刑法(強盗罪)

強盗罪(9) ~「暴行・脅迫は軽徴でも、周囲の客観的状態から、強盗罪が成立する場合がある」を判例で解説~

暴行・脅迫は軽徴でも、周囲の客観的状態から、強盗罪が成立する場合がある

 暴行・脅迫それ自体は比較的軽徴で、それ自体では、被害者の反抗が抑圧されないものの、周囲の客観的状態から、反抗を抑圧された認定でき、強盗罪が成立する場合があります。

 この点についいて、参考となる判例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和29年10月7日)

 この判例は、

  • 午後10時40分頃、人家や人通りのない淋しい道路上で、直接犯行には加わらなかったものの、同行の米兵2名が控えている情況下で、一人だけの被害者を自動車の運転台から引きずり下ろし、その顔面を1回殴打した上、同人の頸部を強く握りながら『ギヴミーマネー』と申し向けただけでも、周囲の客観情勢を考える限り、社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足る程度の暴行・脅迫に当たる

として、強盗罪の成立を認めました。

仙台高裁判決(昭和28年6月8日)

 この判例は、

  • 夜間、女一人だけの住居に侵入し、寝室の障子を体ごとぶつけて破って、寝ていた女の上に転び込んで、これを押えつけ、「金1万円貸してくれ」という行為も反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫といえる

として、強盗罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和37年4月12日)

 被告人ら男3名が、女性A(24歳)を取り囲み、被告人Fが、Aの左側斜め後方から、右手にハンカチーフに包むようにして持っていた玩具のピストルをAの左脇の辺に突き付け(Aはは玩具のピストルを突きつけられたことに気付いていない)、Aの左肩を叩いて「静かにしろ」と申し向けながら、左手でAの左手首をねじ上げた上、Aが左手に提げて持っていた現金や通帳が入った封筒を1個を引ったくって奪取した事案です。

 一審では、暴行脅迫は未だ相手方の反抗を抑圧する程度に達していないため、強盗罪は成立しないとし、窃盗罪を認定しました。

 しかし、控訴審では、裁判官は、以下のとおり判示して、強盗罪を認定しました。

 裁判官は、

  • 本件犯行が行なわれた場所は、駒形橋上の西端寄りのアーチの付け根付近の歩道上であって、本件犯行当時、車道上には自動車の往来が相当あったが、アーチが邪魔になって車道及び反対側の歩道からの見透しが利かず、又その当時、本件犯行が行なわれた側の歩道上には通行人がなく、なお付近には人家もないことが明らかである
  • 白昼公道上とはいいながら、このようにほとんど助けを求めるもないような場所で、屈強の男が三人で、か弱い一人の女性を取り囲んだ上、その内の一人がハンカチーフに包むようにしで持っていたにせよ、玩具のピストルをAの脇の辺に突き付け、Aの肩を叩いて静かにしろと申し向けながら手首をねじ上げて、その手に提げて持っていた大型封筒を引ったくったことは、たとえ他の二名の者がAを取り囲んだ以外には、別にAを畏怖させるに足るような言動に出なかったとしても、これをもって、社会通念上、相手方の反抗を抑圧するに足る暴行脅迫があったものと認めるのが相当である
  • かつ、Aは、玩具のピストルを突き付けられていることには気付かなかったが、男三人に取囲まれた上、静かにしろと言われて左手首をねじ上げられたので、何をされるかと心配で、逃げるに逃げられず、抵抗しない方がいいと思っていたことが明らかであって、Aは、被告人の右暴行脅迫により、精神及び身体の自由を完全に制圧されはしないとしても、少なくとも、精神及び身体の自由を著しく制圧され、その反抗を抑圧されたものと認めるのが相当である
  • 果して然らば、被告人らがした右の暴行脅迫は、未だ相手方の反抗を抑圧する程度に達していないものとして、被告人らに対する本件各強盗の訴因を窃盗罪に認定した被告人に対する各原判決には、いずれも判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があったものというべきである

と判示しました。

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