違法性とは?
正当防衛を説明する前提として、違法性を説明します。
違法性とは、犯罪成立要件の1つです。
犯罪は、
- 構成要件該当性
- 違法性
- 有責性
の3つの要件がそろうと成立します。
(この点については、前の記事で詳しく書いています)
もし、殺人をしても、殺人行為に違法性が認められなければ、無罪となります。
この違法性が認められない条件(『違法性阻却事由』といいます)が、
- 正当防衛(刑法36条)
- 緊急避難(刑法37条)
- 法令行為(刑法35条)ex消防隊が消火活動のために家を壊しても建造物損壊罪にならない
- 正当業務行為(刑法35条)exボクシングの試合で人を殴っても暴行罪にならない
となります。
今回は、正当防衛について詳しく説明します。
正当防衛とは?
正当防衛とは、
急迫不正の侵害に対して、自分または他人を守るために、やむを得ずにした反撃行為
をいいます。
『自分に危険が迫っているときは、反撃して自分の身を守ることができる』ことが刑法に明確に規定されているのです。
正当防衛が成立すれば、反撃行為が殺人罪や傷害罪を構成しても、違法性が阻却され、犯罪を構成せず、処罰されずに済みます。
正当防衛の成立要件
正当防衛の成立要件は、
- 急迫不正の侵害がある
- 自己または他人を守るための行為である
- 防衛行為がやむを得ずにした行為である
ことの3点です。
1「急迫不正の侵害あること」について
急迫とは?
急迫不正の侵害の「急迫」とは、
侵害行為(法益侵害)が
- 現に存在する
- 目の前に差し迫っている
ことをいいます(最高裁判例S24.8.18)。
そのため、
- 侵害行為が終わった後に反撃した場合
は、侵害行為が現に存在する・差し迫っているとはいえず、正当防衛は成立しません。
この場合、ただのやり返し行為となり、相手にケガを負わせた場合は、傷害罪が成立します。
相手から足を殴られ、その侵害が去った後、相手の頭を殴って死亡させた事件において、正当防衛は成立しないとした判例があります(大審院判例S7.6.16)。
また、
- 将来の侵害(侵害されることを予想して攻撃に出た場合)
に対しても、侵害行為が現に存在する・差し迫っているとはいえず、正当防衛は成立しません。
口論となっていた知人から電話で路上に呼び出され、路上において、ハンマーで攻撃してきた知人を、殺意をもって包丁で刺し殺した事件において、
- 積極的に相手に加害行為をする意思で侵害に及んだときは、急迫性は認められず、正当防衛は成立しない
とした判例があります(最高裁決定H29.4.26)。
「不正」とは?
急迫不正の侵害の「不正」とは、
違法
という意味です。
つまり、違法行為に対する反撃行為であれば、正当防衛が成立します。
逆にいうと、適法行為に対する反撃行為については、正当防衛は成立しません(大審院判決S8.9.27)。
たとえば、正当防衛(適法行為)に対して反撃行為をしても、正当防衛は成立しません。
①犯人が被害者を殴りつける
⇩
②被害者は、自分を守るため、犯人に殴り返そうとする
⇩
③犯人が、殴り返してきた被害者をさらに殴り返す
という場合、③の正当防衛で殴り返してきた被害者を、犯人が殴る行為に正当防衛は認められないことになります。
「侵害」とは?
急迫不正の侵害の「侵害」とは、
実害や危険を生じさせる行為
をいいます。
侵害には、不作為による侵害も含みます。
たとえば、住居侵入を犯し、侵入した家から退去しない犯人を実力で家から引きずり出す行為を正当防衛とした判例があります(大阪高裁判決S29.4.20)。
2「自己または他人を守るための行為であること」について
防衛行為の相手
防衛行為は、犯人に向けられた行為である必要があることがポイントです。
防衛行為が犯人以外の者に向けられた場合、正当防衛は成立しません。
犯人の侵害行為と被害者の防衛行為は、対応していなければならないのです。
もし、防衛行為が犯人以外の者に向けられた場合は、正当防衛ではなく、緊急避難が成立します。
たとえば、犯人から包丁で刺されそになったので、逃げるために隣にいた友人を突き飛ばし、友人にケガをさせた場合、正当防衛ではなく、緊急避難が成立することで、傷害罪になりません。
防衛の意志
防衛行為には、「防衛の意思」が必要とされます(最高裁判例S46.11.16)。
「防衛の意思」がない防衛行為は、正当防衛とはなりません。
たとえば、ヤクザ2人が、お互いに拳銃を向け合って発砲した場合で、片方は銃弾が命中して死亡し、片方は銃弾が外れて生還した場合、生還したヤクザに正当防衛は成立しません。
「相手を殺ってやろう」という意思で拳銃を発砲しており、「防衛の意思」がないからです。
「防衛の意思」があれば、憤慨・憎悪の感情や攻撃の意思があっても、正当防衛は成立する
「防衛の意思」があれば、
- 憤慨・憎悪の感情
- 攻撃の意思
があっても、正当防衛は成立します。
裁判所は、「相手の加害行為に対し、憤慨または逆上して反撃を加えたからといって、直ちに防衛の意思を欠くものと解すべきではない」としています(最高裁判例S46.11.16)。
3「防衛行為がやむを得ずにした行為であること」について
「やむを得ずにした行為」といえるためには、
具体的事情の下において、防衛行為が、必要かつ相当なものであったこと
を要します。
これを「防衛行為の相当性」といいます。
防衛行為の相当性を超えた防衛行為は、過剰防衛となります。
「具体的事情の下」というのがポイントになります。
たとえば、素手で殴りかかってきた相手に対し、ナイフを使って反撃行為に出たら、防衛行為の相当性を欠き、過剰防衛になりそうです。
しかし、筋肉ムキムキの大男が、女性に素手で襲いかかってきたときに、女性がナイフで反撃行為に出るのは、正当防衛が認められる可能性があります。
「防衛行為の相当性」を判断するには、
- 法益の権衡(侵害行為と反撃行為が同程度のパワーバランスにある)
- 防衛行為の態様
の2つの要素から考える必要があります。
次回
次回は、「過剰防衛」、「誤想防衛」、「誤想過剰防衛」について説明します。
そのあとに、正当防衛と比べながら考えると理解しやすくなる「緊急避難」について説明します。