刑法(強盗罪)

強盗罪(20) ~強盗利得罪(2項強盗)②「2項強盗を認めるに当たり、被害者による財産的処分行為は不要である」を判例で解説~

2項強盗を認めるに当たり、被害者による財産的処分行為は不要である

 財産的処分行為とは、

物・財産上の利益を相手方に移転させる行為

をいいます。

 詐欺罪(刑法249条)においては、被害者が、犯人に対し、財産的処分行為を行うことが、詐欺罪の成立要件になっています(詳しくは前の記事参照)。

 これに対し、強盗利得罪(2項強盗)の成立を認めるに当たっては、財産的処分行為の存在は、犯罪成立の必須要件ではなく、財産的処分行為がなくても、強盗利得罪(2項強盗)の成立が認められます。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和6年5月8日)

 タクシー運転手の首を絞め、運賃の支払を請求することを不能な状態にし、その支払を免れた事案で、裁判官は、

  • 不法利得との間に因果関係あるをもって足れりとし、常に必ずしも被害者の意思表示あるを要するものにあらず

と判示して、2項強盗の成立を認めるに当たり、被害者の財産上の処分行為(意思表示)を不要とする立場を示しました。

最高裁判決(昭和32年9月13日)

 強盗殺人未遂の事案で、裁判官は、

  • 刑法236条2項の罪は、1項の罪と同じく処罰すべきものと規定され、1項の罪とは不法利得と財物強取とを異にするほか、その構成要素に何らの差異がなく、1項の罪におけると同じく、相手方の反抗を抑圧すべき暴行、脅迫の手段を用いて財産上の不法利得するをもって足り、必ずしも相手方の意思による処分行為を強制することを要するものではない
  • 犯人が債務の支払を免れる目的をもって、債権者に対し、その反抗を抑圧すべき暴行、脅迫を加え、債権者をして支払の請求をしない旨を表示せしめて支払を免れた場合であると、右の手段により、債権者をして、事実上支払の請求をすることができない状態に陥らしめて支払を免れた場合であるとを問わず、ひとしく刑法236条2項の不法利得罪を構成するものと解すべきである

と判示し、2項強盗の成立を認めるに当たり、必ずしも被害者の意思による財産的処分行為を強制することを必要とするものではないとしました。

 その後、この判例の「強盗罪の成立を認めるに当たり、相手方の意思表示を不要とする考え方」は、最高裁判決(昭和35年8月30日)でも追認されています。

最高裁決定(昭和61年11月18日)

 強盗殺人未遂の事案で、裁判官は、

  • 被告人による拳銃発射行為は、被害者を殺害して、同人に対する本件覚せい剤の返還ないし買主が支払うべきものとされていたその代金の支払を免れるという財産上不法の利益を得るためになされたことが明らかであるから、右行為はいわゆる2項強盗による強盗殺人未遂に当たる

と判示し、強盗殺人未遂罪を認めるに当たり、被害者の財産的処分行為は不要とする立場をとりました。

札幌高裁判決(昭和32年6月25日)

 この判例で、裁判官は、

  • 強盗罪における強取は、被害者の意思による作為、不作為を不能の状態にしておいて、財産を奪取するところにその特質があることに鑑みると、これと本質を同じくする刑法第236条第2項にいう不法利得に限り、特に被害者の処分行為を要するとすることは、何ら理由がない
  • されば、被告人の暴行により、被害者Aは、その債権を免除する等特段の意思表示ないし処分を強制されてはいないが、被告人は、その債務を免れるため、同女に対し、暴行を加え、その反抗を抑圧し、その意思による作為、不作為を不能の状態にしておいて、右債務の支払を免れたというのであるから、これによって財産上不法の利益を得たものといわざるを得ない

と判示し、強盗致傷罪を認めるに当たり、被害者の財産的処分行為は不要とする立場をとりました。

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