刑法(強盗致死傷罪)

強盗致死傷罪(12) ~共同正犯⑤「強盗致死傷罪の犯行中途から加担した共犯者の責任(強盗致傷罪の共同正犯が成立するか?傷害罪のみの共同正犯が成立するか?)」を判例で解説~

強盗致死傷罪の犯行中途から加担した共犯者の責任

 強盗致死傷罪(刑法240条)は、強盗罪と傷害罪、強盗罪と傷害致死罪、強盗罪と殺人罪の結合犯結果的加重犯の性格を持ちます。

 複数の違法行為が結合して一つの構成要件を形成しているから、先行者の犯行に途中から加わって加担した場合、後行者に対し、どの範囲で共同正犯(又は幇助犯)が成立するのかが問題になります。

 たとえば、強盗致傷の場合で、犯行に途中で加わった後行者が、傷害の場面について犯行に加担した場合、後行者は、強盗致傷罪の共同正犯(又は幇助犯)として全部の責任を負うのか、それとも傷害罪の共同正犯(又は幇助犯)として傷害罪のみの責任を負うのかという問題です。

 なお、上記のように、途中から犯行に加わる共同正犯の形態を「承継的共同正犯」といいます。

 この問題の答えは、判例において二分しており、介入前の先行者の行為についても共同正犯(又は幇助犯)の成立を肯定する積極説と、介入後の行為についてのみ共同正犯(又は幇助犯)の成立を認める消極説の二つの立場があります。

 どちらの答えが正しいということはなく、個別の事案ごとに答えが導き出されることになりますので、判例の考え方を理解することが大切になります。

介入前の先行者の行為についても共同正犯(又は幇助犯)を肯定する積極説をとった判例

大審院判決(昭和13年11月18日)

 先行者が強盗殺人の目的で被害者を殺害した後で、後行者が介入し、財物奪取幇助した事案について、刑法240条後段は、強盗罪と殺人罪・傷害致死罪より組成され、各罪種が結合して単純一罪を構成するものであるとして、後行者に強盗殺人罪の従犯幇助犯)の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 他人が強盗の目的をもって人を殺害したる事実を知悉し、その企図する犯行を容易ならしむる意思の下に、その財物強取所為に加担し、これを幇助したるときは、強盗殺人罪の従犯を構成す

と判示しました。

札幌高裁判決(昭和28年6月30日)

 先行者が強盗の目的で被害者を殴って傷害を与え、金品を強取しようとしている際に、後行者が先行者と協力して金品を奪った事案につき、強盗致傷罪は強盗の結果的加重犯であって単純一罪を構成するものであるから、先行者が強盗の目的で暴行を加えた事実を認識してこの機会を利用し、互いに意思連絡のうえ金品を強取したときは、たとえ後行者がさきになした暴行の結果生じた傷害につき認識がない場合でも、強盗傷人罪の共同正犯が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 刑法第240条前段の罪は、強盗の結果的加重犯であって、単純一罪を構成するものであるから、他人が強盗の目的をもって暴行を加えた事実を認識して、この機会を利用し、ともに金品を強取せんことを決意し、ここに互いに意思連絡の上、金品を強取したものは、たとえ共犯者が先になしたる暴行の結果生じたる傷害につき、なんら認識なかりし場合といえども、その所為に対しては、強盗傷人罪の共同正犯をもって問擬(もんぎ)するのが正当である
  • 被告人は、Aほか1名と飲酒して札幌市ab丁目の電車通を相前後して通行中、Aが金品強取の目的をもって通りかかったBの顔面を殴打し、「金を出せ」と要求しているのを知って、自己もこの機会を利用して金品を強取せんことを企て、直ちにAと協力し、ここにAと意思連絡の上、まずBからB所持の金700円を奪い、更にAがBの左腕を抑え、被告人がBのはめていた腕時計を外してこれを強奪し、その際、Aの暴行によりBの右眼部に治療1週間を要する打撲傷を負わしめた事実を認める
  • しからば、被告人の所為は、冒頭説示の理由により、強盗傷人罪の共同正犯にあたることもちろんである

と判示しました。

神戸地裁判決(昭和39年3月10日)

 この判例は、強盗致傷罪の実行行為に途中から加担した者に対し、承継的共同正犯の成立を認めた事例です。

 先行者が強盗目的で被害者に暴行・脅迫を加えてその反抗を抑圧しているのを知りながら、後行者が先行者と意思連絡のうえ、金品を強取したとき、先行者の暴行により被害者が傷害を受けた場合でも、後行者は強盗傷人罪の共同正犯になるとしました。

東京高裁判決(昭和57年7月13日)

 この判例は、後行者は、先行者が、被害者に対し、暴行・脅迫を加えて金品を強奪し、被害者に傷害を与えたのを逐一眼前に目撃していたが、先行者が金品を強取した直後に、後行者は先行者から命ぜられ、被害者に対し暴行を加えた場合には、先行者が強盗の実行行為に着手してから後行者が暴行を加えるまでの一連の所為を包括的に捉えて、これを不可分の関係にある一個の強盗行為の一部を組成するものであり、後行者は強盗の実行行為の一部を分担し、共同正犯として犯罪の一部に承継加担した以上、 自己の直接関与することのなかった先行者の行為を含め、同人につき成立すべき犯罪の全体について同一の罪責を免れないとし、後行者に強盗傷人罪の共同正犯が正立するとしました。

