強盗罪における暴行は、直接人の身体に加えられたものでなくてもよく、人に対して向けられたものであることを要する
強盗罪(刑法236条)における暴行は、直接人の身体に加えられたものでなくてもよいが、少なくとも人に対して向けられたものであることを要します。
なので、たとえば、被害者を直接狙わず、まず、その乗車している自動車のタイヤを拳銃で射ち抜いて金品を要求する行為でも、強盗罪の暴行といえます。
以下の判例は、強盗罪における暴行を否定した判例ですが、強盗罪における人に対して向けられた暴行の判断基準として参考となる判例なので、紹介します。
この判例は、夜間、高速度で走行中の自動車に手拳大の石を投げつけただけでは、反抗を抑圧する程度の暴行とはいえないとし、強盗未遂罪ではなく、暴力行為等処罰に関する法律1条1項を認定しました。
裁判官は、
- 夜間、高速度で進行中の自動車に、手拳大の石を投げつけたとて、反抗を抑圧する程度の暴行とは認め得ないところであり、この暴行だけで直ちに強盗罪の実行の着手があったものとは認められない
と判示しました。
強盗罪における暴行の具体的事例
判例上、強盗罪における反抗を抑圧する程度の暴行があったと認定された行為として、以下のものがあります。
① 午後7時頃、58歳と26歳の女性だけの家に、成年男子3人が侵入して、58歳の女性の口元を手で押えようとした行為(最高裁判決 昭和23年10月21日)
② 午後11時頃、路上で突然婦人に抱きつき、額を突いて路上に転倒させる行為(最高裁判決 昭和24年5月19日)
③ 野球のバットで殴る行為(東京高裁判決 昭和33年10月30日)
④ ハンカチに包んだ玩具のピストルを脇腹に突きつけ、手首をねじる行為(東京高裁判決 昭和37年4月12日)
⑤ 日本刀を突きつける行為(最高裁判決 昭和28年2月19日)
⑥ 深夜、男子3人で住宅に侵入して、家人に草刈鎌、ナイフを突きつける行為(最高裁判決 昭和23年11月18日)
⑦ あいくち類似の大工道具しのを、夜間路上で脇腹に突きつける行為(名古屋高裁判決 昭和35年9月21日)
⑧ 身辺に出刃包丁を突き出す行為(東京高裁判決 昭和48年7月30日)