刑法(脅迫罪)

脅迫罪(1) ~「脅迫罪とは?」「脅迫罪と憲法21条(表現の事由)との関係」「脅迫罪を要素とする犯罪」「脅迫の概念」「脅迫罪における脅迫行為には『加害の告知行為』が必要」を判例で解説~

 これから複数回にわたり脅迫罪(刑法222条)について解説します。

脅迫罪とは?

 脅迫罪は、刑法222条に規定があり、

  1. 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する
  2. 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする

と条文で定められています。

 脅迫罪は、相手方(1項)又はその親族(2項)の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し、害を加える旨を告知して人を脅迫する罪です。

脅迫罪と憲法21条(表現の自由)との関係

 脅迫罪は、いわゆる表示犯であり、一定の害悪の告知という人の表現活動自体を処罰する犯罪です。

 したがって、わいせつ罪名誉毀損罪侮辱罪などと並んで、憲法21条の保障する表現の自由と深い関わりを有します。

 脅迫罪で人を処罰することが、憲法21条の表現の自由に反しないことは、判例で示されています。

最高裁判決(昭和33年4月22日)

 この判例で、裁判官は、

  • 脅迫罪は、公共の福祉を害し、憲法の保障する言論、表現の自由の限界を逸脱する行為であるから、これを処罰しても憲法21条に違反しない

旨判示しました。

最高裁判決(昭和29年6月8日)

 この判例で、裁判官は、

  • 憲法21条に定める言論の自由の保障といえども無制限なものではなく、公共の福祉に反する限度においては制約を受けるものである

と判示し、憲法21条は公共の福祉の制約を受けるものなので、憲法21条が脅迫罪の成立を妨げない旨を示しました。

最高裁判決(昭和34年7月24日)

 この判例で、裁判官は、

  • 憲法21条は、公共の福祉に反する限度においては制約を受けるものである
  • 脅迫罪において害悪の告知が明白にして現在せる危険を内包するものであることは同罪の成立に必要な要件ではない

旨判示し、表現の自由に関する明白かつ現在の危険理論(人の表現の自由を処罰できるのは、明白にして差し迫った危険が存する場合にかぎるとする理論)は、脅迫罪の成立に必要となる要件にならないことを明示しました。

脅迫罪を要素とする犯罪

 脅迫を構成要件要素とする刑法犯は

など多数あります。

 脅追罪(刑法222条)は、脅迫行為自体を罰する最も一般的な犯罪になります。

 特別刑法上の脅迫罪としては、

などがあります。

脅迫の概念

 脅迫とは、一般的にいえば『人に畏怖心を生じさせるに足りる害悪を告知すること』です。

 脅迫は、解釈上、脅迫を構成要件要素とする各犯罪の性格の相違に基づく相対的な概念とされます。

 脅迫の概念は、

  1. 広義における脅迫
  2. 狭義における脅迫
  3. 最狭義における脅迫

の3種類に大別されます。

① 広義における脅迫

 「広義における脅迫」の概念は、

人に畏怖心を生じさせるに足りる害悪を告知する行為の一切を意味し、その害悪の内容、性質、告知の方法のいかんを問わず、また、それによって相手方が畏怖心を生じたかどうかにかかわらない

とする概念です。

 恐喝罪刑法249条)、公務執行妨害罪刑法95条1項)、職務強要罪刑法95条2項)、逃走援助罪刑法100条2項)の手段としての脅迫が、「広義における脅迫」に当たります。

 騒乱罪刑法106条)と内乱罪刑法77条)における暴動の内容としての脅迫も、集団犯罪としての特殊性を持つところですが、原則的には、「広義の脅迫」に当たるとされています。

② 狭義における脅迫

 「狭義における脅迫」は、

告知される害悪の種類が特定され、あるいは畏怖心を生じた相手方が一定の作為不作為を強制されることなどが要件とされる脅迫

です。

 脅迫罪(刑法222条)及び強要罪刑法223条)における脅迫が「狭義における脅迫」に当たります。

③ 最狭義における脅迫

 「最狭義における脅迫」は、

相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の畏怖心を惹起するものであることを要する脅迫

です。

 強盗罪刑法236条)、事後強盗罪刑法238条)、 強制性交等罪刑法177条)、強制わいせつ罪刑法176条)の脅迫が「最狭義における脅迫」に当たるとされています。

 このように、脅迫の概念が3種類に大別されるのは、脅迫を手段とする犯罪によって、脅迫の程度の違いが異なるためです。

(※ この3種類の脅迫の概念は、大別なので、全ての脅迫がこの3種類に必ず当てはまって仕分けできるというものではありません)

 たとえば、強盗罪事後強盗罪の手段としての脅迫は、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度に強度のものでなければならなりません。

 これに対して、強制性交等罪の手段としての脅迫は、相手方の抵抗を著しく困難にする程度のものであれば足り、必ずしもその反抗を抑圧するに足りるものであることを要しません。

 これは、強制性交等罪の法益である被害者の性的自由を十分に保護するためには、財産を法益とする強盗罪との間に差異が認められるべきだからです。

 このように、脅迫が手段として構成要件要素となっている犯罪ごとに、脅迫罪における脅迫概念を基本におきつつ、保護法益、罪質などを考慮して、それぞれの罪における脅迫の概念が定められるべきとされます。

脅迫罪における脅迫行為には『加害の告知行為』が必要

 脅迫罪(刑法222条)の構成要件的行為としての脅迫は、上記の3種類の脅迫の概念のうち、「②狭義の脅迫」に当たります。

 脅迫罪における脅迫を定義すると、

相手方又はその親族の生命、身体、 自由、名誉又は財産に対し、人を畏怖させるに足りる害を加える旨を告知すること

となります。

 脅迫罪における脅迫行為には、『加害の告知行為』の存在が必要です。

 加害の告知行為が、明示ではなく、暗示にとどまる場合でも、態度で示す場合でも、告知行為と評価できれば、恐喝罪の成立を認めることができる加害の告知行為になります。

 しかし、単に自己の地位権勢を示すだけで、加害の告知が全くない場合には、仮にそれにより相手方が何らかの畏怖心を抱いたとしても、脅迫罪は成立しません。

 この点で、恐喝罪における恐喝よりも、脅迫罪における脅迫行為の認定は、条件が限定的になっています。

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