刑法(強盗罪)

強盗罪(40) ~「強盗罪における教唆犯」を判例で解説~

強盗罪における教唆犯

 強盗罪における教唆犯について説明します(教唆犯の詳細説明については前の記事参照)。

強盗教唆が成立するためには、強盗教唆と強盗の実行行為との間に因果関係が必要である

 強盗教唆の成立を認めるに当たり、強盗を教唆した者(教唆犯)と、強盗を実行した者(正犯)の実行行為との間には、因果関係が必要です。

 この点、参考となる判例として、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和25年7月11日)

 この判例は、教唆を受けて強盗の決意をし、他人の家に侵入したが、母屋に入れなかったため断念したものの、共犯者が、ただでは帰れないと言い出し、隣家に押し入ったので、外で見張りをした事案について、教唆者の教唆と被教唆者の実行行為との間の因果関係が明らかでないとして、破棄差戻し(原審の裁判所に審理のやり直しを命じること)を言い渡しました。

 裁判官は、

  • 被告人Aは、Bに対して、F方に侵入して金品を盗取することを使嗾し、もって窃盗を教唆したものであって、G商会に侵入して窃盗をすることを教唆したものでなく、しかも、Bは、Cら3名と共謀して、G商会に侵入して強盗をしたものである
  • しかし、犯罪の故意ありとなすには、必ずしも犯人が認識した事実と、現に発生した事実とが、具体的に一致(符合)することを要するものではなく、右両者が犯罪の類型(定型)として規定している範囲において一致(符合)することをもって足るものと解すべきものである
  • よって、Bの住居侵人強盗の所為が、被告人Aの教唆に基いてなされたものと認められる限り、被告人Aは、住居侵入窃盗の範囲において、Bの強盗の所為について、教唆犯としての責任を負うべきは当然である
  • 被告人Aの教唆行為において指示した犯罪の被害者と、本犯たるBのなした犯罪の被害者とが異なる一事を以て、直ちに被告人AにBの犯罪について何らの責任なきものと速断することを得ないものと言わなければならない
  • 被告人Aの本件教唆に基いて、Bの犯行がなされたものと言い得るか否か、換言すれば、右両者間に因果関係が認められるか否かという点について検討するに、原判決によれば、Bは被告人Aの教唆により強盗をなすことを決意し、Cほか2名と共に日本刀、短刀各一振、バール1個等を携え、強盗の目的でF方奥手口から、施錠を所携のバールで破壊して屋内に侵入したが、母屋に侵入する方法を発見し得なかったので断念し、更に、同人らは犯意を継続し、その隣家のG商会に押し入ることを謀議し、Bは同家付近で見張をなし、Cら3名は屋内に侵入して強盗をしたというのである
  • 原判文中に「更に同人等は犯意を継続し」とあることに徴すれば、原判決は、被告人Aの教唆行為と、B等の住居侵入強盗の行為との間に因果関係ある旨を判示する趣旨と解すべきが如くであるが、他面、第一審公判調書中のBの供述記載によれば、Bの本件犯行の共犯者たるCら3名は、F方裏口から屋内に侵入したが、やがてC3名は母屋に入ることができないといって出て来たので、諦めて帰りかけたが、右3名は、我々はゴツトン師であるからただでは帰れないと言い出し、隣のラジオ屋に入って行ったので、自分は外で待っておった旨の記載がある
  • これによれば、BのE方における犯行は、被告人Aの教唆に基づいたものというよりも、むしろBは、一旦、教唆に基く犯意は障害のため放棄したが、たまたま、共犯者3名が強硬にG商会に押し入ろうと主張したことに動かされて、決意を新たにして、遂にこれを敢行したものであるとの事実を窺われないでもないのである
  • あれこれ総合するときは、原判決の趣旨が、果して明確に被告人Aの教唆行為と、Bの判示所為との間に、因果関係があるものと認定したものであるか否かは頗る疑問であると言わなければならないから、原判決は、結局、罪となるべき事実を確定せずして法令の適用をなし、被告人Aの罪責を認めた理由不備の違法あることに帰す

と判示しました。

強奪した目的物が、教唆したものと違っていても、強盗教唆が成立する

 教唆と実行行為との間に因果関係がある限り、強奪した目的物が、教唆したものと違っていても、強盗教唆罪が成立します。

 この点について判示した以下の判例があります。

大審院判決(明治45年5月17日)

 この判例で、裁判官は、

  • 強盗の教唆に基づき、被教唆者の現に奪取したる目的物が、教唆者の指示に異なれる一事は、教唆者の責任に影響を及ぼすべきものにあらず

と判示しました。

教唆者が窃盗を教唆したところ、被教唆者が強盗を実行した場合、教唆者は窃盗罪の犯意で刑責を負い、窃盗教唆が成立する

 教唆者が窃盗を教唆したところ、被教唆者が強盗を実行した場合、教唆者は窃盗罪の犯意で刑責を負い、教唆者には、強盗教唆ではなく、窃盗教唆が成立します。

 この点について以下の判例があります。

最高裁判決(昭和25年7月11日)(前掲の判例)

