刑法(脅迫罪)

脅迫罪(15) ~「告知する加害は未然のものであることを要する」「既に加害が行われていても、将来に継続する加害の告知になれば、脅迫罪の成立が認められる」を判例で解説~

告知する加害は未然のものであることを要する

 脅迫罪(刑法222条)は、加害行為がありうることを告知し、意思の自由を危険にさらす犯罪です。

 なので、刑法222条の条文に記載されるとおり、「害を加える旨」の告知であることを要するため、加害は未然のものであることを要します。

 裏を返すと、単に過去の加害行為の告知にすぎない場合は、脅迫罪は成立しません。

 参考になる判例として、次のものがあります。

大審院判決(大正7年3月11日)

 脅迫の手段として放火を偽装したという事案で、裁判官は、

  • 被告のなしたる放火の偽装は、Sに対し、放火すべし もしくは放火されるべしとの未然の通告たるや、はたまた同人に対する事後の通告に止まるや、判示すこぶる不明にして、これを前者なりと解するは、犯罪を構成するも、これを後者なりとすれば、無罪となさざるべからず

と判示し、脅迫内容が、未然の通告であれば脅迫罪が成立し、事後の通告に止まる場合は脅迫罪は成立しないことを明示しました。

既に加害が行われていても、将来に継続する加害の告知になれば、脅迫罪の成立が認められる

 害悪の告知の内容が、既に加害が行われている過去の加害行為の一面があったとしても、将来に向かって継続する加害の告知の一面もあれば、脅迫罪の成立が認められます。

 たとえば、村八分における共同絶交の通告が脅迫罪に該当する事案について、既に共同絶交したという加害が行われており、脅迫内容は、過去の加害行為の告知に過ぎないという見方もできます。

 しかし、既に行われている共同絶交が、将来に向かって更に継続するという将来の加害といえる面もあるので、将来にわたって絶交するとの意思表示を重視し、将来の加害といえるため、脅迫罪の成立を認めることができるとなります。

 参考となる判例として、次のものがあります。

大審院判決(昭和9年3月5日)

 この判例で、裁判官は、

  • 村八分の決議をなすは、人の人格を蔑視し、共同生活に通ぜざる一種の劣等者をもって待遇しようとするものにして、その名誉毀損し、右決議を通告するは、将来、引き続き、相手方に対し、不名誉の待遇をなそうとする害悪の告知にほかならずして、脅迫罪を構成する

と判示し、共同絶交の通告は、現在の名誉の毀損と将来にわたる名誉の毀損を合わせて考慮し、脅迫罪が成立するとしました。

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