前回の記事の続きです。
公判期日外の証拠調べ(「期日外尋問」と「裁判所による現場検証」)
公判において、検察官、弁護人又は被告人が証拠を裁判官に提出し、裁判官がその証拠を取り調べる手続を「証拠調べ手続」といいます(詳しくは前の記事参照)。
証拠調べ手続は、直接主義、口頭弁論主義、公開主義に基づき公判を行う要請から、公判期日(公判が開かれる日)に行うのが原則です。
しかし、例えば、
- 証人が病気のため公判期日に裁判所に出頭できず、証人尋問を行えない場合
- 裁判所が主導して犯行現場を検証する場合
のように、公判期日に証拠調べを行うことができない場合があります。
そこで、刑事訴訟法は、公判期日外(公判が開かれる日ではない日)に証拠調べを行うことを認めています。
①の場合につき、公判期日外に証人の尋問を行うことを「期日外尋問」といいます。
②の場合につき、裁判所による現場検証は全て公判期日外の証拠調べとして行われることになっており、これを「裁判所による現場検証」と呼びます。
公判期日外における証拠調べ(「期日外尋問」、「裁判所による現場検証」)は、公判期日における証拠調べの準備(これを「公判準備」といいます)として行われるものとして整理されるので、その結果を書面に記載し、その書面を公判期日に改めて取り調べることになります(刑訴法303条)。
この記事では、「裁判所による現場検証」について説明します(「期日外尋問」は、前回の記事で説明しています)。
裁判所による現場検証
裁判所による現場検証は、その性質上、全て公判期日外の証拠調べとして行われます。
つまり、現場検証は、公判の日に行わず、公判の日ではない日に行われるということです。
現場検証は、検証(刑訴法128条)なので、強制処分に属し、捜査機関(検察官、警察官)が検証を行う場合は、裁判所から強制処分を許可する令状(検証令状)を発付してもらう必要があります。
しかし、裁判所が行う現場検証は、検証令状の発付権者である裁判所が自ら行うものであり、自らに対し強制処分を許可する令状(検証令状)を発付する必要はないため、現場検証を行うのに令状は必要ありません。
【補足説明】裁判所が行う検証の種類
検証とは、物、身体、場所の存在・形状・性質を五官の作用により感得することをいいます。
検証の対象は、
- 物
- 身体
- 場所
です。
裁判所による「物」に対する検証は、証拠物を取調べることが該当します。
裁判所による「身体」に対する検証は、被告人や証人の身体検査が該当します(刑訴法131条、132条)。
裁判所による「場所」に対する検証は、現場検証が該当します。
検証は、公判期日においても公判期日外においても、また裁判所内においても裁判所外においても行うことができます。
ただし、現場検証については、その性質上、公判期日外、裁判所外で行われます。
検察官、被告人、弁護人の現場検証への立会い
検察官、被告人又は弁護人は、現場検証に立ち会う権利があります(刑訴法142条、113条1項本文)。
検察官、被告人又は弁護人の立会いは要件ではないので、検察官、被告人又は弁護人は、現場検証に立ち会わないことができます。
ただし、身体の拘束を受けている被告人(勾留されている被告人)に立会権はなく、裁判所が必要と認めた場合に立ち会わせることができるにとどまります(刑訴法142条、113条1項ただし書・3項)。
その代わり、裁判所は、原則として、事前に現場検証の日時・場所を検察官、被告人又は弁護人に通知しなければなりません(刑訴法142条、113条2項)。
裁判所による現場検証を行うことができる裁判官
裁判所による現場検証は、公判を主催する裁判所の裁判官が行うことができることはもちろん、他の裁判所の裁判官に委託して行わせることができます(刑訴法142条、125条)。
他の裁判所の裁判官とは、検証現場を管轄する裁判所の裁判官が挙げられれます。
例えば、状況として、東京地裁の事件で、検証現場が鹿児島県だった場合、東京地裁の裁判官が鹿児島県に行くのは大変なので、鹿児島地裁の裁判官に現場検証を委託することが考えられます。
検証現場への一般人の立入り禁止
現場検証に当たっては、一般人の立人りを禁止することができます(刑訴法142条、112条)。
また、検証終了まで場所を閉鎖することができます(刑訴法142条、118条)。
検証現場への責任者の立会い
公務所、人の住居、建物などを検証する場合には、責任者(住居主、看守者等)を立ち会わせることが必要となります。
立ち会わせる責任者がいない場合は、建物の隣人や地方公共団体の職員を立ち会わせなければならりません(刑訴法142条、114条)。
検証調書の作成
現場検証を行ったら、検証調書が作成されます(刑訴法規則41条、42条)。
作成された検証調書は、公判の日に、証拠書類として裁判官の職権で取調べが行われ、問題がなければ、証拠として採用されます(刑訴法303条)。
裁判所による検証調書は、刑訴法321条2項後段により証拠能力(証拠として採用できる資格)が認められます。