証人尋問とは?
まずは、第1回公判期日前の証人尋問ではなく、通常の証人尋問について説明します。
証人尋問とは、
刑事事件の裁判において、公判廷で、裁判官・検察官・弁護人が、証人に対し質問をして、証人から事件に関する供述を得て、その供述を犯罪事実を認定する証拠とする証拠獲得手段
です(刑訴法304条)。
証人になるのは、主に、犯罪の被害者や目撃者です。
証人尋問が行われるケースを説明します。
たとえば、犯人が
「自分は犯罪をやっていない!無罪だ!」
などと犯行を否認し、犯罪被害者や目撃者の供述調書に記載されている供述内容に異議を申し立てたとします。
すると、供述調書が犯罪を認定するための証拠として使えなくなるので、被害者や目撃者は、証人として、直接、裁判に出廷し、裁判官の面前で、事件に関する話をする必要が生じます。
そうなったときに、証人尋問が行われます。
このような流れになるので、証人尋問は、
事件が起訴されて、裁判になってから
行われるのが通常です。
第1回公判期日前の証人尋問とは?
上記の通常の証人尋問に対し、
事件が起訴された後、第1回公判期日前の公判の日ではない日
に行われる証人尋問があります。
この事件が起訴された後、第1回公判期日前の公判の日ではない日に行われる証人尋問を
第1回公判期日前の証人尋問
といいます。
第1回公判期日前の証人尋問が必要となる状況
第1回公判期日前の証人尋問は、犯罪事実を証明する供述ができる者(たとえば、犯罪の被害者や目撃者)が、
- 捜査機関の取調べに応じず、出頭や供述を拒んだ場合
- 裁判において、前にした供述と異なる供述をするおそれがある場合
『① 捜査機関の取調べに応じず、出頭や供述を拒んだ場合』を詳細説明
まず前提として、証人尋問とは、裁判官が行う強制処分です。
なので、裁判官から証人として裁判に呼び出された場合、証人は裁判への出廷を断ることができません。
証人出廷を断った場合は、証人は、罰金に処されたり、勾引されて強制的に裁判の場に連れ出されることになります(刑訴法150条、151条、152条)。
このような強制力があるからこそ、第1回公判期日前の証人尋問が行われるといっても過言ではありません。
第1回公判期日前の証人尋問を行うことで、
捜査機関の取調べに応じず、出頭や供述を拒んだ『犯罪事実を証明する供述ができる者』の供述を獲得することができる
のです。
善良な一般人である被害者や目撃者を強制的に裁判の場に連れ出すというのは、かなり強引です。
しかし、そうでもしないと、たとえば、連続殺人を犯した犯人を有罪認定できず、犯人を何のおとがめもなく社会に戻すことになるため、社会の治安が守られません。
なので、証人出廷は、勤労の義務、納税の義務と同様に、国民の義務となっているのです。
『② 裁判において、前にした供述とは異なる供述をするおそれがある場合』を詳細説明
たとえば、傷害事件の公判において、被告人が暴力団の組長で、証人の立場にある被害者が、その暴力団の組員だったとします。
すると、被害者は、公判廷においては、暴力団の組長である被告人からの仕返しをおそれて、「組長に殴られてけがをした」などの被告人に不利になる供述ができないかもしれません。
このようなケースが、『裁判において、前にした供述とは異なる供述をするおそれがある場合』に当たります。
第1回公判期日前の証人尋問は、被告人を証人尋問に立ち会わせないこともできます(刑訴法228条2項)。
なので、第1回公判期日前の証人尋問は、被告人が公判廷にいない状況下で、証人の証人尋問を行うことができ、それゆえ、公判廷における証人の信用性のある供述を獲得しておくことができるのです。
ちなみに、第1回公判期日前の証人尋問に、被疑者と弁護人を立ち会わせなくても、憲法37条の『刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられる』という規定に反しないことは、最高裁判例(昭和27年6月18日)で示されています。
この判例で、裁判官は、
- 刑訴法228条2項において、「裁判官は、捜査に支障を生ずる虞がないと認めるときは、被告人、被疑者又は弁護人を前項の尋問に立ち会わせることができる。」と規定して、同条の証人尋問に被告人、被疑者又は弁護人の立会を任意にしたからといって、憲法37条に反するものではない
と判示しています。