 この判例は、被害者に対する住居侵入窃盗を教唆した者は、被教唆者がそれに基づいて他の被害者に対する住居侵入強盗をした場合に、住居侵入窃盗教唆の範囲で刑責を負うにすぎないとしました。

 なお、この判例の結論は、刑法38条2項の解釈から導き出されます。

事後強盗を教唆したところ、被教唆者が強盗をした場合は、教唆者に対して強盗罪が成立する

 事後強盗を教唆したところ、被教唆者が強盗をした場合は、教唆者に対しては強盗罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

名古屋高裁判決(昭和35年10月5日)

 この判例は、事後強盗を教唆したところ、被教唆者が強盗をした場合は、強盗罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人らの準強盗(強盗予備)の共謀に基いて、共犯者Aが現実に実行したところは、Bに対し暴行を加え、その反抗を抑圧して現金を奪取する強盗の行為であった
  • ところで、このように準強盗(強盗予備)を共謀した共犯者の一人が、他の者に諮ることなく強盗行為に及んだ場合であっても、その共謀にかかるところもまた強盗をもって論ぜられるものである以上、その共謀にかかるところと実行行為との間に、その共同意思実現の態様としては異るところがあっても、両者は共に強盗罪としての刑法的評価に服するわけのものである

と判示しました。

強盗を教唆したところ、被教唆者が強盗致死罪を犯した場合、教唆者に対して強盗致死罪が成立する

 強盗の教唆をしたところ、被教唆者が逮捕を免れるため人を死に至らしめた場合、教唆者に対しても、強盗致死罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

福岡高裁判決(昭和36年8月31日)

 この判例で、裁判官は、

  • 思うに、刑法第236条の強盗罪と同法第238条のいわゆる事後強盗罪とは、犯罪の構成要件を異にするが、前者(強盗罪)は財物盗取の手段として暴行脅迫を加える罪であり、後者(事後強盗罪)は財物盗取(又はその未遂)後、これを確保する等のため暴行脅迫を加える罪であって、両者は犯罪の態様が酷似し、いずれも強盗罪をもって評価せられる犯罪類型に属し、かつ法定刑も全く同一であるから、強盗を共謀した上、窃盗に着手した後、共犯者の一人において事後強盗をしたときは、行為につき共犯者はすべて故意の責任を負うべきものと解するのが相当である
  • 本件についてみると、被告人両名は、Tらと強盗を共謀して窃盗に着手し、未遂に終わったものであるから、共犯者Tが犯行現場で咄嗟に単独で逮捕を免れるため盗難被害者に暴行を加えた事後強盗につき、たとえ予見を有しなくとも、故意の責任を免れ得ないものというべきである
  • そして、強盗致死は強盗の結果的加重犯であって、強盗と致死との間に因果関係の存することをもって足り、致死の結果に対し予見や過失を要しないものと解すべきであるから、被告人両名がTの作為による事後強盗につき共謀共同正犯としての責任を有する以上、右強盗による致死の刑責を免れることができない筋合である

と判示しました。

 以下の判例は、傷害罪の事案ですが、上記判例と同様の考え方の判例なので、参考に紹介します。

最高裁判決(昭和25年10月10日)

 この判例は、正犯が、被害者に傷害を加えるに至るかも知れないと認識しながら、匕首(ナイフ)を貸与して、傷害を幇助したところ、正犯において、殺人の意思をもって、匕首により被害者を刺し殺した場合には、幇助者は、傷害致死幇助として、刑法第205条第62条第1項をもって、これを処断すべきであるとしまし。

 裁判官は、

  • 被告人が、正犯たるA(被教唆者)において、被害者両名に傷害を加えるに至るかも知れないと認識しながら匕首を貸与したところ、右Aが殺人の意思をもって、匕首により被害者両名を刺殺した事実、すなわち、被告人Bに対する関係においては、本件犯罪事実は犯意と現に発生した事実とが一致しない場合である
  • 本件は、前段に説明した如く、被告人の認識したところ、すなわち犯意と現に発生した事実とが一致しない場合であるから、刑法第38条第2項の適用上、軽き犯意について、その既遂を論ずべきであって、重き事実の既遂をもって論ずることはできない
  • 原判決は、右の法理に従って法律の適用を示したもので、幇助の点は、客観的には殺人幇助として刑法第199条第62条第1項に該当するが、軽き犯意に基き、傷害致死幇助として刑法第205条、第62条第1項をもって処断すべきものである

と判示し、教唆者が、暴行・脅迫をすることについて教唆した際、被教唆者が傷害を加えるかもしれないとの予見がある以上、教唆者は、殺人についてはともかく、致死の範囲内で刑責を負うことになり、傷害致死幇助が成立するとしました。

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