刑法(強盗致死傷罪)

強盗致死傷罪(6) ~「暴行の故意がなくても、強盗致死傷罪は成立し得る」を判例で解説~

暴行の故意がなくても、強盗致死傷罪は成立し得る

①強盗致傷罪、②強盗致死罪、③強盗致死傷罪、④強盗傷人罪、⑤強盗殺人罪を区別する基本的な考え方

 刑法240条の強盗致死傷罪は、①強盗致傷罪、②強盗致死罪、③強盗致死傷罪、④強盗傷人罪、⑤強盗殺人罪の5つの罪名に分類できます(詳しくは前の記事参照)。

 強盗傷人罪は、強盗の際に、暴行又は傷害の故意をもって暴行を加え、被害者に傷害を負わせた場合に適用される罪名です。

 強盗殺人罪は、強盗の際に、被害者を殺意を持って殺した場合に適用される罪名です。

 強盗傷人罪、強盗殺人罪は、死傷の結果について、故意犯の性格があり、故意をもって、自己の行為により、被害者を死傷させることを表象・認容して行為したものであることを要します。

 対して、強盗致傷罪、強盗致死罪、強盗致死傷罪は、強盗の際に、暴行の故意はあるが、傷害の故意なく、被害者に傷害を負わせ、又は死亡させた場合に適用される罪名です

 故に、強盗致傷罪、強盗致死罪、強盗致死傷罪は、死傷の結果について、結果的加重犯の性格があり、行為者に暴行の故意があればよく、死傷の結果についての認識は必ず必要とされます。

 この考え方は、傷害罪・傷害致死罪の成立を認めるに当たっては、暴行罪の故意があればよく、相手に傷害を負わせる故意まである必要がないという考え方と同じです(詳しくは前の記事参照)。

今回の議題

 強盗致傷罪、強盗致死罪、強盗致死傷罪、強盗傷人罪の成立を認めるに当たっては、

  • 傷害罪・傷害致死罪の場合と同様に、少なくとも暴行の故意は必要なのか
  • それとも、暴行の故意すら必要ないのか

については議論があります。

 強盗致傷罪、強盗致死罪、強盗致死傷罪、強盗傷人罪は、死傷の結果に対して、傷害の故意はなくとも、少なくとも暴行の故意があれば成立することに争いはありません。

 しかし、暴行の故意がなくても、強盗の機会に、強盗犯人の行為で生じた死傷であると認められれば、強盗致傷罪、強盗致死罪、強盗致死傷罪、強盗傷人罪の成立が認められるとする考え方もあります。

 この考え方は、

強盗致死傷罪が設けられたのは、強盗の機会に残虐な行為を伴うことが多く、死傷の結果を生ずることが多いという点に着目したものであって、その意味では、強盗の手段なり、これと一定の関連を有する行為によって死傷の結果が生じたものであれば足り、死傷の発生に暴行の意思が必要というように限定的に解さなければならない理由はない

という考え方から導き出されます。

 実際に、判例を見ていくと、強盗致傷罪、強盗致死罪、強盗致死傷罪の成立を認めるに当たっては、『暴行の故意を必要としない』とするような判断をしている判例が見受けられます

 この点、参考となる判例として、以下の判例があります。

大阪高裁判決(昭和60年2月6日)

 被害者に対し「倒れろ」と命じ、ミニバイクもろとも路上に転倒させて傷害を負わせた事案で、裁判官は、

  • 傷害の結果が強盗の手段から生じた場合はもちろんであるが、強盗の手段たる脅迫によって被害者が畏怖し、その畏怖の結果、傷害が生じた場合に、強盗致傷罪の成立を否定すべき理由はない

と判示し、強盗致傷罪の成立を認めました。

最高裁判決(昭和24年3月24日)

 この判例は、強盗犯人が短刀で脅迫中、たまたま被害者が短刀を握ったため傷害を負った場合も、強盗傷人罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 強盗傷人罪は、強盗たる身分を有する者が、強盗の実行中又はその機会において、その手段たる行為若しくはその他の行為により、人に傷害の結果を発生せしめるにより成立する強盗罪と傷害罪との結合罪である
  • そして原判決は、被告人が所携(しょけい)の短刀をもって、強盗の手段たる脅迫行為の実行中、その機会に傷害を被害者に生ぜしめたものと認定したのであるから、たとえ、その傷害が被害者においてその短刀を握ったため生じたものであったとしても、強盗傷人罪の成立を妨げるものではない

と判示しました。

最高裁判決(昭和28年2月19日)

 被告人が、Aと強盗を共謀して見張をしている間に、Aにおいて、被害者Bに対し、携えていた刃渡り45cmの日本刀を突き付けて「金を出せ」「騒ぐと突き刺すぞ」などと申向けて脅迫し、Bから金員強取しようとしたところ、Bが右手で日本刀にしがみつき、大声をあげて救を求めたため、その目的を果さなかったが、その際、Aがその刀を引いたので、その切先などによりBの右手掌及び左まぶたに全治2週間を要する切創を負わせた事案です。

 裁判官は、

  • 犯人が、被害者に対し、日本刀を突き付ける行為をなせば、それだけでも人の身体に対する不法な有形力を行使したものとして暴行を加えたといい得ることもちろんである
  • かかる際に、被害者がその日本刀にしがみつき救を求め、犯人がその刀を引いたことにより被害者に切創を負わしめたとすれば、その負傷は右暴行による結果たること多言を要しないところである
  • よって、本件は、強盗が暴行を加えずに、ただ脅迫しただけだというような事態ではなく、強盗が暴行により被害者に傷害を加えたとの事案なのである

と判示し、脅迫による傷害ではなく、 日本刀を突きつけるという暴行による傷害であるとし、強盗傷人罪の成立を認めました。

最高裁判決(昭和33年4月17日)

 被告人両名が、強盗を共謀し、被害者Bに、ナイフを突きつけ、「お前は高利貸をして
いるそうだが、これだぞ」と申し向け、あるいは「これでもか、これでもか」と言いながら、2、3回、Bの首やあごのあたりにナイフを突き出して脅迫し、その反抗を抑圧して金員を強奪しようとしたが、Bの抵抗にあい、その目的を遂げることができなかったが、2、3回突き出したナイフの刃が、Bの首とあごに触れてかすったため、擦過傷を負わせた事案です。

 裁判官は、

  • 被告人が、被害者に向ってナイフを突き出す行為は、それ自体、人の身体に対する不法な有形力を行使したものとして暴行を加えたものというべきである
  • 従って、右暴行により傷害の結果を生ぜしめた行為につき。刑法240条を適用した原判決は正当である

と判示し、強盗傷人罪の成立を認めました。

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