刑事訴訟法(公判)

訴因変更⑦~「訴因変更の手続の流れ(方法・時期)」「裁判所の訴因変更命令」「控訴審における訴因変更」などを説明

 前回の記事の続きです。

訴因変更の手続

 訴因変更(訴因の追加変更・撤回)の手続は、

  1. 検察官が、裁判官に対し、訴因変更を請求する
  2. 裁判所が、検察官が請求した訴因変更を許可する

という流れで行われます。

 裁判所が、検察官の訴因変更の請求なしに、職権で訴因変更をすることができない点がポイントです。

 訴因変更の手続の流れを以下で詳しく説明します。

訴因変更は、検察官が請求し、裁判所が許可する手続による

 訴因の追加・変更・撤回は、第一次的には、検察官の請求によってなされます(刑訴法312条1項)。

 訴因変更を行うのは検察官の権限であり、訴因変更を行う主体も検察官です。

 そして、検察官の訴因変更の請求に対し、裁判所の許可・不許可がなされます。

 検察官の訴因変更の請求は、裁判所の許可があって、初めて効力を生じます。

裁判所は、検察官の訴因変更の請求が「公訴事実の同一性」を害しないものであるときは、訴因変更を許可しなければならない

 裁判所は、検察官の訴因変更の請求が「公訴事実の同一性」を害しないものであるときは、訴因変更を許可しなければなりません。

 検察官が訴因変更を請求した場合に、裁判所が、訴因変更後の訴因について無罪の心証を抱き、訴因変更前の訴因について有罪の心証を抱いていた場合に問題となります。

 この問題については、最高裁は、当事者主義を強調して、上記のような場合にも検察官の訴因変更の請求を許可すべきであるとしています。

最高裁判決(昭和42年8月31日)

 裁判官は、

  • 刑訴法312条1項は、「裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。」と規定しており、また、わが刑訴法が起訴便宜主義を採用し(刑訴法248条)、検察官に公訴の取消を認めている(刑訴法257条)ことにかんがみれば、仮に起訴状記載の訴因について有罪の判決が得られる場合であっても、第一審において検察官から、訴因、罰条の追加、撤回または変更の請求があれば、公訴事実の同一性を害しない限り、これを許可しなければならないものと解すべきである

と判示しました。

略式裁判について訴因変更の必要がある場合

 略式裁判とは、検察官の請求により、簡易裁判所の管轄に属する(事案が明白で簡易な事件)100万円以下の罰金又は科料に相当する事件について、被疑者に異議のない場合、正式裁判によらないで、検察官の提出した書面により審査する裁判手続です。

 分かりやすく言うと、略式裁判とは、公開の法廷に裁判官、検察官、被告人が出頭して裁判を行うことなく、裁判所の書面審査により被告人に刑罰を科す手続です。

 略式裁判は裁判所による書面審査のみなので、略式裁判について訴因変更の必要があるとされた場合には、略式手続内で訴因変更を行うことができません。

 なので、裁判所は、略式不相当として事件を通常手続(公開の法廷に裁判官、検察官、被告人が出頭して裁判を行う正式裁判)に移した上で、検察官の請求・裁判所の許可により訴因変更を行うことになります(刑訴法463条)。

裁判所の訴因変更命令

 訴因変更は、一時的には検察官の請求によってこれをなすのが原則です。

 しかし、法は、二次的なものとして、裁判所も審理の経過に鑑み、適当と認めるときは、検察官に対して訴因の追加・変更を命じることができるとしています(刑訴法312条2項)。

 これは、訴因変更の要否について、裁判所と検察官の見解が相違した場合、検察官が訴因変更の請求をしないと、裁判所は訴因の拘束カによって無罪判決をせざるを得なくなるため、それを防ぐために裁判所にも訴因変更の命令権を与えたものです。

 なお、裁判所の訴因変更命令は、裁判所の権限ではありますが、義務ではありません。

 訴因は検察官が審判の対象を限定するものなので、裁判所としては、検察官が掲げた訴因の範囲内で審判すれば足り、その範囲を超えて審判する義務はないためです。

 また、裁判所が、検察官に対し、訴因変更命令を発しても、検察官がこの命令に従って訴因変更の手続を採らない限り、訴因変更の効力は生じません。

 これは、訴因変更は検察官の権限であるためです(最高裁判決 昭和40年4月28日)。

訴因変更の方法

訴因変更は、原則、書面で行うが、口頭でもできる

 検察官が訴因変更(訴因の追加、撤回、変更)を請求する場合は、その旨を記載した書面を裁判所に提出します(刑訴法規則209条1項)。

 そして、検察官は、訴因変更の書面を公判期日(公判が開かれる日)に公判廷において朗読します(刑訴法規則209条4項)。

 ただし、被告人が在廷する公判廷においては、裁判所の許可を受け、 口頭で訴因変更を請求することができます(刑訴法規則209条7項)。

訴因変更による公判手続の停止

 訴因変更によって、被告人の防御に実質的な不利益を生じるおそれがあると認めるときは、被告人又は弁護人の請求により、裁判所の決定で、被告人の防御の準備に必要な期間、公判手続が停止されます(刑訴法312条4項)。

訴因変更の時期

 訴因変更の時期については制限がありません。

 第一審であれば、公訴提起から結審に至るまでの間(判決言渡しの前まで)、いつでもできます。

 結審後に訴因変更を行う必要が生じた場合は、弁論(審理)を再開した上で行うことになります。

控訴審・上告審における訴因変更

控訴審で訴因変更は可能である

 控訴審(高等裁判所による審理)における訴因変更は、控訴審が「事後審」(一審判決の当否を一審判決の時点を基準として事後的に審査するもの)の構造であるため、訴因変更を否定する説もあります。

 しかし、判例は、控訴審裁判所が事実の取調べ(刑訴法393条)をして一審判決を破棄自判刑訴法400条)する場合には、「続審」の性格を持つことになるため、控訴審での訴因変更を肯定しています。

最高裁判決(昭和30年12月26日)

 裁判官は、

  • 控訴審が一審判決の当否を判断するため事実の取調を進めるにつれ、検察官から訴因変更の申出がある場合に、控訴裁判所は審理の経過に鑑み、訴訟記録並びに原裁判所(※一審の裁判所)及び控訴裁判所において取り調べた証拠によって原判決(※一審の判決)を破棄し自判しても被告人の実質的利益を害しないと認められるような場合においては、訴因変更を許すべきものと解するのが相当である

と判示しました。

上告審は訴因はできない

 上告審(最高裁判所による審理)は、法律審であるため、上告審での訴因変更はできません。

次回の記事に続く

 次回の記事では、

  • 起訴状の訂正(補正)
  • 起訴状の訂正(補正)と訴因変更の違い

を説明します。

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