 裁判官は、

  • 犯行現場は、白昼とはいえ、いわゆるドヤ街の中にある人気のない簡易宿泊所の三畳間であって、本件がいわば密室内における犯行である
  • 被告人は、Mが暴行脅迫に及んで金品を強取するとともに、その暴行によって被害者の入歯が飛ばされ、その顔面から血が出ていることなど事の子細を逐一眼前に目撃していながら、Mが金品を強取したまさにその直後に、Mに命じられるまま、被害者を裸にしたり、手足を縛ったり、いわゆる布団蒸しにしたりしたうえ、Mとともにその場から逃げ出したものである
  • このような犯行の一連の流れを全体的に観察し、特に金品強取とその直後に被告人も加わって行った暴行との場所的同一性と時間的接着性、更にその暴行の具体的態様等に徴すると、被告人が加担した以後の暴行は、自己の逃走を容易にする目的のほか、強取した財物を確保し、タクシー料金の支払を免れるという利益の取得を決定的に確実なものにするための手段としても行われたものと認めるのが相当である
  • そして、Mが強盗の実行行為に着手してから、被害者を布団蒸しにするまでの間の一連の所為を包括的にとらえて、これを不可分の関係にある一個の強盗行為とみるのが実体に即するというべきであるから、前記財物及び財産上の利益の取得を確保するという行為は、一個の強盗行為の一部を組成するものである
  • したがって、被告人は強盗の実行行為の一部を分担したものといわなければならない
  • このように、被告人がMの行った一個の犯罪の一部に共同正犯として承継加担した以上、自己の直接関与することのなかったMの先行行為を含め、Mにつき成立すべき犯罪の全体につき同一の罪責を免れないことは当然というべきである
  • 本件は、終始共犯者のMの主導のもとに犯行が遂行され、被告人は、Mから命じられて犯行に加わったとはいえ、その後は積極的に強烈な暴行に及んで強盗の実行行為の一部を分担し、Mと一体となって犯行を推進している事実に徴してみても、それまで気後れして加担をちゅうちょしていた被告人が、Mに促されて翻然意を決し、Mとその意思を通じ合い、Mの行った強盗の実行行為と、その結果を認容してこれに承継加担するに至ったものであることが明らかである
  • 被告人が強盗を実行するについて、Mとの間に暗黙の意思の連絡さえなかったということは到底できない
  • また、被告人が強盗の実行行為の一部を組成する暴行に及んでいることに加えて、その加功の程度など(被害者が両手首に負つた擦過傷は、被告人の緊縛行為によるものであることが証拠上明らかである。)に徴し、従犯にあたらないことも明白であって、被告人が強盗傷人の共同正犯の罪責を負うことに疑問の余地はない

と判示しました。

ポイント

 これら後行者に共同正犯の成立を認めた判例に共通しているのは、後行者は、先行者によってもたらされた既存事実を、部分的な場合も含めて、認識・認容し、これを利用して事後の行為を共同していることにあります。

介入後の行為についてのみ共同正犯を認める消極説をとった判例

 上記判例とは反対に、消極説をとった判例として、以下のものがあります。

福岡地裁判決(昭和40年2月24日)

 この判例は、先行者が強盗の目的で被害者に暴行を加えて傷害を与えた後、後行者が財物奪取に加わったときは、加功前の先行者の行為による致傷の結果については責任を負わないとし、承継的共同正犯の理論を認めなかった事例です。 

 裁判官は、

  • 被告人は、犯行現場に赴く途中、犯行につき、何も聞かされないまま被害者宅まで同行し、「寒いからあがらせてもらえ。」と共犯者Kにさそわれるまま、被害者の居室に入って、Kの被害者に対する言動から、はじめて強盗の意思を察知したものの、当初はこれに加担する意思はないばかりか、むしろ当惑し、Kの犯行に対しては、極めて消極的でたんなる傍観者的な態度をとり、かえってKの犯行中、Kが憤激して立ち上ろうとするのをなだめるなど、事態を悪化させないよう努めたことさえうかがわれる
  • さらに、強盗の所為に出たのも、Kから数回にわたり、背広を持ち帰るよう要求されて止むなくこれに応じたことによることが認められる
  • 本件公訴事実の要旨は、被告人は、Kと共謀のうえ、他人より金品を強取しようと企て、Kの暴行に加え、「とにかく金で片づくことだから3000円でも出せ。」と申向けて、ともども被害者Hの反抗を抑圧して金品を強奪し、その際、暴行により、被害者に対し治療約10日間を要する前額部挫創等の傷害を加えた、というにある
  • 共謀成立の時点について考えるに、被告人の犯行の経緯よりみるとき、当初より共謀があったことを認めることはできない
  • さらに、金品の要求の点について、検討しても、被告人は事態を悪化しないようにいわば仲裁的な意味で「車代でもよいから出してやったらどうか。」との趣旨を言ったと弁解し、この弁解は、被告人の犯行の経緯からみるとき、あながち不自然とは思わない
  • 先行者の行為の途中に後行者が加わった場合については、当裁判所は、後行者の責任についてはそれ自体独立に判断すべきであって、後行者は先行者の責任を承継しないと解するのが相当であると考えるので、被告人に対しては、腕時計等の奪取行為前におけるKの行為については責任がなく、強盗罪として問責すべきものと考える

と判示し、強盗の先行者の傷害行為の後から犯行に加わった被告人に対し、犯行に加わる前の行為については責任がないとして、強盗傷人罪の共同正犯ではなく、強盗罪の共同正犯が正立するとしました。

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