Bについていうと、同被告人が、被告人Aから現金の交付を受けたときは、すでに、被告人Aの強盗行為は完了しており、その事前に、被告人Bが、同Aの右行為に加功する意図があったことを認めるに足りる証拠はないので、被告人Bについては、強盗罪は、成立しない
と判示しました。
強盗の共犯者の1人が、財物奪取の手段として暴行した結果、被害者に傷害を生じさせたときは、共犯者全員に強盗致傷罪の共同正犯が成立する
強盗の共犯者の1人が、財物奪取の手段として暴行した結果、被害者に傷害を生じさせたときは、共犯者全員に強盗致傷罪(強盗致傷罪・強盗傷人罪)が成立します。
この点について、以下の判例があります。
この判例で、裁判官は、
- 強盗の共犯者中の一人の施用した財物奪取の手段としての暴行の結果、被害者に傷害を生ぜしめたときは、その共犯者の全員につき、強盗傷人罪は成立するのであって、このことは強盗傷人罪がいわゆる結果犯たるの故にほかならない
と判示し、強盗の共謀がある以上、共犯者全員に強盗傷人罪が成立するとし、その理由として、強盗傷人罪は強盗罪の結果的加重犯だからであるとしました。
この判例は、強盗の共犯者の1人が、強盗着手後、家人に騒がれて逃走中、巡査に追い付かれ逮捕されそうになって、これを免れるため切りつけて死亡させたときは、共犯者全員に強盗殺人罪が成立するとしました。
この判例で、裁判官は、
- 相被告人Aは、被告人と共謀の上、強盗に着手した後、家人に騒がれて逃走し、なお泥棒、泥棒と連呼追跡されて逃走中、警視庁巡査に発見され追い付かれて、まさに逮捕されようとした際、逮捕を免れるため、同巡査に数回切りつけ、遂に死に至らしめたものである
- されば、右Aの傷害致死行為は強盗の機会において為されたものといわなければならないのであって、強盗について共謀した共犯者らは、その一人が強盗の機会において為した行為については、他の共犯者も責任を負うベきものである
- それ故、相被告人Aの行為について、被告人も責任を負わなければならないのである
と判示しました。
なお、専門家の評価として、巡査を切りつけていない他の共犯者に殺意がなかったのであれば、強盗殺人罪の共同正犯ではなく、強盗致傷罪の共同正犯が成立するにとどまるとされています。
この点、暴行・傷害を共謀した共犯者の1人が殺人罪を犯した場合に、他の共犯者については傷害致死罪の共同正犯が成立するとした最高裁決定(昭和54年4月13日)があります。
裁判官は、
- 殺人罪と傷害致死罪とは、殺意の有無という主観的な面に差異があるだけで、その余の犯罪構成要件要素はいずれも同一であるから、暴行・傷害を共謀した被告人Cら7名のうちのJが交番前でG巡査に対し、未必の故意をもって殺人罪を犯した本件において、殺意のなかった被告人Cら6名については、殺人罪の共同正犯と傷害致死罪の共同正犯の構成要件が重なり合う限度で、軽い傷害致死罪の共同正犯が成立するものと解すべきである
- すなわち、Jが殺人罪を犯したということは、被告人Cら六名にとっても暴行・傷害の共謀に起因して、客観的には殺人罪の共同正犯にあたる事実が実現されたことにはなるが、そうであるからといって、被告人Cら六名には、殺人罪という重い罪の共同正犯の意思はなかったのであるから、被告人Cら6名に殺人罪の共同正犯が成立するいわれはない
と判示しました。
この判例は、強盗傷人罪は、強盗の結果的加重犯であって単純一罪であるから、犯人が、強盗目的で暴行を加えた事実を認識しながら、ともに金品を強取しようと決意して、互いに意思を連絡して金品を強取した者は、仮りに共犯者が先になした暴行により生じた傷害について何ら認識がなくても、強盗傷人罪の共同正犯の刑責を負うことになるとしました。
裁判官は、
- 刑法第240条前段の罪は、強盗の結果的加重犯であって、単純一罪を構成するものであるから、他人が強盗の目的をもって暴行を加えた事実を認識して、この機会を利用し、ともに金品を強取せんことを決意し、ここに互いに意思連絡の上、金品を強取したものは、たとえ共犯者が先になしたる暴行の結果生じたる傷害につき、なんら認識なかりし場合といえども、その所為に対しては、強盗傷人罪の共同正犯をもって問擬(もんぎ)するのが正当である
- 被告人は、Aほか1名と飲酒して札幌市ab丁目の電車通を相前後して通行中、Aが金品強取の目的をもって通りかかったBの顔面を殴打し、「金を出せ」と要求しているのを知って、自己もこの機会を利用して金品を強取せんことを企て、直ちにAと協力し、ここにAと意思連絡の上、まずBからB所持の金700円を奪い、更にAがBの左腕を抑え、被告人がBのはめていた腕時計を外してこれを強奪し、その際、Aの暴行によりBの右眼部に治療1週間を要する打撲傷を負わしめた事実を認める
- しからば、被告人の所為は、冒頭説示の理由により、強盗傷人罪の共同正犯にあたることもちろんである
と判示しました。