前回の記事の続きです。
移送の裁判
終局裁判の種類は、
に分けられます。
刑事訴訟法などの訴訟法上において「裁判」とは、
裁判所又は裁判長・裁判官の意思表示的な訴訟行為
をいいます。
一般的には、刑事事件の公判手続などの訴訟手続の全体を指して「裁判」ということが多いですが、訴訟法上は、訴訟手続の中の、裁判所又は判長・裁判官の意思表示的訴訟行為だけを「裁判」といいます。
この記事では、移送の裁判について説明します。
同等裁判所間での移送
裁判所は、管轄権を有する事件であっても、適当と認めるときは、 検察官若しくは被告人の請求により、又は職権で、決定をもって、事件を事物管轄を同じくする他の管轄裁判所に移送することができます(刑訴法19条)。
「事物管轄を同じくする他の管轄裁判所に移送できる」とは、例えば、
- 東京簡易裁判所から横浜簡易裁判所への移送
- 東京地方裁判所から横浜地方裁判所への移送
- 東京高等裁判所から横浜高等裁判所への移送
のように、簡易裁判所間での移送、地方裁判所間での移送、高等裁判所間での移送ができることを意味します。
簡易裁判所から簡易裁判所へ、地方裁判所から地方裁判所へというように、
同等裁判所間での移送
が刑訴法19条で認められています。
同等裁判所間での移送は、
公訴の提起を受けた裁判所で審判するよりも、他の管轄裁判所で審判した方が、審理や被告人の防御に便宜である場合
になされます。
例えば、被告人の住居地を管轄する裁判所に起訴された事件を、被害者の証人尋問や現場検証などに便利な犯罪地を管轄する裁判所に移送するような場合に同等裁判所間での移送が行われます。
証拠調べを開始した後は、移送できない
同等裁判所間での移送は、審理で証拠調べを開始した後は移送できません(刑訴法19条2項)。
これは、
- 審理を開始した以上は、その裁判所で審判する意思が表明されたものとみなされること
- いつまでも移送できることにすると事件が不安定な状態に置かれ、適当でないこと
が理由です。
地方裁判所から簡易裁判所に移送することはできない
移送先は、同等・同種の裁判所でなければなりません。
なので、地方裁判所から簡易裁判所に移送することはできません。
(なお、簡裁から地裁への移送に移送できることについては後ほど説明します)
地方裁判所の本庁・支部間の移送はできない
刑訴法19条の移送は、他の管轄裁判所に移送ができるとするものです。
なので、
- A地方裁判所の本庁からA地方裁判所のB支部への移送
- A地方裁判所のC支部からA地方裁判所のD支部への移送
はできませんし、検察官、被告人には、移送を請求する権利もありません。
例えば、東京地方裁判所から東京地方裁判所立川支部に移送はできません。
例えば、横浜地方裁判所川崎支部から横浜地方裁判所小田原支部に移送はできません。
この点につき、参考となる裁判例として以下のものがあります。
東京高裁判決(昭和36年6月24日)
地裁支部と本庁間の事件移送請求の適否について判示した事例です。
裁判官は、
- 地方裁判所支部は、裁判所の管轄については本庁の一部であって本庁より独立して管轄を有しないのであるから、刑事訴訟法第19条の移送に関する規定は、地方裁判所支部とその本庁との間にはこれを適用するに由なく、支部に係属する事件を本庁において審判するを相当と認めるときは裁判所裁判所の事務処理規程によって処理すべきである
- されば、横浜地方裁判所小田原支部に係属中の本件被告事件について、申立人よりなされた横浜地方裁判所への移送請求は不適法であること明瞭であって、これを却下した原決定(※一審の裁判官の決定)は正当である
と判示しました。
簡裁裁判所から地方裁判所への移送
簡易裁判所は、管轄権を有する事件であっても、地方裁判所で審判するのを相当と認めるときは、決定で事件を管轄地方裁判所に移送しなければなりません(刑訴法332条)。
刑訴法332条の移送は、簡易裁判所が地方裁判所と競合して事物管轄を持っている事件について、簡易裁判所に公訴が提起されたものの、
などの理由で、地方裁判所で審判するのが適当と認められる場合に行われます。
移送時期に制限はない
刑訴法332条の簡裁から地裁への移送は、刑訴法19条の同等裁判所間での移送と異なり、移送時期に制限はなく、審理のどのタイミングでも移送することができます。
移送先の地方裁判所は、土地管轄と事物管轄がなければならない
移送先となる地方裁判所は、その事件について土地管轄と事物管轄がなければなりません。
法定刑が罰金刑しかない事件は、地方裁判所には事物管轄がない(簡易裁判所のの専属管轄)なので、この事件を簡易裁判所から地方裁判所に移送することはできません。
移送側の簡裁にも、土地管轄と事物管轄がなければならない
移送側の簡易裁判所にも、土地管轄と事物管轄がなければなりません。
例えば、失火罪(刑法116条)の訴因(失火罪は罰金刑のみであり、簡易裁判所の専属管轄)で簡易裁判所に起訴したが、審理の途中で放火罪である疑いが生じた場合には、簡易裁判所は、放火罪については事物管轄を有しないため、刑訴法332条により事件を地方裁判所に移送することはできず、この場合、簡易裁判所は管轄違いの判決をすることになります。
次回の記事に続く
次回の記事では、
免訴の裁判
を説明します。