刑法(強盗致死傷罪)

強盗致死傷罪(11) ~共同正犯④「強盗の共犯者の一人が、被害者に強盗に伴う暴行で傷害を負わせた場合、共犯者全員に強盗致死罪又は強盗傷人罪の共同正犯が成立する」を判例で解説~

強盗の共犯者の一人が、被害者に強盗に伴う暴行で傷害を負わせた場合、共犯者全員に強盗致死罪又は強盗傷人罪の共同正犯が成立する

 強盗罪の共犯者中、一部の者が加えた暴行により、被害者に傷害を負わせた場合には、他の共犯者も、強盗致傷罪の責任を負うことになります。

 つまり、この場合、共犯者全員に強盗致傷罪又は強盗傷人罪の共同正犯が成立します。

(強盗致傷罪と強盗傷人罪の違いの説明については前の記事参照)

 なお、強盗の共犯者の1人が、被害者を傷害する故意で、故意犯としての強盗傷人罪を犯したが、他の共犯者には傷害の故意が認められない場合には、他の共犯者に対しては、強盗傷人罪の共同正犯ではなく、結果的加重犯として、強盗致傷罪の共同正犯の責任を負うことになるので、この点は注意して考える必要があります。

 たとえば、強盗の共犯者の1人が故意に被害者を傷害した場合、その共犯者に対しては、強盗傷人罪の共同正犯が成立するが、被害者を故意に傷害する認識がなかった他の共犯者に対しては、強盗致傷罪の共同正犯が成立することなります。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和22年11月5日)

 この判例で、裁判官は、

  • 強盗の共犯者中の一人の施用した財物奪取の手段としての暴行の結果、被害者に傷害を生ぜしめたときは、その共犯者の全員につき、強盗傷人罪は成立するのであって、このことは強盗傷人罪がいわゆる結果犯たるの故にほかならない

と判示し、強盗の共謀がある以上、共犯者全員に強盗傷人罪が成立するとし、その理由として、強盗傷人罪は強盗罪の結果的加重犯だからであるとしました。

最高裁判決(昭和23年4月17)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人がEほか3名と共に、F方で強盗をしようとした際、現実にFに対し日本刀で斬りつけて切創を負わせた者が被告人でないことは、明白なところであるが、刑法第240条前段の強盗傷人罪は、いわゆる結果犯の一種であって、すなわち、強盗が数名の共謀に基づく場合、たまたまその数名の1名が暴行の結果、傷害の結果を発生ぜしめた場合でも、強盗を共謀した者の全員が強盗傷人罪の責を免がれないものと解するのが相当である
  • 而して、Fに対し、暴行脅迫を加えて金品を強取しようということが、被告人とEほか4名との共謀に基づくものであることは、原判決の確定した事実であるから、被告人はFに対し、傷害の結果を発生せしめた実際の行為者でないとしても、到底、強盗傷人罪の責を免がれる訳にはゆかない

と判示し、被告人は、強盗の際、被害者に傷害を負わせていないが、強盗の共犯者であることから、被告人に対し、強盗傷人罪の共同正犯が成立するとしました。

名古屋高裁判決(昭和24年11月25日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人Kは、相被告人(共犯者)Mらと共同して、強盗を決行すべきことを謀議したことが明らかであるから、その実行の分担に加わらなかつたとしても、これを実行した他の共犯者たる右相被告人らによって、その犯意は遂行せられたものにほかならない
  • よって、共同正犯として処断さるべきものであつて、他人を教唆して犯罪を実行させた場合と異なるものというべきである
  • また、右犯罪の実行にあたり、傷人の行為があった以上、右共犯者は、等しく強盗傷人の罪責を負うべきは当然であって、被告人Kが、右Mらに対し、傷だけはつけないように言ったとしても、この一事によって右刑責を免れ得ないものといわねばならぬ
  • 故に、原判決が、被告人Kの所為につき、これを強盗傷人罪に問擬(もんぎ)して処断したのは正当である

と判示し、実行行為(強盗行為と被害者に対する傷害行為)は行っていないが、強盗を共謀した被告人Kに対し、強盗傷人罪の共同正犯の成立を認めました。

札幌高裁判決(昭和28年6月30日)

 この判例は、強盗傷人罪は、強盗の結果的加重犯であって単純一罪であるから、犯人が、強盗目的で暴行を加えた事実を認識しながら、ともに金品を強取しようと決意して、互いに意思を連絡して金品を強取した者は、仮りに共犯者が先になした暴行により生じた傷害について何ら認識がなくても、強盗傷人罪の共同正犯の刑責を負うことになるとしました。

 裁判官は、

  • 刑法第240条前段の罪は、強盗の結果的加重犯であって、単純一罪を構成するものであるから、他人が強盗の目的をもって暴行を加えた事実を認識して、この機会を利用し、ともに金品を強取せんことを決意し、ここに互いに意思連絡の上、金品を強取したものは、たとえ共犯者が先になしたる暴行の結果生じたる傷害につき、なんら認識なかりし場合といえども、その所為に対しては、強盗傷人罪の共同正犯をもって問擬(もんぎ)するのが正当である
  • 被告人は、Aほか1名と飲酒して札幌市ab丁目の電車通を相前後して通行中、Aが金品強取の目的をもって通りかかったBの顔面を殴打し、「金を出せ」と要求しているのを知って、自己もこの機会を利用して金品を強取せんことを企て、直ちにAと協力し、ここにAと意思連絡の上、まずBからB所持の金700円を奪い、更にAがBの左腕を抑え、被告人がBのはめていた腕時計を外してこれを強奪し、その際、Aの暴行によりBの右眼部に治療1週間を要する打撲傷を負わしめた事実を認める
  • しからば、被告人の所為は、冒頭説示の理由により、強盗傷人罪の共同正犯にあたることもちろんである

と判示しました。

東京高裁判決(昭和31年12月28日)

 この判例は、強盗共謀者A、Bのうち、Bが他人の住居に侵入し、強盗を実行し、かつ順次2名に傷害を加えた場合のAの刑責と罪数について、裁判官は、

  • 被告人自身、犯罪の実行行為をなさず、単に謀議に加わったにとどまったとしても、他の共謀者において、本件強盗の犯行に及び、かつ、その実行者の一人が被害者両名に対し、順次傷害を加えたとすれば、被告人は刑法第60条によって、刑法第240条前段の犯罪の刑責を負担するやもちろんである
  • かつ傷害の被害者が2名であり、その加害行為が時間的に相前後してなされたものであるから、この傷害は各別に被害者ごとに成立するものであり、包括して1個の所為とは認められない故、この2個の強盗傷人行為は、住居侵入の所為とそれぞれ刑法第54条第1項後段の関係があるものである

と判示し、被告人Aに対し、2個の強盗傷人罪と住居侵入罪の共同正犯が成立するとました。

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