構造物の一部を分離して窃取する場合に、窃盗罪が既遂に達する判断基準を示した判例
前回の記事の続きです。
構造物の一部を窃取する目的で、その構造物から目的部分を分離した場合、その時点で窃盗の既遂が認められる判例の傾向があります。
以下は、それを示した判例です。
名古屋高裁判例(昭和28年3月31日)
砲金製暖房機の構成部分品を、金切のこぎりで切断分離した場合、その時点で窃盗の既遂となる。
他人所有の物件の定着物やその構成部分を不法に領得する意思をもって、これを切断分離した以上、これをもって、分離させられた定着物・部分に対する他人の支配を排除して、これを自己の支配内に移したものと解する。
札幌高裁判例(昭和29年4月20日)
神社の屋根に敷いてある銅板50~60枚を、のみを用いて剥ぎ取り、地上におろして積み重ね、ひとくくりにした場合、窃盗は既遂となる。
大審院判例(大正12年2月28日)
土地に定着した他人所有の樹木を伐採し、未だ搬出しない場合でも、窃盗は既遂となる。
窃盗の既遂が認められた特殊な事案の判例
窃盗の既遂が認めらた特殊な事案の判例として、以下のものがあります。
大審院判例(大正12年7月3日)
他人の家の浴場で、他人が遣留した金製の指輪を発見し、領得の意思で、一時的に浴室内の他人の容易に発見し得ない隙間の箇所に隠匿した場合、窃盗の既遂となる。
鉄道線路の地理現場の事情に精通している鉄道機関助手が、進行中の貨物列車から積荷を突き落とし、後ほどその場所に戻って拾う計画のもとに、予定の地点で積荷を列車から突き落とした場合、窃盗の既遂となる。
鉄道線路の地理現場の事情に精通していると認められる鉄道機関士である被告人が、目的の地点で積荷を列車外に突落した本件においては、特別の事情の認められない限り、その目的の地点に積荷を突落したとき、その物件は他人の支配を脱して被告人の実力支配内に置かれたものと見ることができる。
駅職員の監視可能な線路敷地内であっても、共犯者が投下貨物を機を逸せず他に持ち去るべく予定の時刻場所に待機しているときに、進行中の貨物列車から予定地に向かって積載貨物を蹴落とした場合、窃盗は既遂となる。
貨物を蹴落したその瞬間に、その貨物は国鉄の支配を脱し、被告人らの実力支配内に置かれたものと見ることができる。
東京高裁判例(昭和31年1月30日)
磁石を用いてパチンコ玉を当たり穴から取得した場合、窃盗は既遂となる。
東京高裁判例(昭和28年5月26日)
泥酔者を介抱するように装い、その靴を脱がせ、腕時計をはずした場合、窃盗は既遂となる。
大審院判例(大正3年10月24日)
ガスを盗むため、屋外管の末端と室内管とをゴム管で接続し、室内管にガス用コンロを取り付けた場合、窃盗は既遂となる。
その際のガスの使用は、盗品等の処分行為として不可罰的事後行為であり、その後はガスを使用する都度、室内管に新たにガスが流入してくるので、その都度、窃盗罪が成立し、これらは連続犯となる。
東京高裁判例(平成5年2月25日)
フェンスで囲まれた工事現場内に立ち入り、自動販売機の扉の錠を破壊してコインホルダーを取り出したが、その際、警備員が犯行を目撃し、侵入口とは別のゲートに施錠し、犯人の気づかないうちに警察官に通報していた場合、窃盗は既遂である。
東京地裁判例(平成3年9月17日)
パチスロ機のメダル投入口に器具を挿入し、メダルを機械から排出させた場合、窃盗は既遂となる。