盗品等に関する罪の客体
盗品等に関する罪(刑法256条)の客体(犯罪行為の対象となる物)は、
財産に関する罪に当たる行為によって領得された物
です。
現行の刑法では、盗品等に関する罪を財産罪に限ることを明らかにしています。
財産に関する罪(財産犯)とは、窃盗、強盗、横領(業務上横領、遺失物横領を含む)、詐欺、恐喝などが該当します。
判例では、盗品等に関する罪の客体の定義について
と判示し、財産犯によって得た物であることを示しています。
このほかの判例においては、
- 「贓物(盗品等)は不法に領得せられたる物にして被害者において返還を請求し得べきものを汎称する」(大審院判決 大正12年4月14日)
- 「贓物(盗品等)に関する罪の本質は、贓物を転々して被害者の返還請求権の行使を困難もしくは不能ならしめる点にある」(最高裁判決 昭和23年11月9日)
- 「贓物(盗品等)に関する罪は、被害者の財産権の保護を目的とするものである」(最高裁判決 昭和34年2月9日)
と判示し、盗品等に関する罪の客体は、財産罪に限るとの解釈が維持されています。
非財産犯によって得た物は、盗品等に関する罪の客体にならない
盗品等に関する罪の客体になるのは、財産犯に当たる行為によって領得された物です。
判例では、非財産犯によって得た物について、盗品等該当性を肯定した事例はなく、非財産犯については、盗品等該当性を否定しています。
例えば、
については、盗品等該当性を否定しています。
盗品等に関する罪の客体になる「物」とは?
盗品等に関する罪の客体になる「物」の性質について説明します。
1⃣ 「物」に限られ、財産上の利益は含まない
盗品等に関する罪の客体になる「物」は、「物」に限られ、財産上の利益(「物」に化体されていないもの)は含みません。
判例(福岡高裁判決 昭和27年1月23日)も、本罪の盗品等の定義について、
犯罪行為により領得した物件
としており、物に化体されていない単なる財産上の利益については、盗品等に当たらないという立場をとっています。
2⃣ 財物であること
盗品等に関する罪の客体(犯罪行為の対象となる物)は、
財産に関する罪に当たる行為によって領得された物
です。
なので、盗品等は、
財産犯の対象となる「財物」(電気を含む)
であることを要します。
財産犯の対象となった物に、財物性があれば、盗品等に関する罪の客体になり、同罪の成立が認められることになります。
この点について、以下の判例があります。
大審院判決(昭和19年12月19日)
この判例で、裁判官は、
- 贓物(盗品等)たるの、財産権の目的たり得る物なるをもって足り、敢えて財的価値を要せず
と判示して、大日本製紙原料商業組合の屑紙検査証紙につき、財物性を認め、盗品等に関する罪の成立を認めました。
この判例で、裁判官は、
- 本件小切手は純然たる反古ではなく、所有権の目的となり得る財物と認められる
と判示し、支払呈示期間経過後の線引小切手に財物性を認め、盗品等に関する罪の成立を認めました。
このほかの判例で、
- 貸金証書(大審院判決 大正3年3月23日)
- 株券(大審院判決 大正3年2月21日)
についても、財物性を認め、盗品等であると認めています。
そもそも、まず最初に、財物性については、本犯の窃盗罪等で検討されます。
そこで財物性が認められれば、盗品等に関する罪においても、財物性が認められることになります。
本犯で財物性が認められなければ、盗品等に関する罪においても、財物性が否定されることになります。
3⃣ 領得された物
盗品等に関する罪の客体になる「物」は、
財産罪によって、領得された物
であることが必要です。
ここにいう「領得」とは,「直接」得た場合を意味します。
なので、領得していない(直接得ていない)財物を有償で譲り渡すなどしても、盗品等に関する罪は成立しません。
具体例は以下のとおりです。
データやコピー
会社の機密資料を撮影したり、持ち出してコピーした場合の撮影データやコピーは、盗品等に関する罪における盗品等に当たりません。
それら写真データやコピーを譲り受けても、盗品等に関する罪は成立しません。
背任罪によって得た財物
背任罪(刑法247条)は、財産犯ですが、領得罪ではありません。
なので、背任罪によって得た財物を、有償で譲り渡すなどしても、盗品等に関する罪は成立しません。
4⃣ 盗品等に関する罪の犯人自身の物
犯人自身の物についても、その物を他人が占有している場合は、財産罪が成立する場合があります(刑法242条、251条、252条2項)。
たとえば、犯人が所有する車でも、その車を友人に借金の担保のために貸している場合に、犯人自身がその車を盗めば、犯人所有の車だとしても、友人管理の車を盗んだとして、窃盗罪が成立します。
このように、犯人自身の物についても、盗品等であることが認められれば、盗品に関する罪の客体になり得ます。
犯人自身の物でも、盗品等であると認められれば、その物を、窃盗罪などにより取得した犯人から、譲り受け、運搬、保管し、有償処分のあっせんをすれば、盗品等に関する罪が成立します。